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7.魔王様と女子寮潜入

39.魔王様と女装

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「レノル、今、何と言った?」

 恐る恐る問いただすと、レノルは平然とした顔で答えた。

「女装しませんかと言ったのですが?」

 残念ながら聞き間違いでも空耳でも無かったようだ。脱力感とともに言葉を吐き出す。

「おかしいだろ。なぜ魔王たるこの俺が女装などしないといけないのだ」

 ただでさえ女顔なのがコンプレックスなのに、何を言い出すのかと思ったら。

「女子寮に潜入し、セリの部屋を探索するのです。上手くすれば、クザサ先生の工房から盗まれた魔王様の体が見つかるかも知れません」

 大真面目な顔で言うレノル。

「いやいや、お前がやれよ」

「私のような大きな女が居ますか。その点、魔王様なら小さ……女性と見まごうばかりの美しい容姿ですのでピッタリです」

「今、小さいって言おうとしただろ!?」

 確かに俺は、昔から女と間違われてきたから女子の制服を着てもはたから見たら違和感はないだろう。だが……

 レノルは大袈裟に息を吐いた。

「まさか魔王様、女装が嫌だと。たかだか女の制服を着るのがそんなにや嫌だと。はぁ、魔王様がそんなに器が小さい方だとは思いませんでした」

「器が小さいとは何事か」

 無礼な部下を睨みつけてやるも、俺の視線は事もなくスルーされた。

「魔王様、女装なんて、クザサ先生が感じた痛みに比べれば大したことありませんよ。今こそ、犠牲となった先生の為にも魔王様の本気を出す時です」

 いや……クザサ先生が苦しんでいるのは、半分お前のせいではないのか?

「……本当に、それ以外に方法は無いのか?」

 レノルの顔を見上げる。

「では魔王様には他に良いアイディアがあるので?」

 言われて少し考えてみるも特に良いアイディアは浮かばない。やはりセリの部屋にクザサ先生を襲った証拠があるのならば、女装してセリの部屋……女子寮に忍び込むしかないのか?

「分かった。着れば良いんだろ。俺は魔王だ。寛大な心で部下の提案を受け入れてやろう」

 諦めて承諾する。

「さすがは魔王様」

 満面の笑みで拍手をするレノル。
 何だかまんまと乗せられたような?

 ……でも問題は、どこから制服を手に入れるかだ。






「ね、ねぇルリハ、これでいい?」

 恐る恐る空き教室の外に出た。
 廊下にいたルリハが手を叩いて喜ぶ。

「いいじゃない、バッチリよ!!」

「そうかなぁ」

 鏡に映った自分の姿を見る。
 そこには白いブラウスに赤いネクタイ、そして青いスカートと女子の制服に身を包んだ俺がいた。

「まさかこの俺が女装だなんて」

「何言ってるの、ぴったりだわ」

 この制服は、ルリハのルームメイト、チグサから借りてきたものだ。さすがの俺でもルリハの制服は小さすぎて入らないから。

「確かにピッタリだ」

 チグサは別に女子の中でも大きいわけではない、どちらかというと平均的な体格だ。なのに、俺のために仕立てられたかのようにピッタリ。

 我ながら、こんなにも女子の服のサイズがピッタリ合うのかと思うと落ち込む。

「というか撮らないで」

 俺はスカートをおさえルリハを睨んだ。

「チグサに頼まれたの。制服を貸してもいいけど、代わりに女装したマオの念写像《しゃしん》を取ってきてって」

 笑いながら俺を撮るのをやめないルリハ。訳が分からない。

「着替えが済みましたか?」

 諸悪の根源ことレノルが教室に入ってくる。

「ああ、よく似合いますね。さすが魔王様」

 ニッコリと笑うレノル。こいつめ、後で覚えておけよ。

「ふん、当然だ」

「ルリハさんも、ご協力ありがとうございます」

 レノルはルリハに頭を下げる。

「私はマオのパーティーメンバーですから、協力するのは当たり前です。それに、クザサ先生のラボから魔王の体が盗まれただなんて、一大事だわ」

 ルリハは渋い顔をする。

「でもそんな大事なこでも警察とか、警察沙汰にできないなら生徒会長とかに頼まなくて大丈夫なんですか?」

「ええ、それなんですが、私はクザサ先生に魔王の体をこっそり回収するように頼まれているんです。個人が魔王の体を勝手に持ち出し、研究していたわけですから、政府や学園にバレたら彼の身も危ないのです」

 全くペラペラペラペラと、よくもまあそんな都合のいい設定を思いつくなぁ。

「そっか。クザサ先生のためにも、学園にも内緒で回収しないといけないわね」

 ムンと拳をにぎりしめるルリハ。すっかりやる気になっている。

「魔王様の体がこの学園に迷惑をかけているだなんて、私にも責任があるわ」

 これっぽっちも責任などないのに、痛ましい表情をして打ちひしがれているルリハ。

 俺はくるりとスカートを翻した。

「とは言え、この姿で歩いてるところを他の奴らに見られたらかなりまずいと思うんだけど」

「大丈夫ですよ、放課後でみんなほとんど帰ったし、見つかっても罰ゲームだって言えばいいんですよ」

「そうね。全く違和感が無いわ。アンタ、普段からその格好したら?」

 ルリハまで何だか嬉しそうだし。
 いくらこの俺が超絶美形だからって、それは無いだろう。

「仕方ない、とりあえず女子寮へ行くか」

「あ、ちょっと待って」

 ルリハが教室を出ようとした俺の腕を引っ張る。

「せっかくだからもっと完成度を上げましょう」

「え?」

 完成度とは一体。訝しんでいると、ルリハはゴソゴソと鞄を漁りだした。

「えーっと、どこ行ったかな?」

「何?」

「あったわ、色つきリップ。これをつけたら、きっともっと可愛くなるわよ」

 ルリハは、ピンク色をしたリップクリームを取り出すと、俺の口に塗り始めた。

 ちよっ……お前!

 思わず俺はその場に凍りついた。

「うんうん、いい感じ」

 レノルがニヤニヤと笑った。

「おやおや、間接キスですね」

 ルリハの顔が見る見るうちに赤くなっていく。どうやら間接キスだとは気づいていなかったようだ。

「だ、だってしょーがないでしょ!? 私は大人だから、たかが間接キスぐらい平気よ!」

 思わず俺の顔も熱くなる。

「そ、そうだ! 僕だって、こんな胸が平らな女の子と間接キスをしても何とも思わな……あててててて!」

 ルリハが思いっきり耳を引っ張る。

「いやぁ、青春って良いですねぇ」

 茶化すように言うレノル。こいつめ、色々と覚えておけよ。

「ふん、とっととセリの部屋に魔王の体を探しに行くわよ」

 ルリハは茹でダコみたいになりながら俺のローブを引っ張った。

「わーっ、待ってよルリハ!」

 俺はルリハに引きずられるようにして女子寮へと向かった。

 本当に、大丈夫なのだろうか?
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