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4.魔王様と氷の女王様

25.魔王様と氷の女王様

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「これでよしっ……と」

 「ヒール1回100ゴールド」の看板を掲げ、教会の前に立つ。

 新魔王軍の騒ぎも気になるが、それより今の俺にはお金を稼いで邪王神滅剣を手に入れる事の方が重要である。

 MPも上がったし、以前よりもっと沢山の人を治せるはず。

 意気込んでいると早速お爺さんがやってきた。

「指を怪我しちゃって。治してくれるかい?」

「うん、いいよ」

 怪我した指を掌で包み治療を施す。

「おお、凄いぞ坊や」

「えへへへへ」

 お金も貰えるし、人から感謝もされるし、ああ、労働とはなんと尊いものなのだろうか。

 神殿の前でアルバイトを始めてからというもの、俺はすっかり労働意識に目覚めてしまい、この商売に夢中になっていた。

「ありがとう。それじゃ」

「お大事にー!」
 
 俺はお爺さんの後ろ姿を見送り手を振ろうとした。

「あれ?」

 だが振りかけた手を思わず引っ込める。雑踏の中へと消えていくお爺さん。その人混みの中に、見覚えのある後ろ姿が見えたのだ。

 極端に短いスカートにジャラジャラと付けたアクセサリー。クラスのビッチ女ことセリだ。

 セリは、同じくチャラチャラしたクラスの男子数人を引き連れ、怪しげな雑居ビルに入っていく。

「どこに行くんだ?」

 レベル10以上の生徒は冒険者ギルドのクエストを受けてもいいので、生徒が外にいてもおかしくはない。

 だがここは冒険者ギルドとは逆の方向だし、セリと一緒にいたのは彼女のパーティーメンバーではない。それに冒険に行くという雰囲気でもなかった。

 先程見た魔王復活をだしにカツアゲをする連中や、魔王の噂の出どころがうちのクラスだという話を思い出す。

 まさかあいつら、新魔王軍とかいう集まりに参加してるんじゃないよな?

 気になり後を追おうとしたその時――

 ぐいっ。

 いきなり後ろからローブを掴まれた。

「何す――」

「『何するんだ』はこちらのセリフだ」

 振り返ると、そこに仁王立ちしていたのは生徒会長であった。血の気がさっとひいた。

 やばい。

「探したぞ。貴様こんな所で何をしている?」

 凍てつく瞳が俺を射抜く。

 俺は石化したかのようにその場に固まった。よりにもよって一番見られてはいけない人に見られた。

「えっと……ちょっと外の空気を吸いに……」

 さりげなく「ヒール1回100ゴールド」の看板を隠そうとしたが、生徒会長は目ざとく看板を見つけると、ぐいと取り上げた。

 生徒会長はふん、と鼻で笑う。

「貴様の様子がおかしいと思い尾行してみたら……まさか大人しそうな顔をして、こんな事をしてお金を稼いでいるとは。中々度胸のあるやつだな。だがこの事が学校にバレたら停学、いや停学になるのではないか?」

 まさか生徒会長に尾行されていただなんて!

 全身から血の気が引いた。

「ま、待ってください!」

 ずんずんと看板を持って学校の方へ歩いていく生徒会長。角を曲がり学校への近道の裏道に入る。

 まずい。これは非常にまずい!
 ええい、こうなったら……

 俺は周りに誰もいないのを確認してガバリと頭を下げた。

「す、すみません! もうしないので見逃して下さい!」

 くらえ。必殺、うるうるショタッ子上目遣い! 必死に瞬きを繰り返して涙をひねり出すと頭を下げる。

 少しは狼狽えるかとチラリと生徒会長の顔を見るも、会長は相変わらず無愛想な顔で少し眉を上げた。

「そんなんで許して貰えると思っているのか?」

 こいつ人の心ってもんがないのか。こんなに純真可憐で可愛らしいショタが頭を下げてるのだぞ!?

「すみません。なんでもしますから!」

 仕方ない。恥を忍んで土下座をする。
 せっかく仲間もできて落第回避の道筋が見えてきたのに、こんな所で退学になってたまるか!

「そうか」

 会長の言葉と共に背中に痛みが走る。

「ぐっ!?」

 顔を上げると、会長の黒タイツに包まれた長い足と太もも、軽蔑に満ちた瞳が見えた。

 くっ、こいつ、魔王であるこの俺の背中を足蹴にするとは!

「ああ、すまんな。ご存知の通り私は男性に触れない。だから靴越しというわけだ。悪気は無いのだが――」

 ニヤニヤ笑みを浮かべる生徒会長。これがわざとである事は誰の目にも明らかなのに白々しい女だ。

「貴様がそこまで言うなら許してやらんでもない」

 会長に蹴られ、俺はゴロリと地面を転がる。黒いローブが砂と落ち葉だらけになった。

「くっ……」

「丁度いい。貴様には話があったのだ。顔を貸せ」

 ぐいと生徒会長は親指で背後の建物をさした。

「話……?」

 振り返ると、そこには街路樹の影に隠れるようにして建っている古びた喫茶店があった。

 カランコロン。

 古びたベルが鳴る。

「二人だ」

 生徒会長が店員に向かって二本指を見せると、俺たちは奥の席へと案内された。

 ステンドグラスの美しいシックな店内は、カウンター席に常連と思しき客が二人ほど居るだけでガラガラに空いている。

 俺と生徒会長はコーヒーを注文した。
 気まずい沈黙が二人の間を包む。

 話って何だろうか。やはり生徒会長は俺を魔王だと疑っているのだろうか。

 いや、それより――何とかしてアルバイトのことを見逃して貰わないと!
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