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ルームナンバー319(2)

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支払いを終えて外に出ると太陽は既に頭上高く、さんさんと光が降り注ぐ。
いつもよりも眩しく健全に感じる日の光を浴びながら、爽やかな表情の神山透の一方で、恋人つなぎで手を繋がれながら、夜の雰囲気の名残りを引きずって、周囲を気にして後ろめたそうにホテルから出てくる私なのであった。

「部屋が空いていなったから、ルームナンバーさあいこう3 1 5ではありませんでしたけど、今回の部屋番号はどんな語呂合わせができると思います?」

神山透は駅までの道すがら、そんな話を持ち出してくる。
うーん語呂合わせねえ。今回は全く意識してなかったのでどんな語呂合わせができるやら。

「319号室、319……さあいく?さいあーきゅう?」


……さいあく3 1 9


なんの気無しに出した言葉だが、それを聞いた神山透は眉をしかめて反論をする。

「……最悪?素敵な時間を過ごしたんですから、それは無しですよ。だったら、最初の『さあいく』……うーん、『さあいくよ3 1 9』が、前向きですし、なによりこれから山本さんのお宅に訪問するのにぴったりだと思うんで、僕はオススメしますね」

神山君よ、それだと3194さあいくよになるのだけども……。口の先まで出掛かったが、確かに『最悪』よりは前向きで良いなと思い直す。

さあ行くよ。
そう、これから私は神山透を、急遽自宅へと連れて帰ることになったのだ。
なぜワンルームの小さな部屋に、神山透を招待することになったのか。

……話は319号室、コトの直後へと遡る。

--

「我ながら恥ずかしすぎる」

神山透につられて大いに乱れてしまった自分を嘆くように呟くと、イケメンは私を抱き寄せ顔にキスの雨を降らせながら、先程までの荒々しさとは打って変わった蕩けるような甘い声で囁くのだった。

「そんなことないですよ。山本さん、素直で、すごくかわいかったですもん」

そんな台詞を聞かされると、くすぐったいと思う反面、なんだか心の底から大切に扱われている様な気がしてきてしまう。胸の奥がきゅうんと苦しくなり、嬉しいような泣きたくなるような、おかしな気持ちになってくるので、慌てて適当な会話を試みる。

「神山さん、今日はいつもと違うのは、やっぱりお仕事大変だったからですか?」

溜まったストレスがここで一気に吹き出しちやったのかもしれぬ。営業ってやっぱり大変よね。思わず頭を撫で撫でしてやると、モニョモニョ歯切れの悪い回答が返ってくる。

「……いえ、仕事は立て込んでいて確かに大変でしたけど、それとこれとは別で……」

仕事のストレスではないならば、どうして朝起きてからあんなに荒ぶっていたのやら。訝しげな私の視線に耐えきれなかったのか、イケメンは頭をガシガシ掻きながら、決まり悪そうな表情をする。

「嫉妬というか、僻むというか……なんていうか山本さんに、腹が立ってたんです」

腹を立てる?誰に?私に?なんで?
腹を立てられる理由なんかに検討もつかず、とりあえず話を促してみる。

「だって山本さんは、一人の人間の神山透には、体調気遣って直ぐに休める場所に連れていってくれる優しさがあるのに、男としての神山透には……優しくないんですもん」

……はあ?

「昨日は山本さんからホテルに誘われて『男として求められている!誘われてる!』って思って嬉しかったのに、目覚めてみたら、帰り支度も完璧にされてたら、そりゃ腹も立ちますよね。山本さんは思わせぶりに人を惑わすひどい人ですよ」

ジトリと恨めしげな視線を寄越す神山透は、続けてブツブツこんな文句を言う。

「それにいくらこちらが忙しいからと言って、まさか山本さんからこの3週間、なんの連絡もないとは思いませんでした」

えぇー。なんだそれ。
まさかそんなことを思われてたとは心外である。
連絡をしなかったのは忙しい中邪魔をしては悪かろうという配慮だし、昨日は昨日で疲れている人を早く寝かせてやろうという気遣い精神からきた優しさだというのに、この一連の流れを否定されてしまうとは。
ましてや今朝の起きてから退出(予定)までについては時間の無駄のない、我ながら完璧な行動だと思っていたのだが、イケメンが求めていたのはそういうことでは無かったということか。

一人の人間としてだけでなく、男としても見てほしいって?いやでもこの数週間、特に昨日のあんな状態の人に、男としての何かは求めちゃいけない感じだったと思いますよ?

「いやあ、私の中では神山さんはどこからどう見ても十分に男性だと思いますけどねえ?」

言いたいことは色々あるが、取り敢えず納得しないものの口を開くと、「そういんじゃなくて、もっと男性として意識して欲しいんです!」と要求される。

なんだなんだ。まるで拗らせ女子みたいだな。

「うーん、なんだかよくわからないですけど、男ゴコロにも色々あるんですね」
「そうですよ!山本さんが思ってる以上に男性だって繊細なんですからね!!」

ぎゅうぎゅう力一杯抱きしめられながら、なぜか私は窘められてしまう。

「じゃあ、繊細な男ゴコロさんは、これから私にどうしてほしいですか?」

だったら今後どうしてほしいのか。その要望を聞いてやろうじゃないかと神山透に聞いてみる。

「ずっと、こうしていたいです」

ぽふりとイケメンは私の首筋に顔をうずめてくる。

「もっと山本さんを感じたいし、もっと、ずっと一緒に居たいです」

そう言いながら私の胸を下からすくい上げるように撫でてその先端を摘み、耳を舌で舐り、熱を再び持ち始めた自身の下半身を私に擦りつけてくるのだった。 

そんなことをされたならば、私も私でまた気持ち良くなってきてしまう。
またしても快楽の波にのみ込まれて頭が働かなくなりそうな私だが、懸命に神山透の言葉の意味を反芻して理解しようと試みる。

ずっとこうしていたい?一緒に居たい?それってどういうこと?ずっと気持ち良くなっていたいってこと?
それとも……?

「ふ、ぁああん!」

濡れた下腹部に手を差し伸ばされれば、思考は一気に停止。
くちゅくちゅかき回されてしまえば、それしか考えられなくなる。

「神山さん、かみやまさん、それ、だめぇ、んっ」

ダメと言いながらも腰はクネクネと揺れて、もっともっとと欲しがってしまう。

あ、でも、今度こそ延長料金!高額な延長料金が発生してしまう!

身を切る思いで神山透を引き離す。

「神山さん!でしたら、続きはここではない所でしましょう!!」

ここでは延長料金が気になってしまって仕方がない。
では、ここではないところとは一体どこだ?

会社?ありえない。
神山透の家?叔父さんちなのでヤりたくない。
じゃあ残りは……

「神山さん、もしよかったら、続きは私の家でしませんか?」

---

そんな訳で、深い意味等考えず、ただイチャイチャする為だけという爛れた理由で、自宅へと神山透を連れて帰ることになった私なのであった。

 

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