上 下
20 / 34
4.コボルトの里

19.犬神様の像

しおりを挟む
 翌朝、俺たちは伝説の犬神様の像を見るため隣村イスナにやって来ていた。

 トゥリンは呆れ果てていたが、昔どうやって勇者が魔王を封印したのか知ることが出来れば、今後何かに役立つかもしれない! と力説して何とか許してもらった。

 まぁ本当は像が見たいだけなんだが。

「この辺りは鳥や獣を狩って暮らしているコボルトが多いんだ」

 パグ作が教えてくれる。

「へぇ、狩りをして暮らしているのか」

 確かに、村の中を見渡すと、狩りに向いているポインターやセター系の犬の姿をしたコボルトが沢山いる。

 身長も人間と同じくらいで、皆スラリとして痩せている。同じコボルトでも全然違うんだな。

「他にもウサギや鹿を狩るハウンド村とか、アナグマや野ねずみを狩るテリア村とかもあるよ」

「へー」

 俺たちがパグ作と一緒に村を歩いていると、一匹のコボルトに声をかけられる。

「こんにちはパグ作さん! お客様かな?」

「あ、ラブさんこんにちはー」

 声をかけてきたのはラブラドール・レトリーバーの顔をしたコボルトだった。

 ラブさんと呼ばれた黄色い毛のコボルトは、ニコニコと俺たちに話しかけてきた。

「観光ですか? どこへお出かけですか?」

「犬神様の像を見に行くんだ」

 パグ作がサブローさんを指さす。

「ほらこの獣、似てるだろう?」

 ラブさんがサブローさんの側にしゃがみ込む。

 サブローさんはその大きな体にビクリとしながらも、尻尾をムチのように振ってフレンドリーにするラブさんに気を許したのか鼻をクンクンとして挨拶をした。

「本当ですね!」

 ラブさんはぱぁっと目を輝かせる。

「不思議ですね。野の獣なのに、なんだか我々と通じるものを感じる!」

「そうかぁ?」

 感激するラブさんを横目に、パグ作はポリポリと頭をかいた。

「では、ここからは私が案内してもいいですか?」

「いいよ。あの像のことはよく分からないし。沢山歩いて疲れたよ」

 ゼーゼー言ってへたり込むパグ作。
 パグ作の村からここまで大した距離でもないんだけど。

「ではパグ作は置いて、私たちだけで行きましょうか!」

「はい」

 ラブさんに連れられて、俺たちは村外れにある登山道へと入っていった。

 整備された山道をしばらく登る。今日は雲ひとつない青空。日が昇り、だいぶ暑くなってきた。

「暑いなあ、サブローさん」

 俺は舌を出しハアハア暑そうにするサブローさんを撫でた。

 ひとしきりサブローさんを撫で顔を上げると、いつの間にかラブさんの姿が無い。

「あれ? ラブさんはどこだ?」

 俺の後ろを歩いていたトゥリンに尋ねたが、トゥリンも首を傾げる。

「分からない」
「ボクも分からないです」

「おかしいな。さっきまで俺の前を歩いていたはずなんだけど」

 俺たちは声を上げてラブさんを探した。

「ラブさーん!」
「どこですかー!?」

 だが返事はない。

「まさか迷った!?」
「置いていかれたんじゃあ……」

 不安になって辺りを見回すと、すぐ横を流れる川からジャブジャブと音がする。

「まさか……!?」

 川を覗き込むと、ラブさんが気持ちよさそうな顔をしてバシャバシャと水の中を泳いでいる。

「ラブさん??」
「いつの間に泳いでたんだ!」

 俺たちが川辺に駆け寄ると、ラブさんはハッと我に返り、水から上がった。

「いや、失敬失敬。ほら、毛皮だから暑くて」

 毛から水をポタポタ垂らしながら恥ずかしそうにするラブさん。

「いや、それはいいんだけど」

 いきなり居なくなるからビックリしたぞ!

