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が、その時。


「コルト様ああああああ!!!やっと見つけましたよおおおおおお!!!」

 大声と共に、市場の人々をかき分けその男に飛びついてきたのは、これまたこの辺りではとんとお見かけすることのない、豪奢な刺繍が施されたウエストコートと純白のクラヴァットが印象的な、ひょろりと背の高い優男。

「ちっ……見つかってしまったか」
「見つかってしまったか、じゃありませんよ!急にどこかに行ってしまわれたので心配してたんですから!」

 面白くなさそうに舌打ちをするコルトと呼ばれた男に構わず、飛びついてきた優男は「ご無事で何よりでした!」などと言いながらジロジロとその身体に隈なく目を走らせている。

「大体今日に限って妙に地味な服装を選ぶから、おかしいとは思ってたんですよ。まさか人混みに乗じてこの私を置いてお逃げになってしまわれるなんて!」
「逃げたとは人聞きの悪い!ほんの少し、市井の民の様子を見てみようと思っただけだというのにお前がそんな格好で横に立っているのが悪いのだぞ!それでは変に目立ってしまうではないか!」
「なんですって?流行最先端のこの装いの何が悪いというのですか!」
「そういうところだ。そういうところが悪目立ちするというのだ!」

 納得いかなさそうな顔をする優男だったが、ため息を一つつくと気を取り直したようにコルトの背中をぐいと押す。
 
「はいはい、わかりましたよっと。では私と別行動をとっている間に市場の様子はもう充分堪能されましたよね?もう王宮に戻りますよ!」
 
「……王宮???」

 二人の男のやり取りをポカンと見つめていたルーシーだったが、今、聞き捨てならないものを聞いてしまったような気がする。思わず反覆して呟くと、優男はしまったという顔をする。

「えーっと、そこのお嬢さん?今何か聞こえました?いえ、何も聞こえてませんよね?」

 有無を言わさない、強い圧を感じさせる笑顔を向けてくるが、ルーシーはそれを無視して今聞いたことを繰り返す。
 
「あの、今王宮って……」
「気の所為です」
「え、今確かに王宮って……」
「きのせいです」
「いや、でも確かに今……」

 聞こえたよねえ?と、周囲に水を向けるとシイラも、その後ろの憲兵までもが「聞いた聞いた」と頷いている。

「お前と言うやつはいつもこうだ!毎度余計なことをしでかして!」
「あーっもうお嬢さん!それ以上その言葉を口にしないでくださいな!」

 全く!と、声を荒げるコルトに慌てた優男は、ルーシーに近づくと耳元に唇を寄せて「絶対内緒、ここだけの話にしてくださいね」と囁くと、オホンと一つ咳払いをする。

「えっとですね。恐れ多くもあちらのお方は、このカルコス国の第一王子、コルト・アルジャン・カルコス様に在らせられるのですよ」

 
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