上 下
26 / 34
5.対岸の町

25.恋の季節は突然に

しおりを挟む
「さあシバタ、一緒に子作りしよう」

 俺をベッドに押し倒し、のしかかってくるトゥリン。

「ど......どうしたんだトゥリン......発情期ヒートか?」

 トゥリンは妖しげな笑みを浮かべる。

「そうかも。なんだか体が妙に熱くて......発情したみたいだ」

 トゥリンは、クスクス笑いながら服を脱ぎ始める。

 こ、これは貞操の危機!
 ――じゃなくて!!

「おいトゥリン、しっかりしろ! お前、誰かに操られてるんじゃないか!?」

 俺は必死でトゥリンの肩を揺すった。
 だっておかしいだろ。急に成長したり、それにこの虚ろな赤い瞳。怪しすぎる。絶対誰かに操られてるに違いない。

「ハッハッハッハッ」

 なぜかサブローさんまで俺の上に乗ってきて、仲間に入れてとばかりにベロベロ顔を舐めてくる。

「やめろ、これは遊んでるんじゃない! 遊んで欲しくてゴロンしてるんじゃないから!」

 トゥリンはキッとサブローさんを睨むと、足で蹴りつけ突き飛ばした。

「邪魔だ、この獣め!」

「きゃん」

 ベッドから落ち、地面に転がるサブローさん。

「邪魔なのはお前だ」

 トゥリンを押しのけ、サブローさんを抱きしめる

「きゃあ」

 尻餅をつくトゥリン。

 やっぱりおかしい。

 トゥリンがサブローさんをあんな風に扱うなんて。

 トゥリンはサブローさんのことを可愛がっていたし、足蹴になんてしたことなかった。

 もしかして、誰かに操られてる?

 俺はサブローさんの頭を撫でた。黄金のウ〇チシャベルをギュッと手に握りしめる。

「お前は誰だ? トゥリンを操ってるのか? それとも、トゥリンに化けているのか!?」

「くっ」

 顔をしかめるトゥリン。

「ククククク……ハハハハハ」

 知らない女の声。

「トゥリン?」

 トゥリンをじっと見つめていると、口から黒いモヤのようなものが出てきた。そしてモヤはどんどん色を濃くし、人の形となっていく――。

「フフフ、やっぱりそのちんちくりん女じゃダメね。知り合いの方が警戒されないかと思ったんだけど」

 トゥリンから現れたのは黒いボンテージを身にまとった金髪のセクシーな女。

「誰だお前は!」

 トゥリンの体を抱え思わず後ずさる。
 トゥリンは元の小さな体に戻り、ぐっすりと眠っている。

 やはりこいつがトゥリンに取り憑いていたのか!?

「ふふん、あたしはここヨルベの地に封印されていた魔王四天王が一人、サキュバスのリルティヤ。あなたが勇者ね? 貴方の精気、死ぬまで絞り取ってあ・げ・る」

 リルティヤは真っ赤な口元に妖しげな笑みを浮かべた。

 四天王。こいつが。
 俺はギュッと拳を握りしめた。

「馬鹿な。誰が魔王の配下と分かっている相手に誰が騙されるって言うんだ?」

「あら、サキュバスと分かっても私を抱きたがる男は沢山いるわ。私は相手の男の好みの姿になれるの。あなたの事も調べてあるわ」

 舌なめずりをしながらこちらへにじり寄ってくるリルティヤ。

「何っ!」

 リルティヤの体が黒い煙に包まれ、その姿が見る見るうちに変わっていく。

「よ、寄るな!」

「ふふふ、あなたは獣が大好きだと聞いたわ! これでどう!?」

 そう叫ぶと、リルティヤはケモ耳と尻尾を生やした姿に変身した。

「ふふふ、どう!? 可愛いでしょこのケモ耳! 人間の男はこういうのに弱いのよね~あたし知ってるんだから!!」

 お尻を突き出し尻尾を振るリルティヤ。

「…………えっ」

 いやいやいや! 俺の好みがそういうのって……それ凄い誤解なんですけど!? 

「あおーん!!」

「きゃあっ!」

 俺が混乱していると、突然の悲鳴。
 見ると、パタパタと揺れるリルティヤの尻尾にサブローさんが飛びついている。

「ヘッヘッヘッヘッ!!」

 リルティヤの足をガッツリ掴み、腰をカクカクさせるサブローさん。

「いやああああ!! な、何よこいつ!!」

 もちろん体格が違うからカクカクするだけで別に何も起こらないんだけど、リルティヤは必死で足をバタつかせる。

 ……そう言えばサブローさん、去勢してなかったんだよな。

 
「ご主人、どうしたですか!?」

 騒ぎを聞きつけて隣の部屋にいたモモがやってくる。

 モモはサブローさんを見るなりぎょっとした顔をする。

「さ、サブローさんの彼女ですか!?」

「ンなわけあるかー!!」

 青筋を立てるリルティヤ。
 俺は叫んだ。

「こいつは魔王四天王の内の一人だ。トゥリンに乗り移ってここに侵入してきたんだ」

「そうなんです!?」


「あの……どうしました!?」

 モモの後からひょっこりと顔を出したのはセーブルさんだ。

「セーブルさん!?」

「さっきそこでモモちゃんに会って……鬼ヶ島や獣人たちについて二人で話をしていたの。そしたら凄い物音がして」

 リルティヤを見るなり険しい顔になるセーブルさん。

「こいつは……悪魔? サキュバスね!?」

 サブローさんに足を掴まれカクカクされながらリルティヤは髪をかき上げる。

「ふふふ、ただのサキュバスじゃないわ! 私はサキュバスの女王にして魔王四天王の一人、リルティヤ。私に落とせない男はこの世に居やしないわ!」

 四天王!?


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...