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16話 それはきっと恋①
しおりを挟むもうすぐ時計の表示盤が十二時を表そうとしている。
本来ならこの時計塔の下、大階段でシンデレラがガラスの靴を落とし、王子が拾う流れになるはずだ。
シゼルはシンデレラが王子と踊るところを何となく見たくなくて、時計塔近く、屋根の縁部分に腰をかけていた。
「本当に王子と恋に落ちるんだろうか……シンデレラ」
あのシンデレラがそう簡単に他人に好意を抱くようには見えないが、神がそう言っているのだ。まず間違いはないだろう。
それでもシゼルは、心の中でどこか王子と恋になど落ちないで欲しいと密かに願っていた。
「あっ……」
ゴーン、ゴーンと十二時の鐘が鳴る。
すると水色のドレスを着た女性が一人、慌てて大階段を駆け下りて行った。
そして少し遅れて王子が現れ、シンデレラの姿を探しに来る。しばらく辺りを回っていたが、見失ってしまったようだ。肩を落として途方に暮れていた。
しかし大階段に残されたガラスの靴の存在に気付き、それを拾うと王子は会場へと帰って行った。神から聞いていたお告げの通りの流れだ。
「……そうか、やっぱり最後はお告げ通りの展開になるんだな」
「何がですか?」
シゼルの独り言に返事が返ってくる。
今大階段を駆け下りて行ったはずのシンデレラが、ひょこっと彼の背後から顔を覗かせた。
シゼルは転がり落ちそうになる。
「うおっ、シンデレラ!? なっ、えっ? さっき君あっちに走って行っただろ!?」
「いいえ。王子様と一曲踊ろうと思ったんですけど、別の方と踊ってらしたので。時間に間に合いませんからテラスに戻ったのに魔法使いさんがいらっしゃらないんですもの。探し回っていました」
「えっ!? じゃあさっきの水色のドレスの女性は一体……?」
「──あっちが本物のシンデレラだよ、このバカシゼル!」
何もない空間から、突如しわがれた声でシゼルが怒鳴られる。
声の聞こえた方へ二人が振り向くと、シゼルと同じ紫色のローブを纏った老婆がパッと音もなく現れた。
「ば、ばあちゃん!?」
その老婆はシゼルにローブを与えた祖母だった。彼女はシゼルに魔法を叩き込んだ師匠でもある。
シゼルの祖母は非常にお怒りらしい。憤怒の形相をしている。
「アンタがちゃんと本物のシンデレラを導かなかったから、急遽アタシが駆り出されたんだよ! 余計な仕事増やすんじゃないよこの大馬鹿者が!」
「ほ、本物のシンデレラ!? じゃあこっちのシンデレラは……!?」
「そこの娘の名前は確かにシンデレラだけどね、アンタが神に舞踏会へ連れて行けと頼まれてたのはさっき走って行ったシンデレラだよ! 人違いしてんじゃないよ、相変わらずドジだね!」
「ひ、ひ、人違い……!?」
シゼルはショックで再び転がり落ちそうになる。
確かに今隣にいるシンデレラは神から聞いていた性格と違うし、舞踏会にも行きたがっていなかったし、義母や義姉たちから虐げられてもいなかった。
シンデレラと王子が出会うまでにも非常に苦労させられたし、他にもおかしいと思う点は多かったものの、まさか人違いだなんてシゼルは考えもしていなかった。
落ち込むシゼルに祖母はまだ怒りが収まらないようで、更に追撃する。
「万が一そっちのシンデレラと王子が恋に落ちでもしたら大変だからね。王子と会わないように邪魔してたんだよ! 全く、手間かけさせるんじゃないよ!」
「じゃあ今までの妨害、ばあちゃんの仕業だったのか……!」
「フン。何とかなったから良かったけど、シゼル、アンタはまだまだしごく必要がありそうだね! 明日からまた修行だよ!」
「そ、そんな……」
祖母は文句を言い終えたらサッと消えてしまった。
シゼルのローブは祖母の厳しい修行を乗り越えて、やっと一人前だと認めてもらえた証だった。
それがまた再修行になるとは……シゼルは頭を抱えて深く沈む。
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