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7話 舞踏会に向けて
しおりを挟む「うーん、好みじゃないです。次」
「シ、シンデレラ……いい加減決めてくれないか……」
舞踏会当日。
シンデレラの気が変わっていないか不安になったシゼルが朝からシンデレラの家へ訪れたのだが、彼は深く後悔していた。
魔法で用意したドレスを彼女に見せたら、「ダサいですね。このドレスを着ろと言うなら舞踏会へは行きません」と言われてしまったのだ。
それからシンデレラが納得のいくドレスを出すまで休みなく次々と魔法を使わされ、かれこれ二時間はファッションショーが繰り広げられている。
シゼルの顔には疲労が色濃く出ていた。
シンデレラはうんざりするシゼルに意識を向けることなく、着ているドレスの生地を指の腹で撫でた。
「あら、素敵なドレスを着ていなかったら、王子様に私の存在を気付いてもらえないかもしれませんよ?」
「君は綺麗なんだから、たとえ普段着でも問題ない! 性格は置いといて、顔に関しては君より美しい者はこの世にいないだろうし」
「今の余計な一言さえなければ、このドレスでもいいかなと思っていたんですけどね。では次」
「か、勘弁してくれよ!」
シゼルは半泣きで抗議するが、当然彼に拒否権などない。
ドレスだけでなく、アクセサリー類もシンデレラは散々吟味し、気付けば夜。
あっという間に舞踏会の時間になってしまった。
シゼルは魔力の過剰消耗で生気を失っていたが、何とか自分を奮い立たせてかぼちゃの馬車を用意した。
しかし──
「うふふふ、何ですかこれは?」
シルクがふんだんに使われたシアンカラーのドレスと、ダイヤが散りばめられたティアラを身に着けたシンデレラの微笑みに威圧が足される。
シゼルが身体を強張らせた。
「き……気に入らなかったか……? だが神のお告げでは……」
「このファンシーな馬車を指定されたのですか? 何とも悪趣味な方ですね」
「神を簡単に愚弄しないでくれ! 心臓に悪い!」
シゼルは自分の左胸を掴んでから何度か叩く。
彼の心臓は本当に縮んでいそうだ。
シゼルはほぼ無理矢理シンデレラを馬車に押し込んで自分も一緒に乗ると、何とか舞踏会の会場である王城まで送り込むことに成功したのだった。
***
少し遅れて行ったからか、王城前に人は少ない。門兵が数人いるだけだ。
かぼちゃの馬車にギョッとしたのは兵士だけで、さほど悪目立ちせずに済んだ。
先に降りたシゼルの手を取り、シンデレラは馬車を降りる。
「さあ、そろそろ行きましょうか」
「いや、俺は……」
シゼルは口ごもって動こうとしない。
シンデレラは彼の顔を覗き込む。
「まさか舞踏会に送ったらお役ごめんだなんて、そんな無責任な人ではありませんよね? あなたの目がないなら、壁際でひとり隠れて立食を楽しみますが」
「い、いや! 行くつもりだったって! ただ、俺が君のそばについていたら、王子が近づきにくいだろ?」
疑いの目を向けられたシゼルは必死に言い訳する。
シンデレラを舞踏会へ連れて行くという彼の目的は果たしたのだから、確かにシンデレラについていく必要はない。だからここでお別れでもいいのでは……?
そんなシゼルの思惑を、シンデレラは当然見抜いていた。
「あなた、魔法使いなんですから、他の人から姿が見えないようにするとかできないんですか?」
「で、できるけど……」
「なら同行頂けますね、良かったです」
「はい……」
シンデレラの圧に負けたシゼルは、あっさりと『ここでお別れ』という選択肢を捨てる。
大人しく他人から自分の姿が見えなくなるようにシゼルは魔法をかけると、シンデレラと共に会場へ入った。
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