12 / 148
二章 Reunion
四月 <本質> 8
しおりを挟む
四月も残すところあと数日となった
ある日の放課後、
俺は教室を出ようとしていた奥川を呼び止めた。
その時、
奥川の肩越しに大吾の敵意に満ちた目が見えたが
俺はそれを無視した。
俺はこの学校の授業の進み具合について
奥川に相談した。
この時期に授業の進捗状況など
無きに等しかったが、
奥川は嫌な顔をせずに丁寧に答えてくれた。
実は奥川は相馬とクラスで一位、二位を争うほど
頭が良かった。
この日から俺と奥川は週に一、二度、
放課後二人で教室に残って
勉強をするようになった。
初めて知ったことだが、
奥川の両親は
世界的に活躍している音楽家で海外に住んでおり、
現在、
奥川は年の離れた姉と
二人で暮らしているとのことだった。
そして晩御飯は
基本的に奥川が作ることになっていたから、
俺と奥川に与えられた放課後の時間は
長くはなかった。
それでも俺達の距離は
一歩一歩確実に縮まっていった。
そして、
それに比例して
大吾の俺に対する嫌がらせも
エスカレートしていった。
ある朝登校して上履きに履き替えたところ、
足にチクリと痛みが走った。
上履きの中に画鋲が仕込まれていたのだ。
またある日の授業中、
俺の教科書が数ページにわたって
破られていることに気付いた。
俺が大吾の方を見ると、
大吾はニヤニヤと笑っていた。
当然、これらを大吾がやったという証拠はない。
大吾は表向きにはいじめとバレぬよう
細心の注意を払っていた。
ある日の給食の時間、
お盆を持っている俺に大吾がぶつかってきた。
尻餅をついた俺に給食のカレーが降りかかった。
この時も、大吾は事故を強調した。
ナカマイ先生の前で
大吾はしきりに頭を下げていた。
俺は午後からの授業を
体操着で過ごす羽目になった。
俺達のクラスは昼休みには
「ドッジボール」か
「警泥」で遊ぶのが恒例だったが、
「ドッジボール」は
大吾にとって合法的に
俺を痛めつけることができる絶好の機会だった。
一方で
男女に分かれてチームを組むことの多かった
「警泥」には俺は加えてもらえなかった。
そんな時、
俺は教室で過ごしたがそれも悪くはなかった。
教室には相馬沙織がいたからだ。
彼女はいつも机で本を読んでいた。
俺が相馬に話しかけたのも
「警泥」で仲間外れにされた
ある日の昼休みのことだった。
「何を読んでるんだ?」
相馬はチラリと俺を見ると、
本を持ち上げて表紙を俺の方へ向けた。
そこには
「占星術殺人事件」
という文字が書かれていた。
はたして「占星術」という漢字を
読める小学六年生がどのくらいいるだろう
と俺はまず疑問に思った。
殺人事件ということは
所謂ミステリ小説の類だろう。
彼女にそんな趣味があったことを
俺はこの時初めて知った。
「面白いのか?それ」
「どうかしらね。
一応、傑作と称されている本だけど」
相馬は俺の方を見ずに素っ気なく答えた。
そんな彼女に
俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
それから彼女は
ふたたび俺にチラリと一瞥をくれると
「後学のために、
人類史上最高のトリックが
どういうものか勉強しておこうと思って」
そう付け加えてふたたび本へ目を落とした。
その時、
俺は窓際の一番後ろの席に座っている男に
気付いた。
男は俺と目が合うとぎこちない笑みを浮かべた。
昼休みの教室に
俺と相馬以外の人間がいたことに驚いた。
誰だろう。
あんな生徒がこのクラスにいただろうか。
俺は記憶の糸を手繰ったが
その先は空しく途切れていた。
「あのさ。
あそこに座ってる奴、誰だっけ?」
相馬は俺の言葉に振り返った。
「何言ってるのよ。
池田君でしょ。池田圭君」
池田圭(いけだ けい)
しかしその名前を聞いても
俺は彼について何も思い出せなかった。
「ねえ、もう本を読んでもいいかしら」
「あ、悪い」
相馬との初めての会話は
彼女にあまり良い印象を与えないままに
終わった。