「どうですか? 皆さんも」

「いや、俺はいい」

「サブローさんは?」

 ラブさんが言うと、サブローさんは川にソロリと近づいたが、浅瀬に前足をチャプチャプとつけ水を飲んだだけですぐに戻ってきた。

「サブローさんはあまり水が好きじゃないんだ」

 俺が言うと、ラブさんは飛び上がって驚く。

「ええっ、そんな! こんなに楽しいのに!!??」

 驚愕の表情を浮かべるラブさん。そんなに驚くことか?

「それより先を急ごう」

 ラブさんはニッコリと笑う。
 
「急がなくても大丈夫です。犬神様を祀ってあるお堂ならすぐそこですよ」

 ラブさんが指差した先には、古びた木造のお堂があった。

「あそこです」

 ラブさんが木の扉を押し開ける。
 埃っぽい空気の中、背後の窓から差し込む光を後光のように受け、犬神様の像が現れた。

「これが『拒否する犬神様』像です」

 自慢げに胸を貼るラブさん。
 
 目の前にはくるりと尻尾を巻いた立ち耳の犬の石像。

「おお!? ……おお」

 が、そのポーズというのが、散歩中、歩くのを嫌がって踏ん張る「拒否犬」ポーズ。
 むにっ、と首輪からはみ出た首周りの肉が可愛らしい。

「これが……伝説の犬神様の像?」

「はい! 魔王の誘惑を拒否し、正義を貫いた伝説の犬神様の輝かしいお姿です!!」

 ラブさんが感激したように犬神様の像の前に跪《ひざまず》く。

 俺は像の横にあった石碑に目を止めた。
 そこには伝説の犬神様の功績が刻まれている。

『伝説の犬神様は勇者とともに鬼ヶ島に渡り、魔王四天王のうちの二人、ゾーラとガノフを打ち倒し、魔王討伐にも貢献した英雄である。また、我々の祖であるという伝説もある』

 伝説の犬神様は魔王四天王のうちの半分を倒したのか。ひょっとすると勇者より強かったなんてこともありそうだな。

 ……というかゾーラってどこかで聞いたような?

『犬神様は魔王との最終決戦で命を落とすが、その際、子孫である我々コボルトに加護を下さり、そのおかげで我々の村は繁栄している。その後四天王と魔王の魂は封印石に封じられ、鬼ヶ島と対岸の街ヨルベ、そしてここイスナに安置されている』

 熱心に石碑を読んでいると、ラブさんが教えてくれる。

「犬神様が魔王四天王を封印した伝説の封印石もこの近くにあるんですよ。見てみますか?」

「へぇ、それは気になるな」

「向こうの山にあるんで、一旦村に戻って別の登山口から入らなきゃ行けないんですけど、そんなに遠くはないですよ」

 そんなことを話しながら山を降りる。
 すると、なんだかザワザワと村の中が騒がしい。

「どうしたんだ?」

「さあ、分かりません」

 ラブさんも首をひねる。
 すると、こんな噂が聞こえてきた。

「大変なことになった……封印石に封じられたはずの四天王の封印が解けたらしいぞ!!」


--------------------------

◇柴田のわんわんメモ🐾


◼ガン・ドッグ

・鳥の猟に使われていた猟犬。獲物を見つけ、居場所を知らせるポインターやセター、水辺で獲物を回収するレトリバーや獲物を巣から追い出すスパニエルなどがそれに当たる

◼ラブラドール・レトリーバー
 
耳の垂れた短毛の大型犬。毛の色はイエロー、ブラックが多い。盲導犬や水難救助犬でお馴染みだが、穏やかで人懐こく家庭犬としても人気でアメリカでは10年連続人気犬種1位
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

ウロボロス《神殿の中心で罪を裁く》【完結】

春の小径
ファンタジー
神がまだ人々と共にあった時代 聖女制度を神は望んではいなかった 聖女は神をとどめるための犠牲だったから

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

処理中です...