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6.いざ、魔王城

28.サブローさんを探せ

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「さて、残り十匹か」

 俺は十匹の柴犬をじっと見つめた。どの犬も人懐こそうに尻尾を振っている。可愛い。

「うーん、全部飼いたいな」

 でもとにかくサブローさんを当てないことにはサブローさんは返ってこないので、真剣に十匹の犬を見比べる。

「この子はちょっと口吻《マズル》が長くてキツネ顔だな。うちのサブローさんはたぬき顔だし。この子はちょっと足が長くてスリムな気がする。この子は毛の色が若干濃いかな」

 十匹から五匹に絞り込む。
 ここまで来たらもうそろそろサブローさんを見つけたい所だが、残る五匹はほとんど見分けがつかないほど同じ顔だ。

 飼い犬を見分けるなんて簡単だと思ったけど、まさかここまでそっくりな犬がいるとは。

「もしかしてサブローさんの兄弟なのかな。犬は一回の出産で五、六匹産むって言うし」

 五匹の犬を代わる代わる見つめる。

「あれ、この子は最初に選んだ子だな。足に白い靴下がない」

 足先の茶色い柴を一階に連れていく。残り四匹。

「この子は尻尾の巻きが足りない気がするな。この子は頭の毛の色が若干黒っぽい気がする」

 残り二匹!

「うーん」

 俺は二匹を何度も見比べた。

 可愛い三角のお耳、少し黒の入った白地のお鼻と口元。まつ毛の生えたクリクリよく動くお目目。目の上の白く眉毛のようになった毛。少し細身の体を包むモフモフのの毛。可愛いクルリン尻尾。超プリティーなおしり……んきゃわわわっ!!

「二匹とも連れて帰りたいっ!」

 だが、それはできないことは分かってる。サブローさんは一匹だけ。

「サブローさん」

 呼ぶと二匹ともやってくる。二匹とも尻尾を振り、二匹とも顔を舐め、お腹を出してゴロゴロする。お腹の毛の模様も全く同じ。ちんたまの形も同じである。

「……もしかしてお前ら、クローン?」

 それぐらい、そっくりなのである。

 でも俺は飼い主だ。飼い犬たるもの、飼い犬くらい見分けなくては!

 その時、船がグラリと揺れた。

「うわっ」

 荒波に揉まれる船。俺はヘリに必死でしがみついた。二匹の柴も俺の足元に転がるようにやってくる。ザーザーと強くなる雨。

 ゴロゴロゴロ……

 雷光とともに、船はいっそう大きく揺れる。

「……わっ!?」

 そして気がつくと、俺の体は海の中に投げ出されていた。

「冷たい!!」

 黒い荒波に飲まれる体。必死で顔を出し息を吸う。

 小さい頃、水泳教室に通ってはいたものの、もうだいぶ前の話だし、服が水を吸って重くて泳ぎにくい。

「船に戻れるだろうか……」

 先程まで乗っていた船を見上げる。二階建てだし、誰かがロープでも垂らしてくれないことには登れそうもないほど高さがある。

 いざとなったら鬼ヶ島まで泳いでいくしかない。

 すると鳴り響く雷鳴と雨音の中、一匹の柴犬がこちらに向かって泳いでくる。

「サブローさん!?」

 先程の二匹のうちの一匹だ。もう一匹は甲板からこちらを心配そうに見つめている。

 バチャバチャと犬かきで俺の元に泳いできた茶色い柴犬。その濡れて黒くなった頭を思い切り撫でてやる。

「お前……サブローさんなのか!?」

「ハッハッハッハッ」

 つぶらな黒い瞳。

 ――待てよ。サブローさんは水が怖くて泳げなかったし、雷も苦手なはず。

 俺は二匹を再び見比べた。

 船の上の柴犬と、目の前の柴犬。



 いや、何を迷うことがある。

 飼い犬というのは、飼い主に尽くすものだ。

 俺は目の前のびしょびしょに濡れた犬を抱きしめる。

「――お前がサブローさんだ」

 その瞬間、眩しい光が辺りを包む。

「うわっ!」

 吹き荒れる風。俺はもう二度とサブローさんを離さないようギュッと抱きしめた。

 やかて風と光が収まると、俺はいつの間にか船の上にいた。目の前には黒い影。

「フフフ……ハハハハ」

 影はやがて怪しげな黒いマントを身にまとった男へと姿を変えた。

「お前……まさか、お前がゾーラか?」

「フフフ、その通り。まさかその獣を当てるとは」

 やはりこの犬はサブローさんだったのか。

 俺はほっと胸を撫で下ろす。
 海の中に居たはずなのにいつの間にか船の上にいる、ということは先程までの出来事は幻覚だったのだろうか。

「ということは、もしかしてあの沢山いた犬たちも幻覚だったのか?」

「ああ、そうだ。どうだったかね? 私の幻覚魔法は」

「素晴らしい。毎日でもかけて欲しいくらいだ」

 毎日犬に囲まれるなんて最高じゃないか!
 俺が興奮していると、ゾーラが俺を奇妙な生物にでも遭遇したかのような目で見る。

「……お前、変わったやつだな」

「そうか?」

「まぁいい。あの幻覚を打ち破られるとは思ってもいなかったが、この至近距離から私の魔法攻撃は破れまい」

 ゾーラは胸の前で手を組む。

「メガフレイム!!」

 叫ぶと同時に、ゾーラの手からは巨大な火の玉が放たれる。

「うわっ!!」

 俺は思わず目をつぶる。

 と――

 ブルルルルルルルルル!!

 体にかかった水滴を跳ね除けようと、サブローさんが身を震わせる。

 飛び散る水滴。サブローさんがブルブルとドリルのように体を震わせた瞬間、大きな風が巻き起こる。

「そ……そんな馬鹿な!」

 サブローさんがブルブルした風圧に押され、火の玉がゾーラの元へと跳ね返っていく。

「くっ……」

 ゾーラが腕を伸ばすと、ゾーラの目の前で火の玉が破裂した。

 黒い煙が当たりに広がる。

「ま、まさか! 私のメガフレイムが……」

 青い顔をするゾーラ。俺は叫んだ。

「サブローさん、火《ファイア》!!」

「ワン!!!!」

 サブローさんの口から凄まじい勢いの炎が発せられる。

「フンっ、これしきの炎、私の反射魔法で……」

 余裕の表情で腕を伸ばすゾーラ。

 だがその腕に、炎をかき分け猛スピードで詰め寄ったサブローさんが噛み付く。

「ぐわっ!!」

 反射魔法を封じられたゾーラに、サブローさんの吐いた炎が襲いかかる。

 その赤黒い炎はゾーラを焼き尽くす。

「グオオオオオオ」

 黒い灰が天に登っていく。
 サブローさんは?

「サブローさん!!!!」

 まずい。このままだとサブローさんも燃えてしまう!!

 だが、炎が強すぎて近寄ることも出来ない。俺はじっと炎が収まるのを待った。

「……サブローさん」

 炎が収まる。
 辺りを焦げ臭い匂いだけが包む。

 トコ、トコ、トコ。

 煙が去り、ヨロヨロと真っ黒に煤けたサブローさんが歩いてくる。

「サブローさん!!」
 
 サブローさんは尻尾を振ってこちらに歩いてくる。良かった。怪我は無さそうだ。

「くーん」

 俺はギュッとサブローさんを抱きしめた。


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