上 下
13 / 34
3.犬耳の奴隷少女

12.獣人モモ

しおりを挟む
「うおおおっ!」

 思わず叫んで飛び退く。

 寝て起きたら、隣に裸の美少女がいる。

 なぜ。どうして。

 ……怖い!!

「どうかしたのです? ご主人」

 首を傾げる犬耳少女。

「どうしたんだシバタ!」

「ワンワン!」

 トゥリンとサブローさんも部屋に飛び込んでくる。突然現れた見知らぬ裸の少女に、驚きの色を顔に浮かべるトゥリン。

「だ、誰だこいつは」

「知らん。いきなり起きたら隣に」

「なんて破廉恥な! いくら私より胸も大きいし背も高いからって。夜這いにはまだ早いぞ!」

 確かに、体が大きく発育のいい種族だからなのだろうか、顔は幼く子供っぽいが体はトゥリンより発達しているように見える。

 って、問題はそこじゃなくて!

 犬耳少女はワタワタと慌て出す。

「ち、違うです!ボクは――」

「ワンワン!」

 サブローさんが犬耳少女の股ぐらに潜り込む。

「ひゃあ!」

 慌てる犬耳少女に、トゥリンが指示を出す。

「サブローさんが挨拶してるぞ! 早く四つん這いになるんだ!」

「へ? はい!」

「これはイヌーの挨拶だ! もっとお尻を高く上げろ!」

「は、はい、こうでしょうか!」

 サブローさんに、必死でお尻を向ける犬耳少女。何やってるんだ?

 というか、早く服を着ろ!!


◇◆◇


「皆様、誤解です。ボクですよ、モモです!」

 乾かしておいた俺のジャージをワンピースみたいに身にまとった犬耳少女が訴える。

「まあ、薄々そうじゃないかとは思っていたが……」

 やはり、この犬耳少女の正体は、俺が奴隷商から買ったあの犬らしい。

 せっかく可愛い犬を買ったと思ったのに、女の子になってしまうなんて残念だ。

 俺は小さくため息をついた。

「とりあえず飯でも食おう。せっかく作ったのに冷めてしまう」

 とりあえず三人と一匹で鍋を囲む。
 トゥリンはモモをじっと見つめた。

「ってことはモモは獣人なのか?」

「はい、多分」

 トゥリンが尋ねると、モモは頷いた。

 よく分からないが、この世界には、人と獣の混ざったような未知の種族も居るのだな。

「んまい! ぅんまいですぅ! こんなに美味しいご飯、ボク今まで食べたことありません!」

「それは良かった」

 ガツガツと美味しそうにご飯を食べるモモ。

 もしかして、奴隷ショップでの待遇は相当酷かったのだろうか。

 スプーンの持ち方もかなり雑だし、今まで犬のエサしか与えられてこなかったのかな。

 嬉しそうにパタパタ揺れる尻尾。

 初めは犬じゃなくてちょっとガッカリしたけど、ここに連れてきて良かったのかもしれない。

 トゥリンはモモにおかわりをよそってあげながら首をかしげた。

「モモはなんという種類の獣人なのだろうか。一番近いのはワーウルフだが、今日は満月じゃないのに変身したし、コボルトでもないし」

「飼育係さんもよく分からないと言ってたです。ここより南の町で、親とはぐれた所を拾われたらしいですが、ボクも小さかったし、ほとんど記憶はないです」

 口の中一杯に野菜や肉を詰め込みながら言うモモ。

 そう言えば、奴隷商も今まで見たことが無いって言ってたような。

「新種の獣人だろうか。ワーウルフとコボルトの合いの子だったりして」

 首をひねるトゥリン。

 トゥリンによると、ワーウルフは狼男みたいなもので、コボルトというのは、犬の頭をした小人みたいなやつらしい。

 俺はトゥリンに尋ねた。

「ワーウルフとコボルトは交配できるのか?」

「たぶん、できると思う。姿の似てないエルフですらワーウルフやコボルトとの間に子を成せると聞いたことがあるし」

「そうなのか」

 エルフはワーウルフやコボルトとの間に子を成せる?