ある日の放課後、
俺は教室を出ようとしていた奥川を呼び止めた。
その時、
奥川の肩越しに大吾の敵意に満ちた目が見えたが
俺はそれを無視した。
俺はこの学校の授業の進み具合について
奥川に相談した。
この時期に授業の進捗状況など
無きに等しかったが、
奥川は嫌な顔をせずに丁寧に答えてくれた。
実は奥川は相馬とクラスで一位、二位を争うほど
頭が良かった。
この日から俺と奥川は週に一、二度、
放課後二人で教室に残って
勉強をするようになった。
初めて知ったことだが、
奥川の両親は
世界的に活躍している音楽家で海外に住んでおり、
現在、
奥川は年の離れた姉と
二人で暮らしているとのことだった。
そして晩御飯は
基本的に奥川が作ることになっていたから、
俺と奥川に与えられた放課後の時間は
長くはなかった。
それでも俺達の距離は
一歩一歩確実に縮まっていった。
そして、
それに比例して
大吾の俺に対する嫌がらせも
エスカレートしていった。
ある朝登校して上履きに履き替えたところ、
足にチクリと痛みが走った。
上履きの中に画鋲が仕込まれていたのだ。
またある日の授業中、
俺の教科書が数ページにわたって
破られていることに気付いた。
俺が大吾の方を見ると、
大吾はニヤニヤと笑っていた。
当然、これらを大吾がやったという証拠はない。
大吾は表向きにはいじめとバレぬよう
細心の注意を払っていた。
ある日の給食の時間、
お盆を持っている俺に大吾がぶつかってきた。
尻餅をついた俺に給食のカレーが降りかかった。
この時も、大吾は事故を強調した。
ナカマイ先生の前で
大吾はしきりに頭を下げていた。
俺は午後からの授業を
体操着で過ごす羽目になった。
俺達のクラスは昼休みには
「ドッジボール」か
「警泥」で遊ぶのが恒例だったが、
「ドッジボール」は
大吾にとって合法的に
俺を痛めつけることができる絶好の機会だった。
一方で
男女に分かれてチームを組むことの多かった
「警泥」には俺は加えてもらえなかった。
そんな時、
俺は教室で過ごしたがそれも悪くはなかった。
教室には相馬沙織がいたからだ。
彼女はいつも机で本を読んでいた。
俺が相馬に話しかけたのも
「警泥」で仲間外れにされた
ある日の昼休みのことだった。
「何を読んでるんだ?」
相馬はチラリと俺を見ると、
本を持ち上げて表紙を俺の方へ向けた。
そこには
「占星術殺人事件」
という文字が書かれていた。
はたして「占星術」という漢字を
読める小学六年生がどのくらいいるだろう
と俺はまず疑問に思った。
殺人事件ということは
所謂ミステリ小説の類だろう。
彼女にそんな趣味があったことを
俺はこの時初めて知った。
「面白いのか?それ」
「どうかしらね。
一応、傑作と称されている本だけど」
相馬は俺の方を見ずに素っ気なく答えた。
そんな彼女に
俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
それから彼女は
ふたたび俺にチラリと一瞥をくれると
「後学のために、
人類史上最高のトリックが
どういうものか勉強しておこうと思って」
そう付け加えてふたたび本へ目を落とした。
その時、
俺は窓際の一番後ろの席に座っている男に
気付いた。
男は俺と目が合うとぎこちない笑みを浮かべた。
昼休みの教室に
俺と相馬以外の人間がいたことに驚いた。
誰だろう。
あんな生徒がこのクラスにいただろうか。
俺は記憶の糸を手繰ったが
その先は空しく途切れていた。
「あのさ。
あそこに座ってる奴、誰だっけ?」
相馬は俺の言葉に振り返った。
「何言ってるのよ。
池田君でしょ。池田圭君」
池田圭(いけだ けい)
しかしその名前を聞いても
俺は彼について何も思い出せなかった。
「ねえ、もう本を読んでもいいかしら」
「あ、悪い」
相馬との初めての会話は
彼女にあまり良い印象を与えないままに
終わった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる