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8.魔王様vs魔王様
46.魔王様と魔王の肉塊
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扉に鍵はかかっていない。ゆっくりと押し開ける。
ギィ……。
扉を開けると、そこには人の倍ほどの大きさに成長した巨大な肉塊があった。
「……な、何あれ」
そして肉塊横には今回の件の首謀者が邪悪な笑みをたたえ立っていた。
「あら、いらっしゃい。遅かったのね」
クスクスと笑うその女は、頭から角が生え、露出度の高い革の衣服を身にまとってはいるが、間違いなくマリナである。
「角……マリナも魔物だったの?」
カナリスが戸惑う。
「ああ、セリの言った通りだな」
セリが言うには、マリナはサキュバスの血を引く悪魔で、学生たちの精気を吸い、操っていたのだという。
「セリ。そうそう、あの使えない駄犬、裏切ったのね。後でお仕置きをしておかなくちゃ」
妖しげな笑みをたたえるマリナ。
「びっくりしたな。いつもとまるで雰囲気が違うじゃないか」
カナリスが剣を構える。
「ええ、彼女もそう言っていたわ」
「彼女?」
マリナが暗がりをランタンで照らす。灯りの先には生徒会長が横たわっていた。制服が赤く染まっている。どうやら腹を刺されたようだ。
「シラユキ!」
「彼女、魔法は強いけど、精神異常魔法への耐性がまるでないみたいね。私が幻惑の魔法をかけたらこの通りよ。ま、満月で力が増してるってのもあるけど」
「この……っ」
カナリスが刀を振り上げマリナの方へと走る。
「カナリス、いけない!」
慌てて叫ぶも、蠢く肉塊から矢のように無数の触手が飛び出てくる。そのうちの一つがカナリスの足を穿ちカナリスは苦悶の表情を浮かべた。
「くっ」
足を止めるカナリス。そこへさらに触手が降ってくる。俺はモモちゃんを盾のように展開し攻撃を防ぐ。
「よくやった、モモちゃん」
カナリスにヒールをかけてやる。ルリハはフレイムで肉塊の触手を焼き払った。
カナリスはその隙に生徒会長を救出する。
「マオくん、ヒールを」
「うん、分かった」
傷口に手を当てヒールをかける。
真っ白な光が生徒会長を包む。
「ありがとう……うっ」
だが起き上がろうとした生徒会長がかおをしかめ腹を抑えた。見ると、塞いだハズの傷口が紫色に変色していた。
「ひょっとしたら毒かな。無理しないで、もう少し寝ていた方がいい」
俺は生徒会長を攻撃の届かない奥の方に寝せた。
「シラユキ……」
カナリスの顔が真っ青になる。俺はカナリスの肩を叩いた。
「カナリス、とりあえず血は止めたし命の危険はないと思う。それよりマリナたちを倒そう」
「う、うん。そうだね」
カナリスは剣を構える。大丈夫。カナリスの聖王神光剣があれば勝てるはずだ。
「たあああっ!」
カナリスが大きく剣を振りかぶる。が――
ガキン!
「何っ!」
カナリスの剣は、マリナの持つ漆黒の剣によって阻まれる。
「フフ」
黒い刀身をペロリと舐めるマリナ。
「あれは……」
まさか邪王神滅剣!?
武器屋にあったはずの邪王神滅剣を買ったのは、マリナだったか!?
「……まずいな」
俺は奥歯を噛み締めた。
不死身の魔王《おれ》を殺せる剣は、この世で二振りしか存在しない。
勇者の持つ聖王神光剣と、魔王の持つ邪王神滅剣だ。
すなわち邪王神滅剣を手にしたマリナの攻撃を食らえば、俺は死ぬ可能性があるのである。
ギリリと唇を噛み締める。
ルリハは困ったようにオロオロとしだした。
「気は進まないけど、マリナさんを倒せばいいのね?」
ルリハは唇を引き締め杖を構えた。
「ファイアー!」
炎が吹き出る。が、心無しか火力が弱い。
マリナの見た目が人間に近い分、戦うのに少し抵抗があるのかもしれない。
マリナの体が炎に包まれる。手足が茶色く焦げた。
だが次の瞬間、マリナの隣に居た俺の肉塊がピクリと動いた。
マリナの体が金色の光に包まれる。
マリナの体の火傷があとかたもなく消えていく。
「あの化け物、ヒールを使うの!?」
参ったな。いくら俺の体の一部とはいえ、俺と同じ魔法まで使ってくるとは。
「回復してくるのか。なら先にあっちを倒した方が良さそうだね」
ルリハが同意する。
「そうね、私もその方が戦いやすいわ」
「だああああっ!」
カナリスが剣を手に駆け出す。
襲いかかる触手。それを今度はルリハが焼き払う。いいぞ、ナイスコンビネーションだ。
だがそこはマリナが呪文を唱える。紫色の霧があたりを包む。毒の霧だ。
「モモちゃん!」
モモちゃんを大きな団扇の形に変形させる。
「だあっ!」
風を起こすと、俺たちの周りの霧が晴れた。
「でやあああ!」
カナリスが肉塊に斬りつける。真っ二つになる肉塊。だが――
「何っ」
真っ二つになった肉塊は、見る見るうちに再生していく。
「だめか。カナリス、聖王龍滅波を」
あれなら俺の体であろうと消滅させられるはず。だがカナリスは首を横に振った。額に変な汗がかいている。
「それが実はさっきヘドロ相手に打ってから、魔力が回復しなくて」
「え?」
なぜだ? 生徒会長がやられたから、動揺しているのだろうか。
「実は私も、さっきから魔力を節約してるんだけど、どんどん消耗している気がして」
ルリハも息苦しそうに肩で息をする。
「えっ、僕は別に平気だけど」
俺が戸惑っていると、マリナが大きく口を開けて笑う。
「ふふ、気づいたようね。この怪物は、魔王様の体の一部。その不死身の体は、一度傷がつくと周りの魔力を吸って回復しようとするの。この土地や建物からだけじゃない。あなた達からもね」
俺たちから、魔力や体力を奪っている?
