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17話 それはきっと恋②

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「悪い……シンデレラ……まさか人違いだったなんて……どう詫びたらいいのか……」

 自分の勘違いで関係のないシンデレラを巻き込んでしまい、シゼルは恥と申し訳なさの入り交じった謝罪をする。
 悲壮感漂うシゼルに、シンデレラは容赦ない言葉を投げかけた。

「薄々思っていましたけど……魔法使いさんって結構ポンコツですか?」

「やめてくれ! ちょっと自覚あるから! トドメを刺さないでくれ!」

 シゼルは両手で顔を覆って叫ぶ。
 傷心のシゼルの横に並んで座ると、シンデレラは夜空を見上げた。

「変だとは思ったんですよね。王子と会っても運命なんて微塵も感じませんでしたし、むしろ他の女性と踊っているのを見て『良かった』って安心しちゃいましたし」

「……」

「人違いで良かったです。王子の妻だなんて一切なりたくなかったですから。別のシンデレラで安心しました。それに割と今日楽しかったですよ?」

「シンデレラ……」

 罵倒されるかと思いきや、意外な優しさを見せるシンデレラに、シゼルは手を顔から離して彼女を見る。
 シンデレラは優しく笑っているように見えるものの、相変わらず彼女の笑顔からは感情が一切読み取れなかった。
 唇は微笑の形を保ちながらも、瞳は何も語らない。

「ところで聞きたいんですけど。魔法使いさんって恋人います?」

「へっ? い、いないけど……」

「そうなんですね。じゃあ私、恋人に立候補したいです」

「はあ!?」

 何を考えているかわからないシンデレラから飛び出したのは、とんでもない発言だった。
 シゼルは狼狽え、目を見開く。
 またからかっているだけだとシゼルは思うのに、もし本気だったら……という淡い期待が彼の心拍数を急激に上げさせ、冷や汗を額に滲ませる。

「な、なんで!? なんでそうなるんだ!?」

「王子様には全く興味が湧きませんでしたけど、魔法使いさんのことがとっても気になるんですよね。これってきっと恋ですよね?」

「いや、それはただの好奇心的なやつじゃないか……?」

 シンデレラが自分に恋をする理由がシゼルには思い当たらない。
 それにこれまでのシンデレラを見てきて、到底恋愛事に興味があるようには思えない。
 『気になる』というのも、恋愛的なものとはかけ離れている気がしてならなかった。

 しかし当のシンデレラは恋だと考えを曲げることはない。

「そうですか? だってこんな気持ちを抱いたのは初めてなんです。特に魔法使いさんの苦悶の表情を見るとゾクゾクしてしまって」

「嗜虐心じゃないかそれ!? やめてくれ! 怖い!!」

 シゼルは身を守るように腕で自分を抱きしめる。
 カエルを使って義姉たちに反撃したシンデレラの話が脳裏をよぎって、指先が肌に食い込むほどに強く握る。
 シンデレラは恐怖に震えるシゼルに顔を寄せて、優しく囁いた。

「でも……魔法使いさんも、私に告白されて案外満更でもないんじゃないですか?」

「い、いや……そんなことは……決してそんなことは……!」

 口ではそう言うものの、シゼルの心臓は胸の中でバクバクと激しく鼓動していた。
 シゼルが強く否定しないのを見て、シンデレラは妖艶な手つきで彼の頬を撫でる。
 指先をゆっくりと滑らかに動かし、まるで絹のように柔らかくなぞっていく。

 シゼルは耳まで真っ赤に染めて、彼女のされるがままになるだけだ。
 そんな滑稽な姿を晒すシゼルに、シンデレラは満足そうに唇をふっと緩めた。

「ふふふ、神のお告げとやらはもう関係なくなりましたし、明日も私に会いに来てくれますよね?」

「だ、断固お断りだ!」

 シゼルとシンデレラの攻防はその後も続く。
 月だけが騒がしい二人を見守りながら、静かに地平線に向かって沈んでいくのだった。

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