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二章 Reunion

四月 <本質> 8

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四月も残すところあと数日となった
ある日の放課後、
俺は教室を出ようとしていた奥川を呼び止めた。
その時、
奥川の肩越しに大吾の敵意に満ちた目が見えたが
俺はそれを無視した。

俺はこの学校の授業の進み具合について
奥川に相談した。
この時期に授業の進捗状況など
無きに等しかったが、
奥川は嫌な顔をせずに丁寧に答えてくれた。
実は奥川は相馬とクラスで一位、二位を争うほど
頭が良かった。

この日から俺と奥川は週に一、二度、
放課後二人で教室に残って
勉強をするようになった。
初めて知ったことだが、
奥川の両親は
世界的に活躍している音楽家で海外に住んでおり、
現在、
奥川は年の離れた姉と
二人で暮らしているとのことだった。
そして晩御飯は
基本的に奥川が作ることになっていたから、
俺と奥川に与えられた放課後の時間は
長くはなかった。

それでも俺達の距離は
一歩一歩確実に縮まっていった。
そして、
それに比例して
大吾の俺に対する嫌がらせも
エスカレートしていった。


ある朝登校して上履きに履き替えたところ、
足にチクリと痛みが走った。
上履きの中に画鋲が仕込まれていたのだ。

またある日の授業中、
俺の教科書が数ページにわたって
破られていることに気付いた。
俺が大吾の方を見ると、
大吾はニヤニヤと笑っていた。

当然、これらを大吾がやったという証拠はない。
大吾は表向きにはいじめとバレぬよう
細心の注意を払っていた。

ある日の給食の時間、
お盆を持っている俺に大吾がぶつかってきた。
尻餅をついた俺に給食のカレーが降りかかった。
この時も、大吾は事故を強調した。
ナカマイ先生の前で
大吾はしきりに頭を下げていた。
俺は午後からの授業を
体操着で過ごす羽目になった。

俺達のクラスは昼休みには
「ドッジボール」か
「警泥」で遊ぶのが恒例だったが、
「ドッジボール」は
大吾にとって合法的に
俺を痛めつけることができる絶好の機会だった。
一方で
男女に分かれてチームを組むことの多かった
「警泥」には俺は加えてもらえなかった。
そんな時、
俺は教室で過ごしたがそれも悪くはなかった。
教室には相馬沙織がいたからだ。
彼女はいつも机で本を読んでいた。

俺が相馬に話しかけたのも
「警泥」で仲間外れにされた
ある日の昼休みのことだった。

「何を読んでるんだ?」
相馬はチラリと俺を見ると、
本を持ち上げて表紙を俺の方へ向けた。
そこには
「占星術殺人事件」
という文字が書かれていた。
はたして「占星術」という漢字を
読める小学六年生がどのくらいいるだろう
と俺はまず疑問に思った。
殺人事件ということは
所謂ミステリ小説の類だろう。
彼女にそんな趣味があったことを
俺はこの時初めて知った。
「面白いのか?それ」
「どうかしらね。
 一応、傑作と称されている本だけど」
相馬は俺の方を見ずに素っ気なく答えた。
そんな彼女に
俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
それから彼女は
ふたたび俺にチラリと一瞥をくれると
「後学のために、
 人類史上最高のトリックが
 どういうものか勉強しておこうと思って」
そう付け加えてふたたび本へ目を落とした。

その時、
俺は窓際の一番後ろの席に座っている男に
気付いた。
男は俺と目が合うとぎこちない笑みを浮かべた。
昼休みの教室に
俺と相馬以外の人間がいたことに驚いた。
誰だろう。
あんな生徒がこのクラスにいただろうか。
俺は記憶の糸を手繰ったが
その先は空しく途切れていた。

「あのさ。
 あそこに座ってる奴、誰だっけ?」
相馬は俺の言葉に振り返った。
「何言ってるのよ。
 池田君でしょ。池田圭君」

池田圭(いけだ けい)

しかしその名前を聞いても
俺は彼について何も思い出せなかった。

「ねえ、もう本を読んでもいいかしら」
「あ、悪い」
相馬との初めての会話は
彼女にあまり良い印象を与えないままに
終わった。
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