「そんな、じゃあ、どうしたら」
「とりあえず、聖王龍滅波を撃てれば勝てるはず。カナリスの魔力が回復するまで、俺たちで粘ろう」
「それしかないわね」
俺とルリハはそれぞれの武器を握りしめた。
「たあぁっ!」
ナイフで斬りかかる。が、肉の腕に跳ね返される。咄嗟に受身を取ったものの、俺は地面をゴロゴロと転がった。
「マオ!」
「大丈夫だ。それより魔法で攻撃を」
「ええ」
ルリハが魔法を繰り出す。だが、自分の体だからこそ分かる。あまり効いていない。俺の体には火耐性、水耐性、風耐性がある。
俺のナイフによる物理攻撃も殆ど意味を成さない。やはりカナリスの聖王滅神剣でなくては。
「ふふ……貴方たちも魔王様の体の養分になりなさい。今夜は魔物の力が高まる満月。この学校の生徒たちの魔力を取り込んで、今度こそ魔王様は復活するのよ!」
「馬鹿な。そんなことをしても魔王は復活しない!!」
思わず叫ぶ。
「いいえ、復活するわ。貴方に何が分かるのよ!」
キッとマリナが睨む。だって魔王は俺だし……。
チラリとカナリスの顔を見る。相変わらず顔色が悪い。
「カナリス、あいつは人から魔力を奪う。距離を取って。後ろに下がって魔力を回復するんだ」
「だけど、二人が戦ってるのに」
「マオ、危ない!」
俺がカナリスと話している隙に、肉塊の触腕が俺の方へと向かってくる。
「くっ」
完全に油断してた。避けきれるか!?
ギィ……。
扉を開けると、そこには人の倍ほどの大きさに成長した巨大な肉塊があった。
「……な、何あれ」
そして肉塊横には今回の件の首謀者が邪悪な笑みをたたえ立っていた。
「あら、いらっしゃい。遅かったのね」
クスクスと笑うその女は、頭から角が生え、露出度の高い革の衣服を身にまとってはいるが、間違いなくマリナである。
「角……マリナも魔物だったの?」
カナリスが戸惑う。
「ああ、セリの言った通りだな」
セリが言うには、マリナはサキュバスの血を引く悪魔で、学生たちの精気を吸い、操っていたのだという。
「セリ。そうそう、あの使えない駄犬、裏切ったのね。後でお仕置きをしておかなくちゃ」
妖しげな笑みをたたえるマリナ。
「びっくりしたな。いつもとまるで雰囲気が違うじゃないか」
カナリスが剣を構える。
「ええ、彼女もそう言っていたわ」
「彼女?」
マリナが暗がりをランタンで照らす。灯りの先には生徒会長が横たわっていた。制服が赤く染まっている。どうやら腹を刺されたようだ。
「シラユキ!」
「彼女、魔法は強いけど、精神異常魔法への耐性がまるでないみたいね。私が幻惑の魔法をかけたらこの通りよ。ま、満月で力が増してるってのもあるけど」
「この……っ」
カナリスが刀を振り上げマリナの方へと走る。
「カナリス、いけない!」
慌てて叫ぶも、蠢く肉塊から矢のように無数の触手が飛び出てくる。そのうちの一つがカナリスの足を穿ちカナリスは苦悶の表情を浮かべた。
「くっ」
足を止めるカナリス。そこへさらに触手が降ってくる。俺はモモちゃんを盾のように展開し攻撃を防ぐ。
「よくやった、モモちゃん」
カナリスにヒールをかけてやる。ルリハはフレイムで肉塊の触手を焼き払った。
カナリスはその隙に生徒会長を救出する。
「マオくん、ヒールを」
「うん、分かった」
傷口に手を当てヒールをかける。
真っ白な光が生徒会長を包む。
「ありがとう……うっ」
だが起き上がろうとした生徒会長がかおをしかめ腹を抑えた。見ると、塞いだハズの傷口が紫色に変色していた。
「ひょっとしたら毒かな。無理しないで、もう少し寝ていた方がいい」
俺は生徒会長を攻撃の届かない奥の方に寝せた。
「シラユキ……」
カナリスの顔が真っ青になる。俺はカナリスの肩を叩いた。
「カナリス、とりあえず血は止めたし命の危険はないと思う。それよりマリナたちを倒そう」
「う、うん。そうだね」
カナリスは剣を構える。大丈夫。カナリスの聖王神光剣があれば勝てるはずだ。
「たあああっ!」
カナリスが大きく剣を振りかぶる。が――
ガキン!
