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1.お姉様と国王暗殺未遂事件
1.お姉様と前世
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前世で俺は男だった。
向こうの記憶はかなりはっきり残っているし、名前だって覚えてる。水川ミナトってのが「あちらの世界」での俺の名前。
俺が住んでいたのは日本と呼ばれる、こことは景色も文化も全然違う国で、俺はそこで男子高校生だった。
男子高校生だったとは言っても、生まれつき心臓が悪く、入退院を繰り返していたからそんなに学校には通っていない。
その代わり病室ではいつも、強くてカッコいい主人公が活躍する漫画を読んだり、勇者が魔王を倒すRPGゲームをしたり、そんなことばかりしていた記憶がある。
俺は小さい頃のことを思い出した。
「やっほー、ミナトくん、今日は新作のゲーム持ってきたんだ。あ、それとも『カラテ勇者』の新刊のほうがいいかな」
太陽のように晴れやかな笑顔。
「萌香もえか姉さん!」
幼馴染みの萌香もえか姉さんは、そんな僕が退屈しないようにと、いつもライトノベルやマンガ、ゲームを沢山持ってお見舞いに来てくれた。
おかげで長く続く入院生活だったが、退屈だったという記憶はない。俺のマンガやアニメ、ゲームといったオタク趣味は、ほとんどこの人の影響と言っていい。
「おーっ、カラテ勇者カッコイイ!」
「チートなしで物理で相手をひたすら倒していくのが男らしくていいのよね」
「カラテパンチ! カラテキック!」
「あははー、上手い上手い」
カラテ勇者の真似をする僕に、萌香姉さんが微笑む。
隣の家に住む萌香姉さんは、親同士の仲が良かったせいか、昔からよく面倒を見てくれた。
昔から内気で体も弱く、女の子みたいだとからかわれていた俺をかばって、よく男の子と喧嘩していたっけ。
「こらーっ、おまえたち、ミナトくんを虐めるんじゃなーい!」
「だってコイツ、ナヨナヨしてんだもん!」
「弱い者イジメをするなんて、それでも男かーっ!」
そう言って、いじめっ子の男子三人を一人で追い払ってしまう萌香姉さん。強い人だった。かっこよくて強いお姉さん、それが萌香姉さん。
「俺、大人になったらカラテ勇者みたいに、もっと強く男らしくなって、いつか萌香姉さんを守ってやるんだ!」
「はははー楽しみにしてるぞ」
遠い昔の、だけど俺にとっては大事な記憶。
だけれども、その小さい頃からの目標を達成することはできなかった。
高校生になった頃から病状はどんどん悪化し、そして十六歳の夏、俺の心臓は限界を迎えたのだ。
「ミナトくん……ミナトくーん!!」
大好きな萌香姉さんの呼び声。ありったけの力を振り絞ってまぶたを開けると、目に涙を溜めた萌香姉さんが俺の手を握っている。
ああ、気の強い萌香姉さんがこんなに悲しそうにしている。俺は何をしているのだろうか。強くなりたいと、この人を守ってあげたいと、心に誓ったはずなのに。
萌香姉さんの手を、力の入らない手で精いっぱい握り返す。
「ミナトくん!」
「大丈……夫……生まれ変わ……勇……に……」
大丈夫だから、泣かないで。きっと生まれ変わったらあの漫画の勇者みたいに強くて、萌香姉さんみたいに優しい男になって、そしてまた君に会いに行くから。そう、言ったつもりだった。
「うん、そうだね……ミナトくんはあの漫画やラノベみたいに異世界に転生して、最強の勇者になるんだね……きっとなれるよ!」
うーん、ちょっと俺の意図と違う気がする。
ちょっとというか、かなり違う。
でも訂正する気力もないし、異世界に転生して勇者になったんだって思ったほうが萌香姉さんも気が楽だろうしな。うん、そういうことにしよう。
俺は異世界で勇者になった自分を想像する。そうだな。今と全く違う世界で暮らすっていうのも考えてみれば悪くないかもしれない。
生まれ変わりってあるんだろうか。あるのだとしたら、今度はもっと強い体に生まれたい。
ああ、神様。どうか来世は誰よりも強く、男らしく、大切な人を守れる勇者に……
胸の痛みが嘘みたいに楽になる。暖かな光が辺りを包む。そして――
【あなたの願い、聞き届けました】
見知らぬ女性の声。
え? 誰だ? 誰の声だ?
