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一章 作中人物と現実の人間、脅迫状と遺言状
第6話 脅迫状
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「紹介しましょう」
姫子はそう言いながら左手を前に出した。
「私に近い方から
長女の政子。
次女の富子。
そして三女の菊子」
次に姫子は右手を出した。
「同じく手前から
政子の息子の頼家。
富子の息子の義尚。
そして菊子の息子の秀頼」
続いて姫子はボクに菊子の隣に座るよう促した。
菊子がこちらに訝しげな視線を投げてきたが、
それでもボクのことを
自分のクラスの生徒とは
認識していないことだけはわかった。
それは他の3人の息子達も同じだった。
彼らの反応を見て、
やはりここは小説の世界だと確信した。
偶然にも現実世界の人間とそっくりな
登場人物がいる架空の世界。
なぜ詠夢はこんな小説を書いたのか。
いや、詠夢の小説では
登場人物の外見に関する描写はなかった。
ならばこれは・・。
その時、
ボクの対面に座っている男と目が合った。
男は口髭と顎鬚を生やしていた。
その髪には僅かに白髪が混じっていた。
横に長い一重の目。
大きな鷲鼻。
その表情は穏やかだった。
男はボクと目が合うと小さく頭を下げた。
ボクもそれに応えた。
小説の登場人物の中で
まだ名前の出てきていない者は頼朝と秀吉だが、
秀吉は仕事の関係で夜霧の屋敷には
滅多に帰ってこないという設定だった。
それに秀吉は72歳。
目の前の男はとても70代には見えなかった。
ならばこの男は頼家の父、頼朝だろう。
頼朝に関しては
猜疑心が強く冷淡な性格
と書かれていたことを思い出して、
その外見から受ける印象との違いに
ボクは少しだけ戸惑った。
「来られて早々、
大変な目に遭われたそうですねぇ」
姫子は頼朝を紹介することなく話を進めた。
「え、えっと・・あ、は、はい」
ボクは改めて姫子を観察した。
真っ白な髪が歳を感じさせるが、
その顔には皺一つなく、
73歳とは思えないほど生気に満ち溢れていた。
「お母様、これはどういうことかしら?
この方は誰なの?」
菊子の口から出たその声は
菊野夕貴にそっくりで
ボクの意識は否が応でもその方へ向けられた。
「まさか。
五代の婿候補だったりしてね、
いひひひひ」
掠れた濁声の主は富子だった。
一重瞼の腫れぼったい目と
団子鼻に分厚い唇。
その髪は坊主頭のように短く刈られていて、
体は義尚の母親らしく熊のように大きかった。
富子の発言にすぐに反応したのは
3人の息子達だった。
北条清家。
いやここでは頼家。
彼の陰湿な視線がねっとりと
ボクの体に纏わりついた。
「ナメクジ」がボクの体中を這っているような
錯覚に陥ってボクは小さく身震いした。
日野正義。
この世界では義尚。
彼はその「蛙」のように大きな目を見開いて
敵意のある視線をボクに投げてきた。
浅井秀一。
ここでは秀頼。
この男は涼しげな表情のまま
獲物を狙う「蛇」のような目で
じっとこちらを窺っていた。
「あはははは」
突然、笑い声が部屋に響いた。
政子だった。
日本人形のようなストレートの長い黒髪に
大きな二重の目。
鼻と口も大きかったが、
全体的に整った顔立ちで、
エキゾチックな色気があった。
「何を言ってるの、富子。
どこの馬の骨ともわからない人間が
五代の婿候補ですって?
そんなことが許されるはずがないでしょう?
夜霧の血はそんなに軽くはないのですよ。
五代の婿は私達の息子の中から
選ぶ約束でしょう?
そう遺言状に書いたのはお母様です、
違いますか?」
皆の視線が姫子に注がれた。
「富子の提案もいいかもしれませんねぇ」
姫子は涼しい顔で答えた。
「お母様!」
3人の女達が同時に腰を上げた。
「・・心配しなくても
彼は貴方達の考えているような人では
ありません。
彼は私が呼んだ探偵です」
「た、探偵っ!」
今度は3人の息子達の声が揃った。
「先日、
遺言状の内容を発表した後、
このようなモノが私の許へ届きました」
そう言って姫子は
「菊に盃」が刺繍された
勿忘草色の着物の胸元から
一枚の紙を取り出すと
ゆっくりとそれを広げた。
『もし使用人の娘を後継者とするならば
夜霧の家に血の雨が降る』
姫子はそれを静かに読み上げると
部屋の中をぐるりと見回した。
「この脅迫文を送った人間がこの中にいます。
誰です?」
誰も口を開かなかった。
「あらららら。
やはり風来山人先生を呼んで
正解だったようですねぇ」
「ふ、風来山人!」
菊子が声をあげた。
「風来山人って・・。
数々の難事件を解決したという名探偵の・・」
頼家が信じられないという風に
両手を大きく広げた。
「こんな華奢で女みたいな野郎が名探偵?
