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2.エルフの里

8.いざ、ドラゴン退治

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 俺は土の中から見つかった剣をじっと見つめた。

「マルザ村長、俺は復活した魔王を退治しなきゃいけないんです。その勇者の剣、譲っていただけないでしょうか!?」

 マルザ村長は片眉を上げる。

「じゃが……先程も言ったように、まだお主が勇者だと決まった訳ではない。あれは先祖代々受け継いだ家宝とも呼べる剣じゃし」

 無くしたくせに、家宝とかよく言うよ。

「マルザ村長、無くなった勇者の剣を掘り当てるなんて、勇者以外の何者でもないぞ!」

 トゥリンが息巻く。

「何じゃお主、さっきから随分シバタに肩入れしておるの」

「そ、それは……その」

 真っ赤になるトゥリン。

「まあ、そこまで言うなら仕方ない」

 マルザ村長が立ち上がる。

「剣をくれるんですか!?」

「シバタが本当に勇者だと証明できるのならな。ついてこい。裏の畑へ案内しよう」

「畑?」

 首を傾げながらも、俺たちは裏の畑へと向かった。

 畑に着くと、そこには収穫を間近に控えた春キャベツや新玉ねぎが見るも無残に食い荒らされていた。

「これは……何かの獣に?」

「見ろ、ドラゴンの足跡だ」

 トゥリンが畑についた足跡を指さす。
 巨大な鳥の足跡のようなものがそこかしこについている。

「夜寝ている間に来たと見える。シバタが来る二、三日前の話じゃ」

「この村にはドラゴンがよく来るのか?」

「いや、昔はドラゴンなんて居なかったのじゃが、何故か数日前から、村にやってきては畑の食べ物を食べ尽くしておる。狩りの最中に襲われ命を落とした者もいる。一体どこからやってきたのやら」

 ギリッ、と歯を噛み締めるマルザ村長。

「ま、まさか」

 トゥリンが青くなってマルザ村長の顔を見やる。マルザ村長はニヤリと笑った。

「シバタ、お前がもしも伝説の勇者なら、ドラゴンくらい倒せるはずだ」

「そ……村長!」

 慌てるトゥリン。

 ドラゴンって……よく分からないけど、そんなに強いのだろうか。

 俺の頭の中を巨大なコモドオオトカゲが駆け回る。
 
「みんなー! 幻の黄金獣を連れた勇者様がドラゴンを倒してくださるそうだぞー!!」

 途端、声が湧き上がる。サブローさんを見に来た野次馬たちだ。

「さすが勇者様!」
「我が村の救世主!」

 え?
 
「いや、その」

 咄嗟に否定しようとしたのだが、目をキラキラと輝かせたエルフたちが詰め寄せてくる。

「お願いします、勇者さま!」
「お願いだ! 私たちの村を救ってくれ!」
「勇者様! 勇者様!!」

 戸惑っているうちに、次々にエルフたちがやってきて、何となく断れない雰囲気になってしまう。

「わ、分かった」

 渋々承諾する。

「とりあえずその剣を貸してくれ。ドラゴンとやらを倒したら、これを貰ってもいいよな?」

 結局、俺は勇者の剣を手に、サブローさんと山へと出かけることとなった。

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◇柴田犬司《しばたけんじ》 18歳

職業:勇者所持金:金貨1枚
通常スキル:言語適応、血統書開示《ステータス・オープン》
特殊スキル:なし
装備:柴犬、伝説の勇者の剣  new
持ち物:レッドドラゴンの首輪 、散歩綱 、黄金のウ〇チシャベル 、麻のウ〇チ袋   