【私は現在修行中の見習い女神。女神としての徳を積むため、若くして亡くなった不幸な子供たちの望みを叶えているのです】
え、マジ? 女神?
俺は異世界に行けるのか!?
しかも、来世がどうなるのか決められるって?
【はい、そうです。来世は、望み通り強い体にしましょう。あなたは異世界に転生し、誰よりも強い肉体を手に入れます。他に要望はありますか?】
えーと、じゃあ、せっかくだから金持ちがいいな。
異世界だから王様もいるだろうし、貴族とか王族の高貴な生まれだったらいいな。
それから、出来れば外見は整ってたほうがいいな。それで女の子にモテモテに……ってそれはさすがに贅沢すぎか。
【承知致しました。来世は金持ち。美しい外見で数多くの女性をとりこにするでしょう】
ええっ!? そんな願いまで聞き届けられるの!?
【他に何か要望はありますか?】
えーと、とりあえず他に思いつかないからそんな感じかな。というかスペックが贅沢すぎてちょっと恐縮するというか。すみません、それでいいです!
【かしこまりました。条件に合う体を探しておきます。良い来世を】
再び強い光が俺を包む。
浮遊感とともに、俺は自分の魂が今とは違う世界に来たのを感じていた。
いよいよ新たな人生の始まりだ。最高スペックの体に転生して、俺は強くてカッコイイ最強の勇者に――
「……って、あれ?」
俺は困惑した。
だって俺は、強くてカッコよくてモテモテで――望み通りの体に転生したはずでは?
だけど鏡に映るのは、フリルやレースを贅沢にあしらったピンク色のドレス。白く透き通る肌にエメラルドのような大きく輝く瞳。煌めく金の髪――
目を覚ますと、俺はどういうわけか、萌え萌えの金髪幼女に転生していたのだから。
んん? 思ってたのと、ちょっと……いや、かなり違うな??
向こうの記憶はかなりはっきり残っているし、名前だって覚えてる。水川ミナトってのが「あちらの世界」での俺の名前。
俺が住んでいたのは日本と呼ばれる、こことは景色も文化も全然違う国で、俺はそこで男子高校生だった。
男子高校生だったとは言っても、生まれつき心臓が悪く、入退院を繰り返していたからそんなに学校には通っていない。
その代わり病室ではいつも、強くてカッコいい主人公が活躍する漫画を読んだり、勇者が魔王を倒すRPGゲームをしたり、そんなことばかりしていた記憶がある。
俺は小さい頃のことを思い出した。
「やっほー、ミナトくん、今日は新作のゲーム持ってきたんだ。あ、それとも『カラテ勇者』の新刊のほうがいいかな」
太陽のように晴れやかな笑顔。
「萌香もえか姉さん!」
幼馴染みの萌香もえか姉さんは、そんな僕が退屈しないようにと、いつもライトノベルやマンガ、ゲームを沢山持ってお見舞いに来てくれた。
おかげで長く続く入院生活だったが、退屈だったという記憶はない。俺のマンガやアニメ、ゲームといったオタク趣味は、ほとんどこの人の影響と言っていい。
「おーっ、カラテ勇者カッコイイ!」
「チートなしで物理で相手をひたすら倒していくのが男らしくていいのよね」
「カラテパンチ! カラテキック!」
「あははー、上手い上手い」
カラテ勇者の真似をする僕に、萌香姉さんが微笑む。
隣の家に住む萌香姉さんは、親同士の仲が良かったせいか、昔からよく面倒を見てくれた。
昔から内気で体も弱く、女の子みたいだとからかわれていた俺をかばって、よく男の子と喧嘩していたっけ。
「こらーっ、おまえたち、ミナトくんを虐めるんじゃなーい!」
「だってコイツ、ナヨナヨしてんだもん!」
「弱い者イジメをするなんて、それでも男かーっ!」
そう言って、いじめっ子の男子三人を一人で追い払ってしまう萌香姉さん。強い人だった。かっこよくて強いお姉さん、それが萌香姉さん。
「俺、大人になったらカラテ勇者みたいに、もっと強く男らしくなって、いつか萌香姉さんを守ってやるんだ!」
「はははー楽しみにしてるぞ」
遠い昔の、だけど俺にとっては大事な記憶。
だけれども、その小さい頃からの目標を達成することはできなかった。
高校生になった頃から病状はどんどん悪化し、そして十六歳の夏、俺の心臓は限界を迎えたのだ。
「ミナトくん……ミナトくーん!!」
大好きな萌香姉さんの呼び声。ありったけの力を振り絞ってまぶたを開けると、目に涙を溜めた萌香姉さんが俺の手を握っている。
ああ、気の強い萌香姉さんがこんなに悲しそうにしている。俺は何をしているのだろうか。強くなりたいと、この人を守ってあげたいと、心に誓ったはずなのに。
萌香姉さんの手を、力の入らない手で精いっぱい握り返す。
「ミナトくん!」
「大丈……夫……生まれ変わ……勇……に……」
大丈夫だから、泣かないで。きっと生まれ変わったらあの漫画の勇者みたいに強くて、萌香姉さんみたいに優しい男になって、そしてまた君に会いに行くから。そう、言ったつもりだった。
「うん、そうだね……ミナトくんはあの漫画やラノベみたいに異世界に転生して、最強の勇者になるんだね……きっとなれるよ!」
うーん、ちょっと俺の意図と違う気がする。
ちょっとというか、かなり違う。
でも訂正する気力もないし、異世界に転生して勇者になったんだって思ったほうが萌香姉さんも気が楽だろうしな。うん、そういうことにしよう。
俺は異世界で勇者になった自分を想像する。そうだな。今と全く違う世界で暮らすっていうのも考えてみれば悪くないかもしれない。
生まれ変わりってあるんだろうか。あるのだとしたら、今度はもっと強い体に生まれたい。
ああ、神様。どうか来世は誰よりも強く、男らしく、大切な人を守れる勇者に……
胸の痛みが嘘みたいに楽になる。暖かな光が辺りを包む。そして――
【あなたの願い、聞き届けました】
見知らぬ女性の声。
え? 誰だ? 誰の声だ?
【私は現在修行中の見習い女神。女神としての徳を積むため、若くして亡くなった不幸な子供たちの望みを叶えているのです】
え、マジ? 女神?
俺は異世界に行けるのか!?
しかも、来世がどうなるのか決められるって?
【はい、そうです。来世は、望み通り強い体にしましょう。あなたは異世界に転生し、誰よりも強い肉体を手に入れます。他に要望はありますか?】
えーと、じゃあ、せっかくだから金持ちがいいな。
異世界だから王様もいるだろうし、貴族とか王族の高貴な生まれだったらいいな。
それから、出来れば外見は整ってたほうがいいな。それで女の子にモテモテに……ってそれはさすがに贅沢すぎか。
【承知致しました。来世は金持ち。美しい外見で数多くの女性をとりこにするでしょう】
ええっ!? そんな願いまで聞き届けられるの!?
【他に何か要望はありますか?】
えーと、とりあえず他に思いつかないからそんな感じかな。というかスペックが贅沢すぎてちょっと恐縮するというか。すみません、それでいいです!
【かしこまりました。条件に合う体を探しておきます。良い来世を】
再び強い光が俺を包む。
浮遊感とともに、俺は自分の魂が今とは違う世界に来たのを感じていた。
いよいよ新たな人生の始まりだ。最高スペックの体に転生して、俺は強くてカッコイイ最強の勇者に――
「……って、あれ?」
俺は困惑した。
だって俺は、強くてカッコよくてモテモテで――望み通りの体に転生したはずでは?
だけど鏡に映るのは、フリルやレースを贅沢にあしらったピンク色のドレス。白く透き通る肌にエメラルドのような大きく輝く瞳。煌めく金の髪――
目を覚ますと、俺はどういうわけか、萌え萌えの金髪幼女に転生していたのだから。
んん? 思ってたのと、ちょっと……いや、かなり違うな??
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