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6.魔王様と襲撃事件

34.魔王様と襲撃

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 クザサ先生が襲われた!?
 一体なぜ。

「どうしたの、血相を変えて」

 教室へと急いでいると、マリナに呼び止められる。

「えっと――」

「大丈夫? 顔が真っ青よ。具合でも悪いの?」

 よほど怖い顔をしていたらしい。心配そうな目で見つめられる。

「それが、クザサ先生が……事故で入院したらしくて」

「クザサ先生が?」

「うん。職員室が大騒ぎだったよ」

 冷静に言ったつもりだったが、動揺が透けて見えたのだろう。マリナは小さな子供をあやす様に俺の背中を撫でた。

「そう。クラスのみんなには私から伝えておくわ。だからマオくんは心配しなくて大丈夫よ」

「ありがとう」

 だけど――

 やはり気になる。

 なぜクザサ先生は襲われたのだ。
 一体誰が。何のために。

 何となく落ち着かない気持ちで教室に入り席に着くと、ピコンと投影機が鳴り、レノルからメッセージが入った。

 >【レノル】今から出れますか?

 何だよもう、こんな時に。焦りながらもメッセージを返送する。

 【マオ】今からって、お前今どこに居るんだよ。

 >【レノル】アレスシアです


 なぜあいつがこの街に?
 よっぽど急ぎの用なのだろうか。それとも――

 仕方なく、人気の無いところに移動して通話を開始する。

「こんな時にどうしたんだよ。こっちじゃクザサ先生が」

「ええ、そのクザサ先生についてなんですが、昨夜襲われて、今朝私が見つけて助けたんですよ。今からその件についてお話したいのですが」

「は?」

 クザサ先生を助けた神官ってレノルだったのかよ!

「わ、分かった。今行く」

 仕方ない。今日は早退しよう。荷物を取りに教室に戻る。

 鞄に荷物を詰めていると、カナリスがびっくりしたような顔でこちらを見やる。

「どうしたの、マオくん」

「ごめん、僕、ちょっと具合が悪くて。早退するよ。じゃあね!」

「う、うん。気をつけてね?」

 教室を出ると、急いで外へと駆け出す。
 一体何が起きていると言うのだ。





 校舎の外に出ると、校門前に見慣れた白い法衣姿が見えた。俺は全速力で駆け寄った。

「レノル!」

「お久しぶりです」

 レノルが頭を下げる。全身白の法衣で長い銀髪のレノルは何だか酷く目立つ。

「一体どうしたんだよ」

 肩で息をしながら聞いてみると、レノルは呑気な口調で返した。

「いえ、丁度クザサ先生が目を覚ましたようなので、二人でお見舞いに行きませんかと思いまして」

「お見舞い? いやそれはいいのだが、お前、何でアレスシアに居るんだよ。それにクザサ先生を助けたって話は本当か」

「ええ、私が助けましたよ。傷はすべて塞いだんですが、毒魔法で伏せっています」

 毒?

「一体誰がクザサ先生を……」

 俺が腕を組み考え込むと、レノルは首を横に振った。

「分かりません。私がクザサ先生の家に着いた時にはすでにもう」

 悲しげな表情を作るレノル。俺はその顔をじっと見上げた。こいつ何だか怪しい。何かを俺に隠しているな?

「というかお前、何でクザサ先生の家に行ったんだよ。まさかとは思うがお前」

「いえいえ、とんでもない。私は何もしてませんよ」

「だよな」

 いくらレノルとは言え、いきなり訳もなくクザサ先生を攻撃するはずもない。
 ではなぜ、こいつはアレスシアに来たのだ。クザサ先生を助けたのは本当に偶然か?

 レノルは大きな息を吐いた。

「ほら、前にも話した通り、クザサ先生と私は同級生でしょう?」

「ああ、それは聞いた」

「それで、魔王様のことを色々と相談をしようと会う約束をしていたのですが、中々待ち合わせ場所に現れないので、自宅に行ってみたところ、タイミング良く死んでたので、とりあえず蘇生させたというわけです」

 タイミング良すぎないか?
 でも嘘を言っているようには見えない。

「そうだったのか。それは御苦労だったな」

「ええ。で、蘇生はしたんですが、色々と動き回られると邪魔なので、とりあえず傷口に毒魔法を仕込んで身動きを取れないようにしたんですが」

「それは何もしていないとは言わない」

 思わずピタリと足を止めてこの悪魔の顔を見上げた。

 ということは……先生が毒で入院しているのはお前のせいではないか!

 俺は頭を抱えた。

「大丈夫か? 第一発見者なんてただでさえ怪しいのに」

 これでレノルの正体がバレれば、芋ずる式に俺の正体までバレる可能性がある。軽率な行動は慎んでほしい。

「大丈夫ですよ。毒魔法というのは闇属性魔法です。私は光魔法使いと思われていますから、容疑者からは外れます」

 レノルが言うには、レノルの闇属性は二十年ほど前、魔物になる際に後天的に獲得した属性なのだそうだ。

 なので人間の時に登録した魔法使い登録書や神官名簿はすべて光属性となっている。怪しまれることは無いだろうとの事だ。

「そうだな。まさか蘇生をした人間が毒を盛るとは誰も思わないだろうし」

 とりあえずバレないことを祈るしかない。
 はぁ。レノルにはなるべく余計なことはしないで欲しいのだが、こいつが素直に俺の言うことを聞くとも思えない。

 俺はチラリとレノルを見上げた。

「どうしたんです?」

「いや。とりあえず病院へ急ごう」


 数分歩くと、クザサ先生が入院しているという病院にたどり着いた。

 神殿の真横に沿うような形で建っている病院はやけにひっそりとしている。

 ひょっとしたら今は面会の時間では無いのかもしれないが、看護婦はレノルの姿を見ると慌てて案内してくれた。

「ここは神殿が経営している病院なんですよ。だから神官には優しいんです」

「なるほど」

 クザサ先生の部屋は二階の一番奥の個室だ。

「失礼します」

 カーテンを開けると、顔色の悪いクザサ先生がベッドに横たわっていた。

 元々げっそりとしていた顔がさらにやせ細り目元の隈も濃くなっている。
 元々死神っぽかったのにさらに死神度が増した気がする。

 いつもと違う先生の痛ましい姿に、思わず心が痛んだ。

「先生……」

 先生を襲撃したのは、一体誰なんだ?
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