上 下
15 / 18

15話 優しいところもある②

しおりを挟む


 やがてシンデレラがシゼルの頬に手を伸ばす。シゼルの肩がビクッと跳ねた。

「……な、何だよ……?」

「ローブ、カラスにつつかれたら嫌だなと思ったんです」

「はっ? ローブ?」

 どうして急にローブの話を──と考えたところでシゼルは一つの可能性に気付く。

「……ちょっと待て、まさか君、このローブを守るためにあんな無茶な真似をしたって言うのか?」

「命よりも大事なものなんでしょう? もっと大切になさらないと」

 シンデレラは頬を触っていた手をシゼルの肩に移して、軽く叩く。
 シゼルは呆気に取られたように口を半開きにする。彼の心の中に広がる混乱がその表情に如実に表れていた。

「……ば」

「ば?」

「バカだよ……君は……」

「まあ、ひどいですね。ふふふふ」

 怒る気力を失くして脱力するシゼルを、シンデレラは軽く笑い飛ばす。

 まさかそんな理由で自らの命を危険に晒すなど、到底常人には理解できまい。例えローブがボロボロにされたとしても、魔法で直すことも容易だ。

 しかしシンデレラは、ローブを大切にするシゼルの思いを守りたかったのだ。
 シゼルもそれを理解し、彼女にはかなわないと心の中で静かに白旗を上げたのだった。


***


 再び浮遊魔法で移動した二人は、誰もいない会場のテラスへひっそりと降り立った。
 シンデレラはドレスを手で簡単に整える。
 テラスからちょうど見える時計塔は、十二時まであと少しを示している。

「時間ギリギリですね。急いで行ってきます」

「……」

 シゼルがお願いした通り、シンデレラは王子と踊りに行こうとする。
 しかし、それを歓迎する立場であるはずのシゼルの顔色はどこか晴れない。
 反応を見せない彼に対して、シンデレラは疑問に思う。

「? どうしました?」

「あ、いや……」

 視線を泳がせて口ごもるシゼルの様子を、きちんと自分が言うことを守ってくれるのか不安に感じているとシンデレラは受け取ったらしい。

「大丈夫ですよ。ちゃんと王子様と踊って来ますから」

「あ、ああ……」

 ドレスの裾を両手で持って会場へと向かうシンデレラを、どこか複雑な気持ちでシゼルは見送る。

 これでシンデレラと王子は恋に落ちて、結ばれるはず。
 彼の役目も終わりだ。

 シゼルにとっては喜ばしいことなのに、彼はシンデレラの背中に向けて、無意識に手を伸ばしていた。

 行かないでほしい。
 その言葉は彼の喉の奥に詰まり、声に出せない。
 彼女を引き止めたい気持ちと、引き止められない現実が、彼の胸を締めつけていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛玩犬は、銀狼に愛される

きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。 そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。 呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

ただ、愛しただけ…

きりか
恋愛
愛していただけ…。あの方のお傍に居たい…あの方の視界に入れたら…。三度の生を生きても、あの方のお傍に居られなかった。 そして、四度目の生では、やっと…。 なろう様でも公開しております。

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

single tear drop

ななもりあや
BL
兄だと信じていたひとに裏切られた未知。 それから3年後。 たった一人で息子の一太を育てている未知は、ある日、ヤクザの卯月遥琉と出会う。 素敵な表紙絵は絵師の佐藤さとさ様に描いていただきました。 一度はチャレンジしたかったBL大賞に思いきって挑戦してみようと思います。 よろしくお願いします

処理中です...