 とすると、エルフとコボルトはイヌとオオカミのように近い種なのだろうか。

「でも実際には交わるのは禁忌とされているからどうなのか分からない」

「そうなのか」

「だからエルフが同じエルフやヒト、ドワーフ以外の子を宿すことは殆ど無いんだ」

「人間やドワーフとの子供は結構いるのか?」

「エルフとヒトとの子供は割といる。ドワーフとはあまり仲良くはないが、交流自体はあるから、いてもおかしくない。噂によると、ドワーフは頭がでかいから、母親がエルフだと産む時苦労するとか」

「なるほど」

 そこまでトゥリンの説明を聞いて、俺の頭にはある一つの考えが浮かんだ。

「もしかしてだが、例えばエルフとオークとの間には子供ができたとしても、その子供には生殖能力が無いのではないか?」

 トゥリンは頷く。

「ああ。そういう『呪われた子』は大抵は病弱で長生きできないし、子供も残せないと聞いている」

 なるほど、ライオンとトラの間に出来たライガーやロバとウマの間に出来るラバと同じパターンだな。一代雑種というやつだ。

 ライガーやラバのように異種交配で産まれた生物には生殖能力がない、若しくは極端に低い場合が殆どだ。

 エルフは長命だと言っていた。それ故きっと生涯に一人か二人しか子を残さないのだろう。

 そのたった一人の子供に生殖能力がないと困るから、きっとそんな掟が有るのだろう。ただの推論ではあるけど。

「エルフと人間の間に生まれた子供は普通に子孫を残せるんだな?」

「ああ。人間とエルフの間に生まれた子供にはそういうことはない」

 トゥリンは答えてから、顔を真っ赤にする。

「なんだシバタ、もしかして、お前は赤ちゃんが欲しいのか?」

 俺は考えこんだ。

 その理論でいくと、ヒトとエルフ、ドワーフの三者は限りなく同種であるということになる。

 そもそもエルフやドワーフにも遺伝子があるかどうかが不明だし、考えても無駄かもしれないが。

 神様や魔物や妖精が存在する世界だし、もしかすると、世界樹の下で祈りを捧げれば子供の入った果実が実るとかそんな世界観かも知れない。だとしたら遺伝子なんて関係ないからな。

「なぁトゥリン」

「ん? 何だ?」

「子供って、どうやればできるんだ? もしかして、畑でキャベツから生まれてきたりコウノトリが運んできたりするのか?」

 俺が言うと、トゥリンは雷に打たれでもしたかのような顔になった。

「シバタ……お前ってやつは!」

 ワナワナとトゥリンの手が震え出す。

「は?」

「私に手を出してこないからおかしいと思ったら、そういう事だったのか。そこまで世間知らずだとは思わなかったぞ!!」

「あ、いや」

「……ここはピュアで純粋なシバタのために交換日記から始めた方がいのだろうか。それとも思い切って私から」

 ブツブツ呟くトゥリン。

 いや、単にここは剣と魔法のファンタジー世界だから違う仕組みなのかな、と思っただけで!

 別に子作りの仕方を知らないわけじゃ無いんだけどな。犬の交尾だって見たことあるし。

 ミアキスもここがどういう世界なのかよく説明してくれなかったし。

「あ」

「どうした、シバタ」

 ミアキスで思い出したが、俺にはスキルがあったのだった。

「モモ、ちょっとそこに」

「はいです」

 俺は立ち上がり、モモに向かって叫んだ。

「血統書開示《ステータス・オープン》!」

 これでモモの正体が分かるかもしれない。

 緑色の光が巻き起こる。
 そして光が収まると、半透明の血統書《ステータス》が目の前に現れた。


--------------------------

■血統書《ステータス》


◇モヌモシュナ オブ イクベ
◇獣人・雌
 生年月日:聖暦876年8月3日
 毛色:シルバー&ホワイト
 主な病気:なし
◇所有者:柴田犬司
◇父親:センネルルス
◇母親:ナナイスタ