「何っ!」
カナリスの剣は、マリナの持つ漆黒の剣によって阻まれる。
「フフ」
黒い刀身をペロリと舐めるマリナ。
「あれは……」
まさか邪王神滅剣!?
武器屋にあったはずの邪王神滅剣を買ったのは、マリナだったか!?
「……まずいな」
俺は奥歯を噛み締めた。
不死身の魔王《おれ》を殺せる剣は、この世で二振りしか存在しない。
勇者の持つ聖王神光剣と、魔王の持つ邪王神滅剣だ。
すなわち邪王神滅剣を手にしたマリナの攻撃を食らえば、俺は死ぬ可能性があるのである。
ギリリと唇を噛み締める。
ルリハは困ったようにオロオロとしだした。
「気は進まないけど、マリナさんを倒せばいいのね?」
ルリハは唇を引き締め杖を構えた。
「ファイアー!」
炎が吹き出る。が、心無しか火力が弱い。
マリナの見た目が人間に近い分、戦うのに少し抵抗があるのかもしれない。
マリナの体が炎に包まれる。手足が茶色く焦げた。
だが次の瞬間、マリナの隣に居た俺の肉塊がピクリと動いた。
マリナの体が金色の光に包まれる。
マリナの体の火傷があとかたもなく消えていく。
「あの化け物、ヒールを使うの!?」
参ったな。いくら俺の体の一部とはいえ、俺と同じ魔法まで使ってくるとは。
「回復してくるのか。なら先にあっちを倒した方が良さそうだね」
ルリハが同意する。
「そうね、私もその方が戦いやすいわ」
「だああああっ!」
カナリスが剣を手に駆け出す。
襲いかかる触手。それを今度はルリハが焼き払う。いいぞ、ナイスコンビネーションだ。
だがそこはマリナが呪文を唱える。紫色の霧があたりを包む。毒の霧だ。
「モモちゃん!」
モモちゃんを大きな団扇の形に変形させる。
「だあっ!」
風を起こすと、俺たちの周りの霧が晴れた。
「でやあああ!」
カナリスが肉塊に斬りつける。真っ二つになる肉塊。だが――
「何っ」
真っ二つになった肉塊は、見る見るうちに再生していく。
「だめか。カナリス、聖王龍滅波を」
あれなら俺の体であろうと消滅させられるはず。だがカナリスは首を横に振った。額に変な汗がかいている。
「それが実はさっきヘドロ相手に打ってから、魔力が回復しなくて」
「え?」
なぜだ? 生徒会長がやられたから、動揺しているのだろうか。
「実は私も、さっきから魔力を節約してるんだけど、どんどん消耗している気がして」
ルリハも息苦しそうに肩で息をする。
「えっ、僕は別に平気だけど」
俺が戸惑っていると、マリナが大きく口を開けて笑う。
「ふふ、気づいたようね。この怪物は、魔王様の体の一部。その不死身の体は、一度傷がつくと周りの魔力を吸って回復しようとするの。この土地や建物からだけじゃない。あなた達からもね」
俺たちから、魔力や体力を奪っている?
「そんな、じゃあ、どうしたら」
「とりあえず、聖王龍滅波を撃てれば勝てるはず。カナリスの魔力が回復するまで、俺たちで粘ろう」
「それしかないわね」
俺とルリハはそれぞれの武器を握りしめた。
「たあぁっ!」
ナイフで斬りかかる。が、肉の腕に跳ね返される。咄嗟に受身を取ったものの、俺は地面をゴロゴロと転がった。
「マオ!」
「大丈夫だ。それより魔法で攻撃を」
「ええ」
ルリハが魔法を繰り出す。だが、自分の体だからこそ分かる。あまり効いていない。俺の体には火耐性、水耐性、風耐性がある。
俺のナイフによる物理攻撃も殆ど意味を成さない。やはりカナリスの聖王滅神剣でなくては。
「ふふ……貴方たちも魔王様の体の養分になりなさい。今夜は魔物の力が高まる満月。この学校の生徒たちの魔力を取り込んで、今度こそ魔王様は復活するのよ!」
「馬鹿な。そんなことをしても魔王は復活しない!!」
思わず叫ぶ。
「いいえ、復活するわ。貴方に何が分かるのよ!」
キッとマリナが睨む。だって魔王は俺だし……。
チラリとカナリスの顔を見る。相変わらず顔色が悪い。
「カナリス、あいつは人から魔力を奪う。距離を取って。後ろに下がって魔力を回復するんだ」
「だけど、二人が戦ってるのに」
「マオ、危ない!」
俺がカナリスと話している隙に、肉塊の触腕が俺の方へと向かってくる。
「くっ」
完全に油断してた。避けきれるか!?
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