上 下
13 / 18

13話 敵に回したくないタイプ②

しおりを挟む
「いいのかなあ、いいのかなあこれ!」

「なぜです? 出られたら何でもいいじゃないですか」

「何か正攻法じゃない気がする! 物語として!」

 シンデレラの言う通り身体が縮む魔法を使い、扉の隙間から二人は無事出たのだった。
 廊下に出て通常サイズの身体に戻ったあと、シゼルはシナリオのルール的なものに反しているような気がしてならず、思い悩む。
 神のお告げに従う云々関係のないシンデレラは至って冷静だ。

「神が描いたストーリーとやらは、既に綻びが出ているのでは? 私を邪魔する魔法使いなんて、恐らく本来はいなかったのでしょう?」

「う……確かにそうなんだが」

 舞踏会へシンデレラを連れていけば、王子と運命の恋に落ちて結ばれる。
 結末までにある苦難は、魔法が解ける十二時にシンデレラが落とすガラスの靴を、拾った王子が国中探し出すことくらいだ。
 シンデレラと王子が出会うまでに何か問題が起こるとは聞いていない。シンデレラの指摘はシゼルにとって耳が痛い。

「お相手は私と王子をどうしても引き合わせたくないのですよね。……そんなことをするなんて……」

「さすがの君も落ち込んだか?」

「逆に意地でも王子と踊りたくなりました」

「君は本当に期待を裏切らないな!」

 珍しく気落ちしたかに見えたシンデレラをシゼルは一瞬意外に思ったが、彼女は落ち込むどころか反発心に燃えている。

 自分に仇なす者は徹底的に迎え撃つ。
 シンデレラの唇は緩やかに持ち上がり、悪魔の笑顔が浮かぶ。その奥にはまるで獲物を見つけた捕食者のように、歪んだ愉悦が垣間見えた。


 二人は廊下に出たはいいが、会場へ向かうのを邪魔するように、イバラの道が出来上がっていた。
 天井まで届くほど茎は伸びていて、ご丁寧に立派な棘まで無数に生やしてくれている。先程のように再び身体を縮めて通る方法は通用しなさそうだ。
 シンデレラは怖気づくこともなく、棘を何度も触っている。

「これ、燃やせます? 火事にならない程度に」

「ああ、そんなの簡単──」

 バチッと電流が弾けたような音と閃光が走って、イバラに魔法をかけようとしたシゼルの手が痺れた。

「なっ……!?」

「……あの。やはりお相手の方のほうが強いのでは──」

「違う! ちょっと気を抜いてたただけだ!」

 シンデレラの鋭い疑念の眼差しをシゼルが強く否定する。
 その必死な姿勢は、残念ながら説得力を弱らせる結果となった。
 彼も自覚があるらしい。誤魔化すように話題をイバラに向ける。

「強力な結界が張られてるな……解くのに時間がかかりそうだ」

 シンデレラは既にシゼルの話を聞いていなかった。廊下の窓を覗いて脱出方法を探っている。
 これだけ大きな結界付きのイバラを用意していて、窓が開いているはずもない。シゼルはシンデレラに伝えようとするが──

「……シンデレラ、窓だって結界が──」

 ガシャアアン! と勢いよく窓が破られたのと、シゼルが言葉を発したのはほぼ同時だった。

 シンデレラが投げた花瓶が窓を突き破り、ガラスの破片が外と床に飛び散っている。
 無残な姿となった窓から風が吹き込んで、シンデレラの髪を靡かせた。

「あら、いけちゃいましたね」

「うわああああ! 何やってんだ!!」

「そこに花瓶があったので」

「あっても投げたらダメでしょうが!」

 まるで母親のようにシゼルがシンデレラを叱りつけていると、騒ぎを聞きつけたのだろう、イバラの奥から『何事だ!?』と叫ぶ複数の声が聞こえてくる。この城を守る衛兵だ。

 しかし彼らはイバラによってこちらへ来ることは叶わない。
 もし来られたら二人は即お縄についただろうから、皮肉にも邪魔な存在のイバラに助けられたのだった。

「よいしょっと」

 シゼルが衛兵に気を取られているうちに、シンデレラは窓枠に手と足をかけて割れた窓から出ようとしている。
 奔放すぎる彼女の肩を掴みながら、シゼルが全力で引き止める。

「もう勝手に行動しないでくれ! 少しは大人しくしてて!」

「ですが時間もありませんし」

「浮遊魔法使うから!」

 放っておいたら何をしでかすかわからないシンデレラを横抱きにして、シゼルは窓から飛び立った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...