本当かよ」
義尚がボクに疑惑の目を向けた。
「まさか名探偵の風来山人が
俺らと同年代の若い男だったとはねぇ」
秀頼はその涼しい顔を崩さなかった。
「先生には脅迫状の差出人を
見つけてもらいます。
そして犯人が見つかれば、
その者は夜霧の家から追放します。
当然、その者が相続人であれば
その権利も失うことでしょう。
おほほほほ」
姫子はそう宣言した。
姫子はそう言いながら左手を前に出した。
「私に近い方から
長女の政子。
次女の富子。
そして三女の菊子」
次に姫子は右手を出した。
「同じく手前から
政子の息子の頼家。
富子の息子の義尚。
そして菊子の息子の秀頼」
続いて姫子はボクに菊子の隣に座るよう促した。
菊子がこちらに訝しげな視線を投げてきたが、
それでもボクのことを
自分のクラスの生徒とは
認識していないことだけはわかった。
それは他の3人の息子達も同じだった。
彼らの反応を見て、
やはりここは小説の世界だと確信した。
偶然にも現実世界の人間とそっくりな
登場人物がいる架空の世界。
なぜ詠夢はこんな小説を書いたのか。
いや、詠夢の小説では
登場人物の外見に関する描写はなかった。
ならばこれは・・。
その時、
ボクの対面に座っている男と目が合った。
男は口髭と顎鬚を生やしていた。
その髪には僅かに白髪が混じっていた。
横に長い一重の目。
大きな鷲鼻。
その表情は穏やかだった。
男はボクと目が合うと小さく頭を下げた。
ボクもそれに応えた。
小説の登場人物の中で
まだ名前の出てきていない者は頼朝と秀吉だが、
秀吉は仕事の関係で夜霧の屋敷には
滅多に帰ってこないという設定だった。
それに秀吉は72歳。
目の前の男はとても70代には見えなかった。
ならばこの男は頼家の父、頼朝だろう。
頼朝に関しては
猜疑心が強く冷淡な性格
と書かれていたことを思い出して、
その外見から受ける印象との違いに
ボクは少しだけ戸惑った。
「来られて早々、
大変な目に遭われたそうですねぇ」
姫子は頼朝を紹介することなく話を進めた。
「え、えっと・・あ、は、はい」
ボクは改めて姫子を観察した。
真っ白な髪が歳を感じさせるが、
その顔には皺一つなく、
73歳とは思えないほど生気に満ち溢れていた。
「お母様、これはどういうことかしら?
この方は誰なの?」
菊子の口から出たその声は
菊野夕貴にそっくりで
ボクの意識は否が応でもその方へ向けられた。
「まさか。
五代の婿候補だったりしてね、
いひひひひ」
掠れた濁声の主は富子だった。
一重瞼の腫れぼったい目と
団子鼻に分厚い唇。
その髪は坊主頭のように短く刈られていて、
体は義尚の母親らしく熊のように大きかった。
富子の発言にすぐに反応したのは
3人の息子達だった。
北条清家。
いやここでは頼家。
彼の陰湿な視線がねっとりと
ボクの体に纏わりついた。
「ナメクジ」がボクの体中を這っているような
錯覚に陥ってボクは小さく身震いした。
日野正義。
この世界では義尚。
彼はその「蛙」のように大きな目を見開いて
敵意のある視線をボクに投げてきた。
浅井秀一。
ここでは秀頼。
この男は涼しげな表情のまま
獲物を狙う「蛇」のような目で
じっとこちらを窺っていた。
「あはははは」
突然、笑い声が部屋に響いた。
政子だった。
日本人形のようなストレートの長い黒髪に
大きな二重の目。
鼻と口も大きかったが、
全体的に整った顔立ちで、
エキゾチックな色気があった。
「何を言ってるの、富子。
どこの馬の骨ともわからない人間が
五代の婿候補ですって?
そんなことが許されるはずがないでしょう?
夜霧の血はそんなに軽くはないのですよ。
五代の婿は私達の息子の中から
選ぶ約束でしょう?
そう遺言状に書いたのはお母様です、
違いますか?」
皆の視線が姫子に注がれた。
「富子の提案もいいかもしれませんねぇ」
姫子は涼しい顔で答えた。
「お母様!」
3人の女達が同時に腰を上げた。
「・・心配しなくても
彼は貴方達の考えているような人では
ありません。
彼は私が呼んだ探偵です」
「た、探偵っ!」
今度は3人の息子達の声が揃った。
「先日、
遺言状の内容を発表した後、
このようなモノが私の許へ届きました」
そう言って姫子は
「菊に盃」が刺繍された
勿忘草色の着物の胸元から
一枚の紙を取り出すと
ゆっくりとそれを広げた。
『もし使用人の娘を後継者とするならば
夜霧の家に血の雨が降る』
姫子はそれを静かに読み上げると
部屋の中をぐるりと見回した。
「この脅迫文を送った人間がこの中にいます。
誰です?」
誰も口を開かなかった。
「あらららら。
やはり風来山人先生を呼んで
正解だったようですねぇ」
「ふ、風来山人!」
菊子が声をあげた。
「風来山人って・・。
数々の難事件を解決したという名探偵の・・」
頼家が信じられないという風に
両手を大きく広げた。
「こんな華奢で女みたいな野郎が名探偵?
本当かよ」
義尚がボクに疑惑の目を向けた。
「まさか名探偵の風来山人が
俺らと同年代の若い男だったとはねぇ」
秀頼はその涼しい顔を崩さなかった。
「先生には脅迫状の差出人を
見つけてもらいます。
そして犯人が見つかれば、
その者は夜霧の家から追放します。
当然、その者が相続人であれば
その権利も失うことでしょう。
おほほほほ」
姫子はそう宣言した。
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