上 下
16 / 49
3.魔王様と黄金の聖剣使い

16.魔王様と謎の少年

しおりを挟む
 目の前に現れたネズミ型のモンスター。

 こいつはスコップラットという、低級の魔物である。

 元々、人里近くに住む魔物ではあるが、こんな都会にまで出没するとは珍しい。それも結界が張られているはずの校舎の中に居るだなんて。

 とりあえずダガーナイフを構えると、相手を刺激しないようにゆっくり後ずさりをした。

 低級モンスターと言えど、今の俺の実力ではルリハなしの一対一では勝てるかどうかも怪しい。

 できれば気付かれる前に玄関から逃げたい。

 じりじりと見つめ合う俺とスコップラット。

 スコップラットはゆっくりとにじり寄ってくる。明らかに殺気立っている。

 ゴトリ。

 風が吹いて玄関の戸が揺れる。
 スコップラットの視線が外に逸れた。

 今だ。

 俺は全力でダッシュした。
 このまま逃げて職員玄関口から帰ろう。
 だがその瞬間、俺の足は何かを踏みズルリと滑った。

「ええっ?」

 羽織っていた長いローブに足を取られたのだと気づいた時には時既に遅し。

 俺は思い切り顔から廊下に突っ伏してしまった。

 ――カランカラン。

 おまけにナイフまで廊下を滑り手の届かない所へ飛んでいく始末。

 まずい。早く武器を――

 立ち上がろうとした俺の頭上へ、スコップラップのスコップが迫った。

 やられる。

 思わず両目をつぶった。
 こうなったら仕方ない。どうせ不死身だし、攻撃の一度や二度受けても、大したことは――
 
 ガキン!

 鋭い金属音が廊下に響き渡る。

「痛たたたたっ――って、あれ?」

 痛くない。

 スコップラットが攻撃を止めた?

 恐る恐る目を開けると、青くはためくマントが目に飛び込んできた。

 サラサラと風になびく輝かしいブロンド。海の底みたいに青く綺麗な瞳に、輝く黄金の剣。

「きみ、大丈夫?」

 気がつくと、見知らぬ金髪碧眼の美少年が、スコップラットを真っ直ぐに斬り捨てていた。

「危ないところだったね」

 少年は柔らかく微笑む。俺は床に座り込んだままその顔を見つめ返した。

「ありがとう。助かったよ」

「ううん。無事で良かった」

 開いた窓から吹きこむ風で前髪が揺れる。夕日に照らされた白い顔はまるで天使のようで、男の俺でも思わず見惚れてしまうほどだ。

 美少年が俺に手を差し出す。

「大丈夫。起き上がれる?」

「ああ、うん。ありがとう」

 彼の手を取ろうとしたところ、腰がズキンと傷んだ。

「――うっ」

「どうしたの?」

「いや、転んだ拍子に腰を痛めたみたいで」

「それは大変だ。無理して起き上がらないほうがいいかも知れない」

 腰をさすってくれる美少年。

「あ、ああ。ありがとう」

 俺が呆気に取られていると、今度はカツカツという高い靴音が近づいてきた。

「カナリス、ここにいたのか」 

 不機嫌そうな女の声。

 顔を上げると、長身の女生徒が長い髪をなびかせている。

 この女生徒には見覚えがある。

「生徒会長?」

 思わず口に出すと生徒会長は冷たい瞳で俺を見下ろした。

「おや、私を知っているのか」

「ええ、有名人ですから」

「そうなのか?」

 無表情に髪をかきあげる生徒会長。

 知っているも何も、入学式で見たし。
 才色兼備でテストではいつも一位、クールな美貌で、「氷の女王」と呼ばれる生徒会長を知らない者など、この学園には存在しないであろう。

