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三章 Renewal

五月 <事故> 2

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この年のゴールデンウィークは四連休だった。
まだ学校週五日制が導入される前のことだ。

ゴールデンウィークの最終日、
いよいよ明日から学校が始まる
という日の夜になって、
俺は奥川のことで頭を悩ませていた。
「馬鹿っ」と言って教室を出ていった
奥川の後姿が頭から離れなかった。

二十年後であれば
メールやアプリのメッセージ機能で、
顔を合わせることなく謝罪ができるのだが、
この時代は電話か手紙でしか
連絡をとる手段がなかった。
不便な時代だ。
おまけに我が家の電話はリビングに置いてあり
そこでは両親がくつろいでいた。
両親が聞き耳を立てている状況で
迂闊なことは口にできない。
せめてコードレス電話であれば
部屋からかけることができるのだが、
残念ながら家の電話は受話器と本体が
しっかりとコードで繋がれていた。

結局何も解決しないまま、
俺はもやもやした気分でベッドに入った。


翌朝、俺は重い足取りで学校へ向かった。
通学路に一つだけある信号機に引っかかった。
たまにこの交差点で奥川と会うことがある。
今まではそれも楽しみの一つだったが、
今朝に限っては会わないことを願った。
信号が青に変わって歩き出したが、
俺は後から駆けてくる子供達に
次々と抜かれていった。
毘沙門川に掛かる橋を渡る頃には
俺は一人になっていた。
真っ直ぐ伸びる道の向こうに
子供達の姿が小さく見えた。

ふたたびこの人生を歩むことになった
四月のあの朝、
奥川に声をかけられたこの通学路が
今は果てしなく長い道のりに思えた。
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