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8話 舞踏会のはじまり

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「すごい人ですね。お義姉さんたちと会うのすら難しそうです」

 煌びやかなシャンデリアが天井から降り注ぐ光を散りばめ、広々とした舞踏会の会場を照らしている。
 大勢の人々が料理やお酒を楽しみ、笑い声と談笑の声が絶えず響いていた。

 会場の入口は小上がりのようになっており、シンデレラが会場を見回していると、一斉に視線が集まった。

 女性は強力なライバルが現れたと眉をひそめ、男性は熱い眼差しを彼女へ送る。
 性格は褒められたものではないが、その美貌は確かだ。ここの会場にいる誰よりも彼女は美しい。

「この様子なら大丈夫だな。君はどこにいても王子の目に入るだろう」

 容姿だけでここまで注目されるのだから、王子が彼女を見つけられないことはないだろう。
 神のお告げ通り、何事もなくシンデレラと王子は出会えるはずだ……とシゼルは思っていたのだが。

「失礼、レディ。お名前を伺っても?」

「ダンスのお相手は決まってますか? 良ければ僕と……」

 餌に群がる魚のように、シンデレラの周りに男性陣が殺到する。
 たちまちシンデレラは囲まれてしまった。

「これ、逆に埋もれてないでしょうか?」

 口元を手で隠して上品そうに微笑む素振りをしながら、シンデレラは隣に立つシゼルに話しかける。

「くっ……こいつら、わらわらと集まってきやがって……」

 シゼルは凄むが、誰からも姿は見えていないので効果はない。

 シンデレラが会場の中を少しずつ移動していくも、周りの男性も一緒についていく。
 あまりに多数の男性に口説かれ続け、表面上はにこやかなシンデレラに陰りが出始めた。

「魔法使いさん、私に話しかけたくなくなる魔法はありませんか?」

「王子にまで効いたら困るから無理だな」

「どちらにせよ、今の状態では話すのなんて無理だと思いますけど」

「大丈夫。王子は君に絶対気付くだろうし、そうしたら皆嫌でも道を開けるさ」

 神のお告げを信じているシゼルは言い切るが、自分にそう言い聞かせて心の安寧を図っている部分もあった。

 大広間の端にそびえ立つ螺旋階段。
 その曲線美を描くように、階段の一段一段を優雅に踏みしめながら、王子がゆっくりと降りて来た。

「王子殿下だ!」

 誰かが言えば、シンデレラの周りにいた男性たちはサッと離れて王子を迎える。

 光沢のある金色の刺繍が施された服と、一矢の乱れない輝くブロンドの髪が一層輝きを放っている。
 階下の客人たちは、王子の降臨に息を飲み、誰もがその姿に見入っている。

 やがて最後の段に足をつけると、王子は一瞬立ち止まり、軽く微笑みを浮かべた。
 その瞬間、再び会場にはざわめきが戻り、女性たちの熱い視線が王子に注がれる。

 王子の姿を目で追っていたシンデレラの前に、複数の女性が示し合わせたように並んで立った。
 王子からシンデレラが見えなくなるように、壁になっているつもりらしい。

「アンタ、いい気になってんじゃないわよ」

「そうよ、平民風情が生意気なのよ」

「お家に帰って裁縫でもしてなさいよ。場違いにもほどがあるわ」

 シンデレラにだけ聞こえるように、彼女たちはひそひそと陰口を叩く。

 しかし残念ながら、そんなことで傷付くほどこのシンデレラはヤワではない。
 むしろ、新しい獲物を見つけたと言わんばかりに楽しそうに笑っている。

「うふふふ。これも神のお告げ通りですか?」

「いや……そうは聞いてないが……君が美しい故の嫉妬だと思う。だから怒らないでくれ」

 シゼルはシンデレラよりも、攻撃する彼女たちの方を心配していた。
 意地悪な義姉たちを服従させているシンデレラだ。彼女を敵に回したら一体何をするかわからない。

 王子は一通り会場を見まわすと、挨拶を行う。

「今日は私の妃探しのパーティーに集まって頂き、感謝いたします。時間の許す限りどうかゆっくりと楽しんでください」

 柔らかな声色で話す王子に、集まった女性たちは惚けている。
 王子の顔立ちは端正でありながらも鋭さを持ち合わせ、高い頬骨とまっすぐな鼻筋が、その美貌を一層引き立てていた。

「どうだ? 格好良いだろう? 王子は」

 シゼルはシンデレラにこっそりと耳打ちする。
 シンデレラは横目で一瞥してすぐにまた正面を向いた。

「確かに女性受けしそうではありますね」

「恋、しちゃったか?」

「ふふ、私は外面よりも内面重視派です」

 残念ながら一目ぼれとはいかなかったが、悪くない反応だ。
 シゼルはシンデレラに見えないように小さく喜びの拳を握った。

 ──運命の舞踏会が、ついに始まる。

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