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五章 Reality
九月 <真実> 4
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ある日の合同練習が終わって
校舎へ戻っていた俺の隣に洋が並んだ。
「あ~あ。疲れたぜ。
ボス猿のヤツ、
散々怒鳴り散らしやがって本当嫌な野郎だぜ」
俺は「そうだな」と相槌を打った。
洋の様子はどことなくおかしかった。
落ち着きなくキョロキョロと周囲を窺っていた。
「どうしたんだ?」と聞いてみたが、
「う、うん」
と洋にしては珍しく歯切れが悪かった。
皆が校舎に消えていく中で、
俺と洋だけがゆっくりと歩いていた。
「・・俺さあ、
最近茜ちゃんのことが気になるんだ。
あの夏休みの別荘のときからなぜかさ」
何の前触れもなく洋が呟いた。
俺は驚いて足を止めた。
「やっぱり、駄目だよな。
だって茜ちゃんのことは
翔太がずっと好きだからな」
洋はきまりが悪そうに頭を掻いた。
そこで俺はハッとした。
洋は今「夏休みの別荘」と言った。
あれは「前世」では起こらなかった出来事だ。
あの一泊二日のお泊り会が
洋の心に変化をもたらした。
もしこれがきっかけで
茜と翔太の未来が壊れることになったら。
それは俺の責任でもある。
しかし人を好きになることに
駄目とか先着とかあるのだろうか。
俺は
「茜だけは絶対に駄目だ。
翔太と茜は将来結婚するんだ」
という言葉をぐっと飲み込んだ。
代わりに
「人を好きになるのは仕方のないことだ」
そう小さな声で答えた。
俺の言葉に洋の表情がパッと明るくなった。
「そっか。
ありがと、あっくん。
でもこのことは内緒だぜ」
そして洋は駆けていった。
校舎へ戻っていた俺の隣に洋が並んだ。
「あ~あ。疲れたぜ。
ボス猿のヤツ、
散々怒鳴り散らしやがって本当嫌な野郎だぜ」
俺は「そうだな」と相槌を打った。
洋の様子はどことなくおかしかった。
落ち着きなくキョロキョロと周囲を窺っていた。
「どうしたんだ?」と聞いてみたが、
「う、うん」
と洋にしては珍しく歯切れが悪かった。
皆が校舎に消えていく中で、
俺と洋だけがゆっくりと歩いていた。
「・・俺さあ、
最近茜ちゃんのことが気になるんだ。
あの夏休みの別荘のときからなぜかさ」
何の前触れもなく洋が呟いた。
俺は驚いて足を止めた。
「やっぱり、駄目だよな。
だって茜ちゃんのことは
翔太がずっと好きだからな」
洋はきまりが悪そうに頭を掻いた。
そこで俺はハッとした。
洋は今「夏休みの別荘」と言った。
あれは「前世」では起こらなかった出来事だ。
あの一泊二日のお泊り会が
洋の心に変化をもたらした。
もしこれがきっかけで
茜と翔太の未来が壊れることになったら。
それは俺の責任でもある。
しかし人を好きになることに
駄目とか先着とかあるのだろうか。
俺は
「茜だけは絶対に駄目だ。
翔太と茜は将来結婚するんだ」
という言葉をぐっと飲み込んだ。
代わりに
「人を好きになるのは仕方のないことだ」
そう小さな声で答えた。
俺の言葉に洋の表情がパッと明るくなった。
「そっか。
ありがと、あっくん。
でもこのことは内緒だぜ」
そして洋は駆けていった。
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