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6.いざ、魔王城

27.いざ、大海原

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「なんだか雲行きか怪しくなってきたな」

 俺たちが船に乗ってすぐ、青空は薄灰色に包まれ、太陽が遮られる。

「雨が降ってきそうね。下に降りた方がいいんじゃないかしら」

 セーブルさんも心配そうに空を見上げる。

 船は二階建てで、二階部分が甲板に、一階部分か客室になっている。本格的に雨が降り出すようならば、一階に避難した方がいいかもしれない。

「サブローさん、なんだか凄く震えてるけとわ大丈夫?」

「サブローさんは水が苦手だからな」

 お風呂も苦手、川でも足のつく所しか行かなかったサブローさんは、海を見てブルブルと足を震わせている。

 俺はそんなサブローさんにコボルトの里で買ったレインコートを着せた。

「うん、カワイイぞ」

 緑のカエル柄は少々田舎臭いがそこがまた似合ってる。

「魔王を倒したら、コボルトの村でファッションデザイナーなるのもいいな」

 前にも思ったことだが、コボルトの村で売っていた服は、フリルだのリボンだの、日本犬に似合わないデザインばかりだった。

 ここはひとつ、着物やちゃんちゃんこをベースにした日本犬コボルトにも合うファッションブランドを展開すべきではないか。

 そしてブランドを立ち上げたあかつきにはサブローさんをモデルに……!

 俺があれこれ和風のデザインについて思案していると、不意に辺りに霧が立ち込めてきた。

「ううっ寒っ!」

 背中に悪寒が走り、身震いする。

「なぁトゥリン、荷物の中に長袖の上着入ってないか?」

 隣にいたトゥリンに声をかける。

 が――返事がない。

「あれ? トゥリン?」

 霧は益々濃くなり、もはや隣の人の顔も見えないほどだ。

「トゥリン? モモ? セーブルさん?」

 返事はない。もしかして、寒いから下の客室に移動したのだろうか。

「――サブローさん?」

 もちろん、返事などない。
 俺は霧で先が見えなくなっているリードを引っ張った。

 が、何かがおかしい。

「あれっ?」

 さらにリードを引っ張る。感触が無い。

 カラン。

 リードの先に付いていたのは、空っぽの赤い首輪だった。

「え!!??」

 サブローさんがいない!! まさか首輪がすっぽ抜けた!? 

 甲板にはカエルのレインコートも転がっている。

「サブローさん? サブローさん!!」

 俺が慌てふためいている間にも霧はどんどん濃くなっていく。もはや自分の足元すら見えないほどだ。

「フフフ……ハハハハハ!!」

 と、聞き覚えのある笑い声が響く。

「お前は……四天王の!? どこにいる!!」

 声は答えない。

 間違いない。この声は、トゥリンの村でドラゴンを倒した時や、コボルトの村へ向かう途中グリズリーを倒した時に聞いたあの声だ。

「ふふふ、勇者よ、まさか四天王のうち二人までも倒されるとは思ってもみなかったぞ」

 愉快そうに声は笑う。

「だが、残る二人……私、ゾーラとガノフは今までの二人とは格が違うぞ」

「ペラペラと、随分お喋りが好きなようだが、この霧はお前が? サブローさんや皆をどこにやった?」

 俺が問うと、声は嬉しそうに答えた。

「ふふふ。いかにも、この霧はこの私が発生させたもの。そして勇者よ、私には貴様の弱点が分かっている」

「何?」

「貴様の弱点はサブローさんとかいうあの獣だ。貴様はあの獣が居ないと何も出来ない。違うか?」

「そ、そんなことは」

 バレてる。

 ゴクリと唾を飲み込む。バレてる。強いのは実は俺ではなくサブローさんだと言うのが完全にバレてる。これはまずい。

「お前……サブローさんをどこにやった!?」

 動揺を悟られぬように叫ぶ。

「ククク……サブローさんならいるさ、な」

「何っ?」

 霧が晴れていく。
 やがて船の奥に、茶色っぽい毛皮が見えてきた。

「サブローさ……ん!?」

 喜びかけた俺だったが、思わず駆け寄る足を止める。

「ワン!」
「くーん」
「キャン!」
「きゅうぅん!」

 そこには、サブローさんにそっくりな茶色い日本犬が数十匹いたのだ。

「も、もふもふ天国!!」

 思わずテンションが上がって鼻血が出そうになる。可愛い!! 茶色いもふもふが沢山!!

「か……可愛い! 柴犬が沢山いる!」

「ふふふ、喜んでいる場合ではないぞ」

 そ、そうだった。

「なるほど、この中からサブローさんを探せって事だな?」

「その通り。島に着くまでに見つけ出せたらサブローさんは返してやろう」

「何だ、そんなの簡単だ。自分の愛犬を間違えるやつがどこにいる? それにサブローさんなら俺が呼べばすぐ来るはずだ」

 俺は鼻で笑って叫んだ。

「おーい、サブローさん!」

「「「わん!!」」」

 ドドドドドドドド。

 途端、もふもふの群れが俺に向かって押し寄せてくる。

「ああ~幸せ……」

 犬たちに押し倒され、顔をベロベロと舐められる。

「……じゃなくて!」

 サブローさんを探さなくちゃいけないんだった!

 まぁ、さすがに自分の犬だしすぐ見つかるだろうけど。

 俺は目の前の茶色い犬を掴み抱き上げた。

「サブローさん……見つけた!!」

「きゃん!」

「あれ?」

 だが初めはサブローさんに似ていると思ったが、よく見ると少し違う。

 声も高いし、サブローさんは靴下を履いたみたいに足の先が白いのに、この犬は足先まで真っ茶色だ。

「違った……ごめんな」

 俺は犬を下ろし頭を撫でた。それにしてもそっくりな犬だな。

 すると今度は甲板に固まってる犬の群れの中にサブローさんっぽい犬を見つけた。

「いた!」

 が、数が数なのですぐに見失ってしまう。

「あれ? さっきそれっぽいのが居たんだけど、どこいった?」

 必死で探し回るが、中々見つからない。
 見れば見るほどみんな同じ犬に見えてくる。

「待て待て……慌てるな。こうなったら消去法でいこう」

 俺は一匹の犬に近づいた。

「お前、秋田犬だろ。明らかにデカいし顔も違う」

 俺は寂しそうにしょぼんとするモコモコの秋田犬を捕まえ、一階へと続くドアの先に押し込んだ。

「はいはい、君は一階に行っててね!」

 秋田犬を一階にやるとクルリと振り返る。

「さて次は」

 近くにいた犬を捕まえる。

「この子も大きすぎるし、北海道犬っぽいな。この子は太り過ぎかな。あご肉がすごい。この犬は白髪が多いし、この犬は足が短い」

 サブローさんと違う犬をどんどん一階に押し込んでいく。

 そして明らかにサブローさんと似ていない犬を排除して言った結果、甲板には十匹の柴犬が残った。

「サブローさん……今、見つけるぞ」



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