--------------------------



 モモの情報が開示される。やはり「獣人」としか記載が無い。

 が、その他にも色々と分かった。

「どうしたんだ? シバタ。何か魔法を使ったような気配がしたが」

 トゥリンが心配そうに俺を見上げる。
 もしかして、他の人には見えていないのか? 面倒くさいな。

「トゥリン、何か書くものはあるか?」

「うん」

 俺は読み取ったモモのデータをメモした。

「今のは相手のデータを調べるスキルだ。モモの正体はやはり『獣人』としか書かれていなかった」

「そうか」

「でも、他にも色々と分かった。モモの本当の名前は『モヌモシュナ』だ」

 モモの顔がぱあっと輝く。

「ボクにそんな立派な名前があっただなんて!」

「良かったな」

 トゥリンも微笑む。

「それだけじゃない。誕生日に、両親の名前も分かった。それに出身地も」

「出身地? モモにも故郷があるのです?」

 聞けば、モモは物心ついた頃からあそこにいたから、故郷が分からないのだという。

「ああ、この名前の後についてるイクべというのが恐らくモモの出身地だ」

 犬の場合は名前の上の「オブ」以下は犬舎の名前になることが多いが、この場合はモモの出身の村を指すのだろう。

「イクべ……聞いたことのない地名だ」

 トゥリンが考え込む。

「でもそこに行けばモモの家族にも会えるかもしれないんだな」

 モモの尻尾がピクリと動いた。

「モモの……家族! イクベというところに、ボクの故郷があるですか!?」

 モモがパタパタと尻尾を動かし目を輝かせる。

「うし、じゃあそこに行ってみるか。南に向かえばいいんだろ?」

 俺が言うと、トゥリンは大きなため息をついた。

「まぁ、仕方ない。鬼ヶ島も南の方向だし、ついでに寄ってみるか」

「ありがとう、トゥリン」

 トゥリンはドテッと横になっているサブローさんのお腹を撫でてため息をついた。

「それで、モモの故郷に行くのはいいのだが、シバタは冒険者カードは持っているのか?」

「冒険者カード?」

 俺とモモがハモる。
 トゥリンはまたしても盛大なため息をついた。


--------------------------

◇柴田のわんわんメモ🐾

◼狼と犬

・イヌとオオカミは99.6%の遺伝子が同じで、交配もできる。ハスキー、シェパードなどの犬種と狼を交配した犬はウルフドッグやハイブリッドウルフと呼ばれ飼育も可能だが、厳しい躾や広い敷地が必要。日本には500頭程度しかいない。
・米コーネル大学の研究チームが五千匹以上の犬を対象に遺伝子検査をしたところ、一番狼に遺伝子が近いのは柴犬だったという
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯
ファンタジー
誰でもよかった系の人に刺されて笠鷺燎は死んだ。(享年十四歳・男) んで、あの世で裁判。 主文・『前世の罪』を償っていないので宇宙追放→次元の狭間にポイッ。 襲いかかる理不尽の連続。でも、土壇場で運良く異世界へ渡る。 なぜか、黒髪の美少女の姿だったけど……。 オマケとして剣と魔法の才と、自分が忘れていた記憶に触れるという、いまいち微妙なスキルもついてきた。 では、才能溢れる俺の初クエストは!?  ドブ掃除でした……。 掃除はともかく、異世界の人たちは良い人ばかりで居心地は悪くない。 故郷に帰りたい気持ちはあるけど、まぁ残ってもいいかなぁ、と思い始めたところにとんだ試練が。 『前世の罪』と『マヨマヨ』という奇妙な存在が、大切な日常を壊しやがった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...