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38話 素直にはなれない①

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 翌朝。
 恐らく一睡もしていないであろうコニーに、私は身支度をしてもらっていた。
 鏡に映るコニーが私の髪を整えるのを観察する。

 コニーの顔色は悪くはないけれど、徹夜明けはしんどいでしょうから、少し心配だわ。

「コニー、あなた大丈夫なの? 自分の支度は出来たの?」

「は、はい……! ご心配なく! 全て、終えております!」

「そう、ご苦労様。あなた眠れていないでしょうから、馬車の中で休むといいわ」

 コニーは私の髪の毛を梳く手を止めて、大袈裟に両手と首を振る。

「い、いえ! アイヴィ様がお休みでない時に、メイドの私が休むわけには……!」

「命令よ、コニー。あなたの体調管理は私の義務でもあるの。必ず休みなさい」

「はっ、はい……!! あの、あ、ありがとうございます」

「別に礼を言われることは言ってないけれど……」

 コニーは律儀に何度か頭を下げて、私に感謝の意を伝える。
 もういいったら、そう告げるとコニーはようやく頭を上げた。

「コニー。私が頼んだ長袖のドレスは多めに入れてくれた?」

「は、はい! で、ですが……日焼け対策だとしても、かなり暑いかもしれません……」

「いいのよ。私寒がりだから」

 もちろんそんなのは真っ赤な嘘だけど。
 そうでも言わないとコニーは半袖のドレスを推して来そうだから仕方ない。
 コニーは私の嘘を信じたのか、それ以上は特に突っ込んで来るようなことはなかった。
 
 支度を終えて城門前へ向かうと、わざわざ国王様と王妃様がいらして、私達の出発の見送りをしてくれた。

「ライナス、アイヴィさん。気を付けて行ってくるのよ。ちゃんと無事に帰って来てね、絶対よ!」

「はい、母上」

「ありがとうございます、王妃殿下」

「アイヴィさん?」

「セッ……セリーナ様」

 王妃様を名前呼びしなかったら、顔は笑顔のままだけど妙な圧を感じたので反射的に名前を呼ばせて頂く。
 王妃さ……セリーナ様は満足したのか、圧が消えてニコニコと優しい笑顔に戻った。

 こ、怖いわ。今の圧は気のせいじゃないわよね?

 国王様はそんなセリーナ様に慣れているのか、特に諌めるようなこともせず、ライナスと私に言葉をかけてくれる。

「ライナス、頼んだぞ。先方に失礼のないようにな。それから聖女殿、必ずノノメリア王女を救って欲しい」

「はい、父上」

「はい。尽力致します、国王陛下」

 馬車に乗り込み、国王夫妻に会釈をする。
 馬車はガタンと一度大きく音を鳴らしてから、ゆっくりと動き始めた。

「気を付けてねー!」

 セリーナ様がハンカチをヒラヒラさせながら私達の姿が見えなくなるまで大きく手を振るのを、最後まで見届けた。

 私とライナスの二人の馬車、その後ろの馬車にライナスの従者とレグランとコニー、そして荷馬車と護衛兵士が続く。かなりの大所帯だ。

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