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4.コボルトの里

17.コボルトの里

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 こいつ……パグの顔してる。

 これがコボルト?
 何か想像してたのと違う! 

 俺は獣人図鑑に書いてあったコボルトの姿を思い浮かべた。なんていうか、図鑑に書いてあったコボルトはもっとこう、野性的だったというか。

「トゥリン、この人、コボルトですか? 図鑑に載ってたのはもっと賢くて強そうでしたよ?」

 モモも同じように思ったらしい。

「私もよくは知らないけど、コボルトにも色々と種類があるらしい」

 トゥリンが教えてくれる。

 そうなのか。
 俺はパグ顔のコボルトをまじまじと見た。

「ヒ、ヒトだ」

 パグに似たコボルトは、まん丸の目を大きく見開いた。

 どうやら俺がコボルトにビックリしているのと同じくらい、このパグに似たコボルトも俺に出会ってビックリしているらしい。

「あ、あの、ここって、イクベの村……?」

 恐る恐る尋ねると、パグはキョトンとした顔で俺を見た。

「いや、ここはの村だ」

「えっ」

 まさか、地図を読み間違えていた!?

 パグが指さす方向を見ると、確かに看板に「コボルトの里、イスべの村へようこそ」と書いてある。

「イスべ……か」

 俺はガックリと肩を落とした。
 一体俺たちは何のためにここまで来たんだ?

 日も暮れてきたし、とりあえず今日はこの村に泊まるしかないけど。

「そうか。ところでこの村には宿はあるのか?」

「ちょっと待ってろ、村長に相談してみる」

 慌てて村の奥へと駆けていくコボルト。

「上手いこと宿が見つかればいいんだが」

 俺が言うと、トゥリンとモモがキョトンと
した顔で俺を見やる。

「シバタ、コボルト語話せたのか?」

「えっ?」

 俺がコボルト語を話してた?
 俺は普通に日本語を話してるつもりだったが、ひょっとして自動翻訳スキルのお陰だろうか。

「俺、どんな風に話してた?」

 恐る恐る聞いてみる。

「フガフガ、フゴフゴって話してました!」

「違うぞ。グフッ! ンゴッ! って感じだったぞ」

 トゥリンとモモがリアルなパグの鳴き
声を披露する。

「あのコボルトが言うには、ここは『イクベ』の村じゃなくて『イスべ』の村だって」

「えっ」

「でももうすぐ日も暮れるし、ここで宿を取れないかって聞いてみたら、村長に聞いてみるって」

「そうだな、仕方ないな」

 コボルトが戻ってきた。

「お待たせした。村には宿屋がないが、村長の家に泊まってもいいそうだ。ついてこい」

 トゥリンが怪訝そうな顔をする。

「何て?」

「村長の家に泊めてくれるってさ」

「ふーん」

「楽しみです!」
「あう」

 ぶんぶん尻尾を振るモモとサブローさん。
 コボルトは変な顔をする。

「お前の名前は?」

「シバタだ」

「俺はパグコボルト属のパグ作だ。シバタ、お前のパーティーはずいぶん変わったパーティーだな」

「ははは。そうかな」

 モモをじっと見つめるパグ作。

「お前はヒトの顔に俺たちのような耳と尾が付いているな。何という生き物だ?」

 モモが首を傾げる。

 俺はモモの代わりに何の獣人かは不明だと伝える。
 パグ作は「そうか」と言ってサブローさんに視線を移した。

「お前はスピッツ系コボルト……ではないよな?」

 フガフガとパグ作が言う。

 ちなみにスピッツ系というのは口吻《マズル》がとがり、耳が立った犬の総称のことだ。

 柴犬や秋田犬などの日本犬やハスキー、ポメラニアン、サモエドなどが属するグループを指す。

「いや、サブローさんは犬だよ」

「イヌ……?」

 コボルトが首を傾げる。

「……もしかして、イヌガミサマのことかな」

「犬神様?」

 何だそれは。

「我々のご先祖さまのことだ。噂によるとスピッツ村のヤツらに似ていたとか」

 まさか……この世界、犬がいないと思ってたらみんなコボルトに進化してたのか!?

 パグ作はフガフガと話し続ける。

「この村にはあまりスピッツ系は住んでいないけど、スピッツ系のコボルトばかりが暮らす村もある」

「そうなのか。スピッツの村、行ってみたいなぁ」

 サブローさんに似た柴犬顔のコボルトや秋田犬顔のコボルトもいるのだろうか。なんだかワクワクしてきた。

 パグ作は肩をすくめた。

「この村の方がいいよ。スピッツ村のヤツらはしょっちゅうガウってるし」

「ガウってるのか」

 確かに辺りを見回すと、シーズーやチワワのような顔をしたコボルトがおめかししていたり、ブルドッグ系のコボルトが芝生やベンチの上で寝転がっていたりとかなり平和そうだ。

 みんな身長は120~140cmくらいで、ちまちまと二本足で歩いていて可愛らしい。

 外見は犬そっくりだが、二本足で歩けるということは、恐らく背骨や関節の構造が犬とは違うのだろう。

 俺とパグ作が和やかに会話をしているとトゥリンとモモ、サブローさんが変な顔をする。

「フガフガ言ってる……」
「不気味です」
「ワウゥ……」

 コボルトに案内されて村長の家に向かう。
 村長の家も、他の家同様に洞窟を掘って作った家だ。

「村長、ヒトの冒険者を連れてきました!」

 中に入ると、豪華な赤の絨毯に金の燭台。外から想像していたよりずっと華やかな内装で広い。

「ようこそ冒険者たちよ」
 
 そして正面の立派な装飾を施した金色の椅子には、フレンチブルドッグ顔のでっぷりと太ったコボルトが座っている。

 派手なシャツを着て金色の鎖を首にかけた貫禄たっぷりのフレンチブルドッグ――恐らく彼が村長だろう。

 村長はヨロヨロと椅子から立ち上がった。

「私が村長のブル・ナカタだ。冒険者よ、今日はここに滞在するといい」

「シバタです。お招きありがとうございます」

 俺がそう言って手を出し握手をしようとすると、村長は少し困った顔をした。

「ああ、人間たちはそうやって挨拶するのだったな。だが、すまんが我々コボルトの社会では相手の前足に触れることは失礼とされている。お辞儀で失礼させてもらうよ」

 村長はペコリと頭を下げる。

「ああ、これは失礼しました」

 俺も深々と頭を下げた。

 確かに、サブローさんも俺が肉球の匂いをクンカクンカしていると嫌そうな顔をするし、前足に触られるのは嫌なんだろう。

「これがコボルトの挨拶らしいよ」

 俺が言うと、トゥリンとモモもぎこちなくお辞儀をした。

「こちら、奥の客間が空いてるのでお使い下さい」

 蝶ネクタイをつけたボストンテリア顔のコボルトが奥へと案内してくれる。

「こちらが男性のお部屋、こちらが女性のお部屋にございます」

「ありがとうございます」

 俺は会釈をして中に入った。中は広くてひんやりしてる。俺とサブローさんだけで使うには十分すぎる広さだ。

「ありがとう。村を少し見て回っても大丈夫かな?」

「はい、結構です」

「ありがとう」

「ではごゆっくり」

 ぺこ、と頭を下げてボストンテリアが去っていく。

「よし、じゃあせっかくだから村の中でも見て回るか」

「ああ」
「はいです!」


◇◆◇


 三人と一匹で村をブラブラする。

「わぁ、耳がついた帽子です!」

 モモが帽子売り場ではしゃぐ。
 市場で売られているものはコボルト向けなので、耳や尻尾が生えていても平気な衣服が多い。

「せっかくだからモモに色々買ってやるか」

 モモ用の帽子やスカートを買ってやる。

「そちらのお客様にもお洋服はいかがですか」

 ニコニコとトイプードル顔の店員さんが薦めてくる。

「サブローさんに? 合うのあるかなぁ」

「子供用の服ならきっと合いますよ!」

 店員さんが奥からピンクや水色のヒラヒラした服をもってくる。

「これなんかどうです?」

 早速サブローさんにピンクのヒラヒラを着せる。

「似合わないぞサブローさん」

 フリルやリボンのついた服を着たサブローさんを見て、トゥリンが噴き出す。

 サブローさんも必死で体をブルブル震わせて脱ぎたそうにしている。

「そうだな……サブローさんにはもっと、唐草模様とか甚平とか、ちゃんちゃんこみたいな柄じゃないと」

「はぁ」

 店員さんが首をひねる。もしかすると、ここには和柄の物は無いのかもしれない。

「和風の服があれば、日本犬顔のコボルトにも似合うはずなんだよな」

 そうだ。魔王退治が終わったら和柄の服を扱うブランドを立ち上がるというのはどうだろう。

 そしたらサブローさんに似合う服も作れるし、もしかしてコボルトたちにも評判になって大儲けできるかもしれない!

「ふふふふ……楽しみだ」

 俺が将来のプランを練っていると、モモが呼ぶ。

「ご主人、これはどうです?」

 モモが手にしていたのは緑のカエル柄のレインコートだった。これならサブローさんにも合いそうだ。

「これなら天気が悪くても濡れないからいいかもな。サブローさん、雨の日にも散歩行きたがるし」

 着せてみるとサイズもピッタリだ。俺は迷わずレインコートを買った。

「サブローさん、可愛いぞ~!」

 レインコートを着たサブローさんをワシャワシャ撫でると、サブローさんは少し迷惑そうな顔をした。

 コボルトの村って、楽しいな!


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◇柴田のわんわんメモ🐾


◼フレンチブルドッグ

・ブルドッグやマスティフにテリアなど温和な性格の小型犬を掛け合わせた鼻ぺちゃの中型犬。丸い大きな耳と小さな尻尾が特徴で、白やクリーム、茶、黒など様々な毛色がある。がっしりとした肩幅の広い筋肉質な体型。人気犬種11位。

◼ボストンテリア

・イングリッシュ・テリアとブルドッグを交配して生まれた小型犬。黒ベースに胸元と目の間に白色が入ったタキシードカラーが特徴。手足が長くスマートな体格で耳は大きく尖っている。ジョジョの奇妙な冒険に出てくるイギーはこの犬である。
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