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第52話 目覚めしソールーナ

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「え、あれ? リュクレス様、どうしたんですか?」

 パチパチと瞬きしつつリュクレスを見上げるソールーナ。

 そんなソールーナにため息をつきつつリュクレスは答えた。

「どうしたんですか? じゃないだろうが。もしかして覚えてないのか?」

「ええと、なにを……?」

「……はぁ」

 リュクレスがさらに深いため息をつくのと、ユミリオが頷くのは同時だった。

「ソールーナさんは絵を描くときはトランス状態になりますからね……」

「すみません。昔から絵を描くと他が見えなくなっちゃって。って、えっ!?」

 男達にしてみれば今さらではあるが――。ソールーナは顔を真っ赤にし、すぐにキャッと顔を手のひらで覆う。

「なっ、なんで裸なんですかユミリオ様! やだ、見ちゃった。見ちゃったじゃないですかー馬鹿ー! ていうかなんかもの凄い室内荒れてる!? なにこれ!!」

「…………………………」

「…………………………」

 男二人は疲れた顔で顔を見合わせる。

「すみませんね、リュクレス。君の奥方は僕を見てしまって恥ずかしがっていますよ。どうしますか? 僕のこと斬りますか?」

「……なんだか疲れてきたので害は無いと判断し、特別に放免してやろう」

「おや。嫉妬はしないんですか?」

「なんかもう疲れた……」

 虚無感を漂わせるリュクレスとは違い、ソールーナは涙目である。

「あ、あのう、本当になにがあったんですか?」

「お前はヌードを描いてたんだよ、そこの王子様のな。そのスケッチを見れば分かるだろ」

「え、え? えええええ!? ヌード!?」

 確かにソールーナはユミリオのヌードを描きたいと望みはしていたが……、何故そうなったのだろうか。しかも何故夫婦の寝室に移動したのだろうか。

「え、でもなんで!? しかもここで!?」

「こっちが聞きたいわ」

「僕も聞きたいですね。僕はここに引っ張り込まれただけなので」

「引っ張……えぇ!?」

 混乱するソールーナにほほえみかけたのはヌードを晒すユミリオ王子である。

「そう、引っ張り込まれました。花園のベッドに僕が寝そべった姿を……とかぶつぶつ言っていましたよ」

 と言いつつ、ユミリオはソールーナにスケッチブックを返す。

「とりあえずあんたは下を隠せ。話はそれからだ」

「ふふっ、でこれで開放感があって気持ちいいんですよね」

「変態め……」

「……………………」

 ソールーナはスケッチブックをイーゼルに掛け、鉛筆をスケッチ用の持ち方で持ち直した。

「……ん」

 と顎でユミリオに指示する。いいから早く持ち場に戻れ、と言っているのだ。

「え、ちょ。お前これでスケッチ再開する気か?」

「ん」

「おいまたさっきとは違ったキャラになってるぞ」

 こんどは見もせずにリュクレスに指示した。

「いいからお前は出て行け。スケッチの邪魔だ」

「………………くっ。仕方ないな……」

 この状態のソールーナには何を言っても無駄だろう。

 ソールーナが不貞を働いているのではないことだけは十分理解できたので、リュクレスはため息をつきつつユミリオに向き直った。

「……じゃあ、俺は出て行くが……。ええと、ソールーナに手を出したら承知しないからそのつもりでな」

「動いたら怒られるからその心配はないですよ」

 と散らばったトランプを集めはじめるユミリオ。

 リュクレスはしばらくその姿を見ていたが、やがて部屋を出て、深い深いため息をついた。

「なんだったんだ、いったい……」

 リュクレスは頭を掻きながら独り言をつぶやく。

「調子が狂う……。それにしても」

 リュクレスはスケッチを思い出す。

「あいつ、ほんとに絵の才能があるんだな……」




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