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2話 腹黒いシンデレラ①

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 ここは、シンデレラのお話の世界。

 継母と義姉に虐げられていたシンデレラが、魔法使いの助けを借りて舞踏会へと出向き、王子と恋に落ちる話。
 誰もが知る有名なおとぎ話だ。

 物語の中の魔法使い──シゼルはシンデレラの家を訪れていた。
 彼は翌日の舞踏会への参加を誘いに来たのだ。

 なぜか律儀に玄関から訪ねたシゼルは、美しいブロンドの長い髪を靡かせたシンデレラと対峙していた。

 しかし、和やかな雰囲気ではない。
 シンデレラの表情は喜びとは程遠く、不信感に塗れている。

「つまり、ドレスとガラスの靴を差し上げるから、舞踏会に参加して欲しい……ということですか?」

 シンデレラは鮮やかなラピスラズリ色の瞳を優雅に瞬かせる。

 裾が地面につきそうなほど長い紫色のローブを纏い、深くフードを被ったシゼルは、こくこくと頷く。

 彼はシンデレラが誘いに嬉々として応じてくれると信じて疑っていなかった。
 ──しかし。

「すみません、我が家は勧誘をお断りしています。お帰り頂けますか?」

「え? ちょっ……」

 予想外の回答に面食らうシゼルを、シンデレラは帰れと言う代わりに容赦なく扉を閉じる。
 シゼルが慌ててドアを開けた。

「待った待った! 勧誘じゃないって!」

 今度は扉を閉じられないようにと、シゼルはドアの隙間に足を挟む。
 シンデレラは負けじとドアノブを両手で掴んで閉じようとするが、さすがに男であるシゼルの方に分があるようだ。

「そのしつこさも勧誘特有です。無料で高価なドレスと靴を私にプレゼントして、あなたに何のメリットが? 失礼ですが、奉仕活動には見えませんし」

 シンデレラは冷ややかな視線を送る。
 シゼルがフードを被っているせいでまともにシンデレラの方から顔が見えず、怪しまれるのは当然とはいえ、まるで罪人を見るかのような眼差しだ。

「もしかして、あとで代金を請求するパターンですか?」

「詐欺でもないって!」

「ふふ、詐欺師は詐欺じゃないって言い張るんですよ」

 シンデレラは微笑むが、その瞳は全く笑っていない。

 どうしてこんなにも彼女は警戒心が強いのだろうか。
 シンデレラはこんなにも疑い深い人物なのか。

 神から伝えられたお告げ通りなら、舞踏会に行けると伝えると「本当!? 嬉しい、ありがとう魔法使いさん!」と手を組んで目を輝かせるはずなのに。

 シゼルは自分の思い描いていた展開通りにいかず、焦りを滲ませる。

「君、シンデレラだよね? 間違ってないよね?」

「あら……名乗った覚えはありませんが」

「だから俺は魔法使いで……君を明日の舞踏会に連れて行ってあげようと……」

「ご厚意はありがたいですが、私は舞踏会に興味ありませんので。残念ですが他のお嬢さんに声をかけてください」

 ぴしゃりと突き放され、シゼルは唖然とする。
 彼が口をあんぐりと開けているとまた扉を閉められそうになり、ハッと我に返った。

「いやいや! 興味ないって嘘だろ!? シンデレラは舞踏会へ行きたいはずだ!」

 引き下がらないシゼルに対していい加減怒ってもいいはずだが、シンデレラは気を悪くするどころか唇の端を上げて、クスクスと声を漏らした。
 どうやらこの状況を面白がっているらしい。

「ふふふ、本人が行きたくないと言っているのに面白いですね。その根拠は何ですか?」

「だって……ほら、君、継母や義姉たちから虐められてるだろ? だから……」

「いいえ、別に虐められていませんよ?」

「えっ」

 シンデレラは後ろを振り返り、口の横に手を添えてわざとらしく名前を呼ぶ。


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