--------------------------



◇◆◇

 
「ほら、この匂いだぞ」

 畑に残されたドラゴンの鱗の匂いをサブローさんに嗅がせる。

「ワン!」

 サブローさんは勢い良く森の中を駆けていく。

「こっちか!?」

 後を追うと、目の前に茶色い土の塊のようなものが山のようにある。

「これは……ドラゴンの糞かな。キャベツの芯が入ってる」

 黄金のシャベルで森の中に大量に残されていたドラゴンの糞を観察する。

 周りに足跡も残っている。それに暖かい。まだこの近くにいるはずだ。

 俺たちは、慎重に森の中のドラゴンの巣を探した。

 確か村人の話ではドラゴンは洞窟の中に巣を構えているって言ってたな。

「ドラゴンて強いのかな」

 サブローさんが首を傾げる。
 トゥリンも凄く反対してたし、話によると熊より大きいらしい。

「ま、少し見て無理そうなら逃げてくればいいか」

 それに、本当に俺が勇者ならドラゴンくらい倒せるんじゃないかな、というなぜか楽観的な希望もあった。

「あっちの方に洞窟があるな。もしかしてあそこが巣かも。ちょっと見てくるか」

「ワン」

 サブローさんが耳をピクリと動かす。
 ソロリソロリと洞窟へと近づく。
 俺は頭の中でドラゴンの事を考えていた。

 一目見て駄目そうだったら逃げよう。

 もしいけそうだったら――どの角度から斬れば確実にドラゴンの急所を狙えるのかシミュレーションする。
 
 勇者の剣を振りイメージトレーニングをしていると、突然サブローさんの声が森の中に響いた。
 
「ワン!!!!!!」

 木の上からバサバサと鳥たちが逃げていく。

 明らかにただ事ではないと分かる声だ。

「サブローさん!?」

 振り返ると、手に握った綱を見る。
 引っ張ると、空っぽの首輪がカランと転がった。

「ええええ!? サブローさん??」

 俺の後ろを付いてきていたはずのサブローさんの姿がどこにもない。

 どうやらいつの間にか首輪からすっぽ抜けたらしい。

「クソッ、サブローさん、どこ行った!?」

 必死でサブローさんの鳴き声がした方向へ駆けていく。

「どこだよサブローさん……!!」


「グアアアアアアアアッ!!」

 すると大地を揺るがすような低いの鳴き声がした。

「あっちか!」

 たらり。
 額から汗が流れる。
 心臓の鼓動が早まる。

「サブローさんのやつ、まさかドラゴンに食われたんじゃないよな……」

 嫌な想像が脳裏をよぎる。

 いや、サブローさんに限ってそんなことは無い。逃げ足も早いし、きっとどこか安全なところに逃げてるはずだ!

「いた!」

 必死で森をかきわけ、ようやくサブローさんの姿を見つけた。

「サブローさ……」

 だが、駆け寄ろうとした俺はギクリと足を止めた。

 先程は木の影になっていたし、緑の皮膚が保護色になっていて気づかなかったが、サブローさんと向かい合うようにして大きな生き物が立っている。

 ゴツゴツとした鱗。ムチのように長い尾。そして牙のビッシリと生えた頑丈なアゴ。

 ドラゴンが、俺に背を向ける形で立っている。

 熊より大きいだなんてトゥリンは言ったが、大きいどころじゃない。確かにひと周りもふた周りもデカい。

 背筋を冷や汗が流れ落ちる。

「ウウウウウ……」

 ドラゴンの足元で鼻にシワを寄せ唸るサブローさん。

 全く、サブローさんたら何いっちょまえに威嚇してるんだよ。早く逃げろ!

 すると、サブローさんの目と俺の目がバッチリと合った。サブローさんは何か言いたげな顔をすると、すぐにまた「ウウウウウ」と唸り声を上げた。

 ……もしかしてサブローさん、ドラゴンの気を引き付けてくれてる?

 この隙に、背後から剣で仕留めろってことか!?

 俺はギュッと剣を握りしめた。
 やるしかない!

「おおおおおおお!!」

 俺はドラゴンの背後から思い切り剣を突き立てた。

 ――が。

 ガキイイイィン!!

 鋭い音を立て、勇者の剣は真っ二つに割れた。

 衝撃で数メートル吹っ飛ばされながら、俺の頭は真っ白になった。

 えっ、嘘だろ!?


 この勇者の剣……



 もしかして偽物!!??



 ゴオオオオオオオオオオオ!!


 続いて、何やら物凄い音。
 
 体感温度がグッと上がる。
 パチパチパチという音とともに、焦げ臭い匂いが辺りに充満する。

「えっ!?」

 ドラゴンに吹き飛ばされ地面に転がっていた俺は、急いで顔を上げた。

 ヤバい! もしやドラゴンって火も噴けるのか!?

 まずい!!

「逃げろ……サブローさーーーん!!」

 サブローさんが丸焦げになっちまう!


「サブローさーーーーん!!!!」

 俺は叫んだ。

「ワン?」

 しかし、そこに居たのは口から火を噴く茶色い犬。



「……えっ?」


「グオオオオオオオオオオ……」

 そして炎に身を包まれ、苦悶の声をあげるドラゴン。

 俺は口をポカーンと開けながら、丸焦げになっていくドラゴンを見守った。

 ゴオオオオオオオオオ。

 ぷすぷすと、黒い煙を上げるドラゴン。

「サブローさん……お前、火なんか吹けたのか!!」

「ワン!!」

 元気よく返事をしたその口から、小さな残り火が吹き出した。



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◇柴田のわんわんメモ🐾

◼犬の嗅覚

犬の嗅覚は、人間の100万倍以上だと言われている。しかし匂いを人より「強く」感じる訳ではなく「嗅ぎ分ける」ことに優れていて、匂いから沢山の情報を集めている。特に鼻が良いのはビーグルやバセットハウンドなど「嗅覚ハウンド」と呼ばれる犬種。
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