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二章 Reunion

四月 <本質> 5

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俺の二度目となる小学校生活の初日は、
多少のいざこざはあったものの、
平穏に終わろうとしていた。

放課後、
俺は校庭の隅にある砂場で一人考え事をしていた。
俺の身に起こっていることは
紛れもなく現実である。
俺は今の自分の状況を受け入れなくてはならない。
そのことについて俺はあまり苦に感じてなかった。
たしかに「前世」の退屈な人生にも
多少の未練はあった。
しかしそれ以上に人生をやり直せるという
興奮の方が勝っていた。

そして今日一日を過ごした中で
いくつか気付いた点があった。
まず、当然だが俺は外見上は小学生だが
頭の中は三十五歳の大人だということ。
次に、今日の給食のおかずの中に
椎茸が入っていたが、
俺はそれを美味しく食べることができた。
俺は三十歳を過ぎるまで
椎茸が嫌いだったことを考えると、
俺の嗜好も知識と同様に
三十五歳のままだと考えられた。
それを裏付けるもう一つの根拠があった。
俺はてっきり「今世」においても、
初恋の相手である
相馬沙織に惹かれると思っていた。
しかし、
今の俺にとって
彼女は思い出の中の初恋の少女という
懐かしい感情しかなかった。
それがわかって俺は少し安心した。
中年の俺が小学生の少女に惹かれるのは
健全とは言い難いからだ。
とは言いつつも、
クラスの中で一番成熟している
奥川暁子に多少心が動いたのも事実だった。

「おい、こいつ。気持ち悪ぃよ」
「蟻を殺してるぜ」
「うわあ」
その時、背後から声がした。
振り向くとそこに立っていたのは
大吾と洋、そして翔太だった。
俺はゆっくりと立ち上がって彼らに対峙した。

「転校生、お前の渾名が決まったぜ。
 お前は悪魔の子だから『あっくん』だ」
大吾が俺を指さした。
「あっくんか。似合ってるぜ」
洋が「ひひひ」と笑った。

彼らは俺が蟻の巣に水を入れて
溺死させているところを見ていたのだ。
単なる子供の悪戯に対して
悪魔とは酷い言われ様だった。

『あっくん』という渾名は
偶然にも両親が俺を呼ぶ愛称と同じだったが、
その本質は真逆だった。
片や愛情からもう一方は悪意から。

俺は「前世」でもクラスメイトから
同じ渾名で呼ばれていた。
「前世」では誰が
どういった経緯でどんな理由から
俺をそう呼んだのかは覚えていない。
それでも今のような状況で
付けられたものではなかったことだけは
断言できる。
「前世」の俺は
大吾のグループとは
まったく接点がなかったのだから。
過程は違えど、
こうして俺は今「前世」と同じ渾名で
呼ばれている。
それが歴史の持つ大きな力であるのなら、
俺は結局「前世」と同じ人生を
歩むことになるのだろうか。

「何か言えよ!『あっくん』」
大吾が笑うと翔太と洋も笑った。
この際、
蟻を殺していた俺と
転校生を三人がかりでいじめようとしている
彼らのどちらが悪魔と呼ばれるに相応しいか
という議論は後回しにしよう。 
俺は何も言わずに彼らに背を向けて歩き出した。

「ムカつく奴だぜ」
後ろで大吾が吠えていた。

所詮、子供の嫌がらせだ。
可愛いものだった。
それでも大吾には一度罰を与える必要がある。
その時、俺は奥川暁子を口説くことを思い付いた。
それが大吾には一番いい薬になるだろう。

大吾は奥川のことが好きだった。 
これは「前世」において
誰の目にも明らかな事実だった。
しかし残念なことに、
というか当然のことだが、
奥川は大吾のことを
まったく相手にしていなかった。

大吾がいくら腕力があり、
権力を手にしていたとはいえ、
それらは恋に関してはまったくの無力だった。
それに大吾は
奥川に話しかけることすらできないでいた。
硬派を気取っていたのか、
それとも単に恋に臆病なだけか。
俺はガキ大将としてのプライドが
邪魔をしていたと考える。
万が一にもフラれてしまっては
格好がつかないと思っていたのだろう。
人生において多くの場合プライドは障壁となる。
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