お姉様(♂)最強の姫になる~最高のスペックでの転生を望んだら美少女になりました~

深水えいな

文字の大きさ
上 下
2 / 139
1.お姉様と国王暗殺未遂事件

1.お姉様と前世

しおりを挟む
 前世で俺は男だった。 

 向こうの記憶はかなりはっきり残っているし、名前だって覚えてる。水川ミナトってのが「あちらの世界」での俺の名前。


 俺が住んでいたのは日本と呼ばれる、こことは景色も文化も全然違う国で、俺はそこで男子高校生だった。

 男子高校生だったとは言っても、生まれつき心臓が悪く、入退院を繰り返していたからそんなに学校には通っていない。

 その代わり病室ではいつも、強くてカッコいい主人公が活躍する漫画を読んだり、勇者が魔王を倒すRPGゲームをしたり、そんなことばかりしていた記憶がある。



 俺は小さい頃のことを思い出した。


「やっほー、ミナトくん、今日は新作のゲーム持ってきたんだ。あ、それとも『カラテ勇者』の新刊のほうがいいかな」

 太陽のように晴れやかな笑顔。

「萌香もえか姉さん!」

 幼馴染みの萌香もえか姉さんは、そんな僕が退屈しないようにと、いつもライトノベルやマンガ、ゲームを沢山持ってお見舞いに来てくれた。

 おかげで長く続く入院生活だったが、退屈だったという記憶はない。俺のマンガやアニメ、ゲームといったオタク趣味は、ほとんどこの人の影響と言っていい。

「おーっ、カラテ勇者カッコイイ!」

「チートなしで物理で相手をひたすら倒していくのが男らしくていいのよね」

「カラテパンチ! カラテキック!」

「あははー、上手い上手い」

 カラテ勇者の真似をする僕に、萌香姉さんが微笑む。

 隣の家に住む萌香姉さんは、親同士の仲が良かったせいか、昔からよく面倒を見てくれた。
 昔から内気で体も弱く、女の子みたいだとからかわれていた俺をかばって、よく男の子と喧嘩していたっけ。

「こらーっ、おまえたち、ミナトくんを虐めるんじゃなーい!」

「だってコイツ、ナヨナヨしてんだもん!」

「弱い者イジメをするなんて、それでも男かーっ!」

 そう言って、いじめっ子の男子三人を一人で追い払ってしまう萌香姉さん。強い人だった。かっこよくて強いお姉さん、それが萌香姉さん。

「俺、大人になったらカラテ勇者みたいに、もっと強く男らしくなって、いつか萌香姉さんを守ってやるんだ!」

「はははー楽しみにしてるぞ」


 遠い昔の、だけど俺にとっては大事な記憶。
 だけれども、その小さい頃からの目標を達成することはできなかった。


 高校生になった頃から病状はどんどん悪化し、そして十六歳の夏、俺の心臓は限界を迎えたのだ。

「ミナトくん……ミナトくーん!!」

 大好きな萌香姉さんの呼び声。ありったけの力を振り絞ってまぶたを開けると、目に涙を溜めた萌香姉さんが俺の手を握っている。

 ああ、気の強い萌香姉さんがこんなに悲しそうにしている。俺は何をしているのだろうか。強くなりたいと、この人を守ってあげたいと、心に誓ったはずなのに。

 萌香姉さんの手を、力の入らない手で精いっぱい握り返す。

「ミナトくん!」

「大丈……夫……生まれ変わ……勇……に……」

 大丈夫だから、泣かないで。きっと生まれ変わったらあの漫画の勇者みたいに強くて、萌香姉さんみたいに優しい男になって、そしてまた君に会いに行くから。そう、言ったつもりだった。

「うん、そうだね……ミナトくんはあの漫画やラノベみたいに異世界に転生して、最強の勇者になるんだね……きっとなれるよ!」

 うーん、ちょっと俺の意図と違う気がする。
 ちょっとというか、かなり違う。

 でも訂正する気力もないし、異世界に転生して勇者になったんだって思ったほうが萌香姉さんも気が楽だろうしな。うん、そういうことにしよう。

 俺は異世界で勇者になった自分を想像する。そうだな。今と全く違う世界で暮らすっていうのも考えてみれば悪くないかもしれない。

 生まれ変わりってあるんだろうか。あるのだとしたら、今度はもっと強い体に生まれたい。
 ああ、神様。どうか来世は誰よりも強く、男らしく、大切な人を守れる勇者に……


 胸の痛みが嘘みたいに楽になる。暖かな光が辺りを包む。そして――






【あなたの願い、聞き届けました】


 見知らぬ女性の声。
 え? 誰だ? 誰の声だ?


【私は現在修行中の見習い女神。女神としての徳を積むため、若くして亡くなった不幸な子供たちの望みを叶えているのです】


 え、マジ? 女神?
 俺は異世界に行けるのか!?
 しかも、来世がどうなるのか決められるって?


【はい、そうです。来世は、望み通り強い体にしましょう。あなたは異世界に転生し、誰よりも強い肉体を手に入れます。他に要望はありますか?】


 えーと、じゃあ、せっかくだから金持ちがいいな。
 異世界だから王様もいるだろうし、貴族とか王族の高貴な生まれだったらいいな。

 それから、出来れば外見は整ってたほうがいいな。それで女の子にモテモテに……ってそれはさすがに贅沢すぎか。


【承知致しました。来世は金持ち。美しい外見で数多くの女性をとりこにするでしょう】


 ええっ!? そんな願いまで聞き届けられるの!?


【他に何か要望はありますか?】


 えーと、とりあえず他に思いつかないからそんな感じかな。というかスペックが贅沢すぎてちょっと恐縮するというか。すみません、それでいいです!


【かしこまりました。条件に合う体を探しておきます。良い来世を】




 再び強い光が俺を包む。
 浮遊感とともに、俺は自分の魂が今とは違う世界に来たのを感じていた。
 
 いよいよ新たな人生の始まりだ。最高スペックの体に転生して、俺は強くてカッコイイ最強の勇者に――

「……って、あれ?」

 俺は困惑した。
 だって俺は、強くてカッコよくてモテモテで――望み通りの体に転生したはずでは?

 だけど鏡に映るのは、フリルやレースを贅沢にあしらったピンク色のドレス。白く透き通る肌にエメラルドのような大きく輝く瞳。煌めく金の髪――

 目を覚ますと、俺はどういうわけか、萌え萌えの金髪幼女に転生していたのだから。

 んん? 思ってたのと、ちょっと……いや、かなり違うな??
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...