「おーい、会長、カナリス、どうしたんだ」
 
 茶髪で背の高い男が走ってくる。背中にデカい大剣を背負った体格のいい男だ。

「ああ、副会長。スコップラットが校内に侵入してきて、この生徒が襲われていたんです」

 カナリスが大男に事のあらましを説明する。どうやらこの大男は生徒会の副会長らしい。

「そうか。校内でモンスターが増えているという噂は本当だったのか」

「これも魔王軍の仕業か?」

「いや、分からない」

「いずれにせよ、これからは校内の見回りも強化していかないと」

 三人がコソコソと会話を交わす。

 魔王軍? 一体何のこととだ。

 訳が分からないまま三人を見つめていると、カナリスがクルリと振り返った。

「それより、今は彼を保健室に」

「えっ、いや、大丈夫ですよ」

 慌てて首を横に振るも、カナリスは心配そうに俺を見つめる。

「でもさっき、腰を痛めたって」

「そうか、なら僕が保健室に連れていこう」

 大男が俺をかつぎ上げる。

「ひゃあっ!」

「なんだ小僧、まるで女子みたいだな」

 はっはっはと笑う副会長。失礼な。

「じゃあ副会長、頼みますよ」

「私たちは見回りを続ける」

 カナリスと生徒会長が去っていく。
 俺は副会長に担がれ、保健室に連れてこられた。

 保健室にはもうすでにルリハの姿はない。
 回復して寮に帰ったのだろう。
 少し皺になったなったのシーツから、ほんのりと温かさを感じた。

「ここで少し休んでいくといい」

 副会長が俺をベットに寝かせ、カーテンを引く。

「はい、ありがとうございます」

 なにせ不死身なので、腰はもう良くなっているし怪我も無いのだが、折角だし少し休んでいくことにする。

「じゃあ、僕はこれで」

 パタン、と保健室のドアが閉まる。
 俺はベッドの中で目をつぶった。

「あの金髪の少年――カナリスとか言ったか」

 脳裏に浮かぶのは、カナリスの青く透明な瞳。そして豊かな金髪と長い黄金の剣。

 とっても綺麗な顔で、優しそうで、非の打ち所のない、そんな少年であった。だけど――

 背中がゾクリと冷える。

「どこかで見覚えがあるような?」

 だけど、どこで彼に会ったのか、俺は全く思い出せなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。

あずももも
ファンタジー
【護られる系柚希姫なユズちゃん】【姫が男? 寝ぼけてんの?】【あの可愛さで声と話し方は中性的なのが、ぐっとくるよな】【天然でちょうちょすぎる】【ちょうちょ(物理】(視聴者の声より) ◆病気な母のために高校を休学し、バイトを掛け持ちする生活の星野柚希。髪が伸び切るほど忙しいある日、モンスターに襲われている小さな何かを助ける。懐かれたため飼うことにしたが、彼は知らない。それがSクラスモンスター、世界でも数体の目撃例な「ユニコーン」――「清らかな乙女にしか懐かない種族」の幼体だと。 ◆「テイマー」スキルを持っていたと知った彼は、貧乏生活脱出のために一攫千金を目指してダンジョンに潜る。しかし女装した格好のままパーティーを組み、ついでに無自覚で配信していたため後戻りできず、さらにはユニコーンが「男子らしい格好」だと言うことを聞かないと知り、女装したまま配信をすることに。 ◆「ユニコーンに約束された柚希姫」として一躍有名になったり、庭に出現したダンジョンでの生計も企んでみたらとんでもないことになったり、他のレアモンスターに懐かれたり、とんでもないことになったり、女の子たちからも「女子」として「男の娘」として懐かれたりなほのぼの系日常ときどき冒険譚です。 ◆男の娘×ダンジョン配信&掲示板×もふもふです。主人公は元から中性的ですが、ユニコーンのスキルでより男の娘に。あと総受けです。 ◆「ヘッドショットTSハルちゃん」https://kakuyomu.jp/works/16817330662854492372と同時連載・世界観はほぼ同じです。掲示板やコメントのノリも、なにもかも。男の娘とTSっ子なダンジョン配信ものをお楽しみくださいませ。 ◆別サイト様でも連載しています。 ◆ユズちゃんのサンプル画像→https://www.pixiv.net/artworks/116855601

処理中です...