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七章 Revenge

十二月 <計画> 3

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十五時を回ってから俺はタクシーを呼んだ。
すぐにタクシーが来て、
俺はそれに乗り込んだ。
住所を告げるとタクシーは走り出した。

タクシーは稲置横断道路を西へ進んだ。
稲置市と連市を結ぶ
片側三車線の稲連国道に合流すると
フロントガラスに海が映った。
しばらく走ると
視線の先に「連市」のカントリーサインが見えた。
タクシーはその手前の信号を左折して
片側一車線の狭い道へと入った。
道は祓川に沿って走っていた。

この辺りの風景は
俺には二十年後のものしか馴染みがなかった。
道は徐々に上り坂になって、
二十メートルほど先で
直進と左に分かれているのが確認できた。
二十年後、
この丁字路には信号機が設置されている。
今はまだ信号機のない丁字路を車は左折して、
祓川とはここでお別れとなった。
道は下り坂になったかと思うと
すぐにまた上り坂になった。
右へ左へと緩やかなカーブを
車はゆっくりと上った。
二十年後の綺麗に舗装された道路とは違って、
道幅も狭く車はガタガタと揺れた。
長い上り坂の頂上付近で
道路の左側に小さな八百屋が見えたが、
二十年後には
ザッハトルテが有名なケーキ屋になっている。
八百屋を通り過ぎると短いトンネルがあり、
それを抜けるとすぐに下り坂になった。
真っ直ぐな下り坂を下りると、
線路が行く手を阻んでいた。
二十年後、
線路の手前にあるコンビニはこの時代、
まだ田んぼだった。
線路の前で一時停止をしてから
タクシーは田園の広がる住居地域へと
入っていった。

一つ目の十字路に差し掛かり、
タクシーは速度を緩めた。
信号機のない十字路をゆっくりと左折すると、
右手前方に公園が見えた。
タクシーは公園を通り過ぎて
五十メートルほど走ったところで止まった。
俺は一万円札で支払いを済ませて
タクシーを降りた。

目の前には
小奇麗な鉄筋の二階建てアパートがあった。
部屋は一階と二階に三つずつの全部で六つ。
アパートの塀に
「六々荘」と書かれた看板を見つけて、
目的の場所はここで間違いないことがわかった。
名簿に書かれていた部屋は二〇二号室。
当然エレベーターは無く、
俺は外階段で二階へ上がった。

二〇二号室のドアの前で
俺は一度深呼吸をしてから
インターフォンを押した。
しばらく待っても反応がなかったので、
俺は続けて二度インターフォンを鳴らした。
それからドアに耳を寄せた。
中からは何の音も聞こえてこなかった。
そこでようやく俺は
アパートの前の駐車場に車が無いことに気付いた。
仕方がないので俺は
しばらくその辺りで時間をつぶすことにした。
二十年後であれば、
この辺りでもお洒落なカフェや
ファストフード店を目にすることができる。
しかし、今目の前に広がっている光景は
田んぼと民家、
そして空き地がその大部分を占めていた。
俺は先ほどタクシーから見えた公園に向かった。


日曜日、黄昏時のこの時間、
公園には数人の子供達の姿しかなかった。
公園の敷地は半分が多目的広場で、
もう半分には遊具が設置されていた。
ジャングルジムに滑り台。
シーソーにブランコ。
鉄棒もあった。
この時代、どこでも見かける普通の公園だった。
二十年後には危険だからと
遊具が撤去された公園も数多い。
しかしこうしてジャングルジムで
楽しそうに遊んでいる子供達を見ていると、
はたしてそれが正しいかは
まだまだ議論の余地がありそうだった。
子供達は突然現れた同年代の珍客に
興味津々といった様子で、
ベンチに腰掛けている俺の方に
チラチラと視線を送ってきた。
その時、
公園の前を赤いミニクーパーが
ゆっくりと通り過ぎるのが見えた。
俺はベンチから立ち上がって車を追った。

俺が「六々荘」に戻った時、
丁度駐車場にとめられた赤いミニクーパーの
ドアが開いたところだった。
買い物袋を抱えたナカマイ先生は
俺の顔を見ると驚いた表情を浮かべた。
「どうしたの?」
それがナカマイ先生の第一声だった。
それから
「どうやって来たの?」
と探るような眼差しで俺を見た。
「親切なおじさんが乗せてくれたんだ」
本当のことを言えば
金の出所を探られかねないため
俺は咄嗟に嘘を吐いた。
「知らない人に着いていったら駄目
 って学校でも言ってるでしょう?」
そう言ってナカマイ先生は少しだけ怒った。
ヒッチハイクと言う言葉が
世間に浸透するのはしばらく先である。

「ごめんなさい」
と俺が素直に謝ると、
ナカマイ先生はいつもの優しい笑顔になった。
「寒いわね。
 少し散らかってるけど家で話しましょうか。
 そのために来たんでしょう?」
「先生、あっちの公園に行こうよ」
俺は敢えて外を選んだ。
人目がある場所の方が話しやすいこともある。
「・・そう?
 じゃあちょっと待っててね。
 荷物を置いてくるから」
ナカマイ先生は少し考えてから
俺の提案を受け入れた。
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