ボクは名探偵?

Mr.M

文字の大きさ
上 下
33 / 64
七章 知と血

第33話 再会

しおりを挟む
温かい光を感じて
ボクは薄っすらと目を開けた。

「せ、先生!先生!」

ボクの目に飛び込んできたのは
心配そうにこちらを覗き込んでいる
少女の顔だった。

艶のある長い黒髪。
ふわりとした前髪が
アーチ型の眉にかかっていた。
綺麗な二重瞼の大きな目。

どうして彼女が・・。
ぼんやりとした頭にそんな疑問が浮かんだ。
そして。
次の瞬間、
ボクは飛び起きた。
首筋に鈍い痛みが走った。
「イテテッ」
「・・先生、まだ無理をされないほうが」
「・・五代・・さん?」
「よかった。
 ずっと目を覚まさなかったので
 心配していたんですよ」
五代の瞳が僅かに潤んでいた。
「ボクはどうして・・」
「先生は酉の宅の前で倒れていたんです」
その言葉を聞いてボクは夢の中で
何者かに背後から襲われたことを思い出した。
アレは夢ではなかったのか?
そしてコレは夢の続きなのか?

「先生は二日間も眠っていたんですよ」
「ふ、二日間?」
「はい。
 一体何があったんですか、先生?」
「それはボクにも・・。
 後ろから誰かに殴られたと思うのですが」
「もしかしたら・・。
 先生を殴った犯人が・・」
その言葉にボクは嫌な予感を覚えた。
「・・何かあったのですか?」
五代は小さく頷いた。
「・・ま、まさか。
 日野が。
 い、いや義尚が殺されたのでは?」
五代がハッと息を飲むのがわかった。
「先生はどうしてそれを・・?」

それを聞きたいのはボクの方だった。
「・・い、いつのことですか?」
「一昨日の未明だと思われます。
 昨日の朝食の時、
 義尚様が姿を見せなかったんです。
 それで父が部屋に行くと
 変わり果てたお姿の義尚様が・・」
「し、死因は・・?」
「外傷はありませんでした・・。
 おそらく。
 何らかの毒を誤って口に入れたことが
 直接の死因と思われます」

眩暈がした。

現実世界で日野正義が死んだと思われる同時刻、
小説世界では日野に瓜二つの義尚が死んだ。

現実の人間が死んだから
小説の人物が死んだのか。
それとも逆で
小説の人物が死んだから
現実の人間が死んだのか。

普通に考えたら答えは明らかだ。
小説が現実に影響を及ぼすなんて・・
あり得ない。

詠夢は日野の死を知って、
それを小説に反映させたのだ。
しかし。
引き籠っている詠夢が
どうして日野の死を知ることができたのか。

そして何よりも。
なぜボクはふたたびこの世界に戻ってきたのか。
一体どちらの世界が現実なのか。
ボクは本当は
物語の中の登場人物に過ぎないのではないか。


「・・先生、大丈夫ですか?
 顔色が悪いようですが?」
「だ、大丈夫です」
ボクは無理に笑顔を作った。
「先生、これも見立て殺人なんでしょうか?」

見立て殺人。

ボクは小さく頭を振った。
首筋に痛みが走った。
首に手を当てると
ネックレスのチェーンに手が触れた。
ボクは浴衣の胸元からネックレスを取り出した。
フォレストグリーンに輝く
アレキサンドライトの石がキラリと光っていた。

「綺麗な石ですね」
五代がボクの手の中の石を見つめていた。
「どなたかからの贈り物ですか?」
「えっ・・。あっ、う、うん・・」
「それは先生にとって大切な人なんでしょうね」
「い、いや・・」
詠夢が大切にしていた物だと
説明したところで
今この場では意味がないだろう。

「そ、それよりも・・。
 義尚と同じ名の歴史上の人物は
 過度の飲酒による脳溢血により
 その命を落としたという説があります」
五代が大きく目を見開いた。
「・・義尚様は毒と共に
 大量のお酒も摂取していました」

「ジリジリジリジリ」
騒がしく耳障りな虫の音が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...