2 / 11
馴れ初め
鳥取支社
しおりを挟む
外に出ると蒸し暑い空気の塊が全身を包む。
鳥取の日光にさらされて九条はアパートを出る。九条は殆ど生きる意味を見失っていた。
「本社からきました。九条響です。よろしくお願いします。」
簡単な挨拶をして辺りを見回せば、覇気のない面構えが並ぶばかりである。
「九条くんよろしくね。何か分からないことがあればいつでも聞いてね」と新しい上司が言う。呑気な雰囲気に不安を覚えたが、東京ほどの息苦しさは感じなかった。
九条は働き詰めていた。仕事をしている時間は全てを忘れることができた。毎食カップラーメンを食べ、毎日日付が変わるまで働き、朝は始業に間に合うギリギリまで寝ていた。タイムカードもしっかり切っていたが、誰からも何も言われなかった。
梅雨が明け、日に日に暑さが強くなってきた。そんなある日、数ヶ月に一度の営業成果報告会、、という名の飲み会があった。そのため仕事は午前帰宅という事になっていたが、九条は断りを入れ会社で仕事をしていた。周りは誰もいない環境で心を落ち着かせることができた。午後4時頃に九条は自分の汗が尋常じゃない量吹き出している事に気づいた。「エアコンはついているはずだよな」と確認に立ち上がった瞬間、立ち眩みがして目の前が真っ暗になった。ドサッとデスクの上の物と共に大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。「えぇ、このまま死ぬんかな。まぁいいや」と目を閉じた。
再び目を明けた時と医務室の天井が視界を占領した。そして視界の端には大きな背中があった。ハッとして起き上がると、
「あ、起きましたか。体調は大丈夫ですか?」
一ノ瀬陽向。彼は共に働いている同僚で、いわゆる高身長イケメンという言葉を具現化したような姿だった。女子社員からは猫撫で声でチヤホヤされいて、かつ真面目な性格だったので上司からも頼られていた。九条は一ノ瀬のことを嫉妬や妬みに似た感情で最初は嫌っていた。ある時、同僚の吉岡紗枝が彼に告白しているのを見た事がある。彼女はかなり可愛い小動物系で、その告白を一ノ瀬は当然受けるものだと思っていた。しかし、彼はその告白を断った上、「俺の何が分かるの?」と言葉を吐き捨ててその場を後にした。大人しそうな見た目からは想像できない冷酷さに驚き、吉岡が他の女性社員に慰められるのを眺めていた。九条は一ノ瀬に興味を持ち始めていた。
「あ、えっと、もしかしてここまで運んでくれました?ありがとうございます。」
「いえ、オフィス凄い暑さでしたよ、なんで気をつけなかったんですか。」
「すみません」
そう言って九条はまるで思い出したかように言葉を繋げた。
「そういえば、飲み会は?」
「あぁ、僕はああいうノリきらいなんで」
と笑顔で微笑みかけてくる。辛さを含んだその笑顔は九条の心に響くものがあった。久しぶりに人の優しさに触れた九条は肩の緊張が解け、遂には涙を零してしまった。
「あれなんで俺」そういって大粒の涙を笑顔を作りながら溢している九条を見て一ノ瀬はどうすればいいか分からなかった。
「疲れてるんだよ、きっと。大丈夫ですよ、。僕で良ければ話聞きますよ。」と一ノ瀬は言った。
それから九条は東京での上司や親友と彼女の裏切りを全て話した。そして一ノ瀬はその全てを受け入れ、2人は仲を深めた。
夜9時、外から土砂降りの雨足と雷鳴が聞こえる。
鳥取の日光にさらされて九条はアパートを出る。九条は殆ど生きる意味を見失っていた。
「本社からきました。九条響です。よろしくお願いします。」
簡単な挨拶をして辺りを見回せば、覇気のない面構えが並ぶばかりである。
「九条くんよろしくね。何か分からないことがあればいつでも聞いてね」と新しい上司が言う。呑気な雰囲気に不安を覚えたが、東京ほどの息苦しさは感じなかった。
九条は働き詰めていた。仕事をしている時間は全てを忘れることができた。毎食カップラーメンを食べ、毎日日付が変わるまで働き、朝は始業に間に合うギリギリまで寝ていた。タイムカードもしっかり切っていたが、誰からも何も言われなかった。
梅雨が明け、日に日に暑さが強くなってきた。そんなある日、数ヶ月に一度の営業成果報告会、、という名の飲み会があった。そのため仕事は午前帰宅という事になっていたが、九条は断りを入れ会社で仕事をしていた。周りは誰もいない環境で心を落ち着かせることができた。午後4時頃に九条は自分の汗が尋常じゃない量吹き出している事に気づいた。「エアコンはついているはずだよな」と確認に立ち上がった瞬間、立ち眩みがして目の前が真っ暗になった。ドサッとデスクの上の物と共に大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。「えぇ、このまま死ぬんかな。まぁいいや」と目を閉じた。
再び目を明けた時と医務室の天井が視界を占領した。そして視界の端には大きな背中があった。ハッとして起き上がると、
「あ、起きましたか。体調は大丈夫ですか?」
一ノ瀬陽向。彼は共に働いている同僚で、いわゆる高身長イケメンという言葉を具現化したような姿だった。女子社員からは猫撫で声でチヤホヤされいて、かつ真面目な性格だったので上司からも頼られていた。九条は一ノ瀬のことを嫉妬や妬みに似た感情で最初は嫌っていた。ある時、同僚の吉岡紗枝が彼に告白しているのを見た事がある。彼女はかなり可愛い小動物系で、その告白を一ノ瀬は当然受けるものだと思っていた。しかし、彼はその告白を断った上、「俺の何が分かるの?」と言葉を吐き捨ててその場を後にした。大人しそうな見た目からは想像できない冷酷さに驚き、吉岡が他の女性社員に慰められるのを眺めていた。九条は一ノ瀬に興味を持ち始めていた。
「あ、えっと、もしかしてここまで運んでくれました?ありがとうございます。」
「いえ、オフィス凄い暑さでしたよ、なんで気をつけなかったんですか。」
「すみません」
そう言って九条はまるで思い出したかように言葉を繋げた。
「そういえば、飲み会は?」
「あぁ、僕はああいうノリきらいなんで」
と笑顔で微笑みかけてくる。辛さを含んだその笑顔は九条の心に響くものがあった。久しぶりに人の優しさに触れた九条は肩の緊張が解け、遂には涙を零してしまった。
「あれなんで俺」そういって大粒の涙を笑顔を作りながら溢している九条を見て一ノ瀬はどうすればいいか分からなかった。
「疲れてるんだよ、きっと。大丈夫ですよ、。僕で良ければ話聞きますよ。」と一ノ瀬は言った。
それから九条は東京での上司や親友と彼女の裏切りを全て話した。そして一ノ瀬はその全てを受け入れ、2人は仲を深めた。
夜9時、外から土砂降りの雨足と雷鳴が聞こえる。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
僕に溺れて。
ヨツロ
BL
無自覚美人の主人公が、ヤンデレ系幼馴染に溺愛される話です。初手監禁、そのまま射精管理、小スカ、アナル開発になります。基本的にR18シーンですが、特に際どいものには※をつけてあります。暴力は一切ありません。どろどろに愛されてる受けと、受けが好きすぎてたまらない攻めを書きます。薬の使用頻度高めです。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる