5 / 67
第5話 通勤中の二人
しおりを挟む
結婚式から帰ってきた翌日。
ソールーナとリュクレスは揃ってイメツィオ家の馬車に乗り、王城へと向かった。
ソールーナはフィメリア王女の側仕えという仕事のため、リュクレスは王宮騎士団の仕事のため、である。ソールーナは仕事用の地味めなドレスを着用しているし、リュクレスは騎士団から支給されたとう黒い騎士の制服に身を包んでいる。
特に話すこともなく、馬車内には気まずい沈黙だけが横たわっていた。
「……あの」
耐えかねて口を開いたのはソールーナだった。
「昨日はずいぶん遅いお帰りでしたね」
「騎士団の連中に歓迎会をされてな」
「まぁ、そうだったんですか」
家に帰りたくないから――ソールーナに会いたくないから――、というわけではなかったのか。
「俺は早く帰って寝たかったんだが、初っぱなから断るのも今後の人間関係に支障が出るだろうと思って付き合ったんだ。俺は二日酔いにはならないから、飲むだけならいくらでも飲めるからな」
「それは大変でしたね……」
リュクレスは自分のことを嫌っていてなかなか帰ってこないのかと思っていたのだが……。
(リュクレス様にはリュクレス様の事情があるのね)
白い結婚、カタチだけの夫婦。それが自分と彼なのだから仕方がないと思っていたけれど……だが裏を知ると、腑に落ちるものがあった。……流浪の騎士だったリュクレス。根付き草になって苦労しているのだ。
「リュクレス様のお仕事って、どんなものなんですか?」
「王宮騎士団の分隊副師団長という立場を貰ったよ」
「分隊副師団長! 凄いですね。いきなり役職付きで迎えられるなんて」
「主な仕事内容は雑用だけどな。なんにせよ、流浪の騎士上がりには荷が重いよ。正直、面倒くさい。昨日なんか随分イジられたしな……」
「イジられるって?」
「新婚さんを邪魔してやれー、みたいなやつだよ。男が集まるとそういう話題になったりするんだ。酒も入ってるしな。だからなかなか帰してくれなかった」
「そ、そうなんですか」
「まったく。そんなんじゃないのになぁ……」
あくびを噛み殺しながらぼやくリュクレスを見て、ソールーナは微笑む。
「でも、なんだか楽しそうです。そういう話ができるお仲間がいるっていいですよね」
「楽しい? ……いや別に楽しくはないけどな。ああいうのは苦手だ。ただ俺にも立場ってものがあってな……。だいたいお前とはそういう関係じゃないし。はー、まったく。集団行動はこれだから嫌なんだよ」
「ふぅん……?」
どうにも要領を得ず、ソールーナは首を傾げるばかりであった。
そんな二人を乗せた馬車は、やがて王城の門を潜った。
ソールーナとリュクレスは揃ってイメツィオ家の馬車に乗り、王城へと向かった。
ソールーナはフィメリア王女の側仕えという仕事のため、リュクレスは王宮騎士団の仕事のため、である。ソールーナは仕事用の地味めなドレスを着用しているし、リュクレスは騎士団から支給されたとう黒い騎士の制服に身を包んでいる。
特に話すこともなく、馬車内には気まずい沈黙だけが横たわっていた。
「……あの」
耐えかねて口を開いたのはソールーナだった。
「昨日はずいぶん遅いお帰りでしたね」
「騎士団の連中に歓迎会をされてな」
「まぁ、そうだったんですか」
家に帰りたくないから――ソールーナに会いたくないから――、というわけではなかったのか。
「俺は早く帰って寝たかったんだが、初っぱなから断るのも今後の人間関係に支障が出るだろうと思って付き合ったんだ。俺は二日酔いにはならないから、飲むだけならいくらでも飲めるからな」
「それは大変でしたね……」
リュクレスは自分のことを嫌っていてなかなか帰ってこないのかと思っていたのだが……。
(リュクレス様にはリュクレス様の事情があるのね)
白い結婚、カタチだけの夫婦。それが自分と彼なのだから仕方がないと思っていたけれど……だが裏を知ると、腑に落ちるものがあった。……流浪の騎士だったリュクレス。根付き草になって苦労しているのだ。
「リュクレス様のお仕事って、どんなものなんですか?」
「王宮騎士団の分隊副師団長という立場を貰ったよ」
「分隊副師団長! 凄いですね。いきなり役職付きで迎えられるなんて」
「主な仕事内容は雑用だけどな。なんにせよ、流浪の騎士上がりには荷が重いよ。正直、面倒くさい。昨日なんか随分イジられたしな……」
「イジられるって?」
「新婚さんを邪魔してやれー、みたいなやつだよ。男が集まるとそういう話題になったりするんだ。酒も入ってるしな。だからなかなか帰してくれなかった」
「そ、そうなんですか」
「まったく。そんなんじゃないのになぁ……」
あくびを噛み殺しながらぼやくリュクレスを見て、ソールーナは微笑む。
「でも、なんだか楽しそうです。そういう話ができるお仲間がいるっていいですよね」
「楽しい? ……いや別に楽しくはないけどな。ああいうのは苦手だ。ただ俺にも立場ってものがあってな……。だいたいお前とはそういう関係じゃないし。はー、まったく。集団行動はこれだから嫌なんだよ」
「ふぅん……?」
どうにも要領を得ず、ソールーナは首を傾げるばかりであった。
そんな二人を乗せた馬車は、やがて王城の門を潜った。
0
お気に入りに追加
851
あなたにおすすめの小説
騎士団長!!参る!!
cyaru
恋愛
ポップ王国の第二騎士団。騎士団長を拝命したフェリックス。
見た目の厳つい侯爵家のご当主様。縁談は申し込んだら即破談。気が付けばもうすぐ28歳。
この度見かねた国王陛下の計らいで王命による結婚をする事になりました。
娼婦すら恐る恐る相手をするような強面男のフェリックス。
恐がらせるのは可哀相だと白い結婚で離縁をしてあげようと思います。
ですが、結婚式の誓いのキスでそっとヴェールをあげた瞬間、フェリックスは・・・。
※作者からのお願い。 決して電車内、待ち合わせ場所など人のいる場所で読まないようにお願いいたします。思わず吹き出す、肩が震える、声を押さえるのが難しいなどの症状が出る可能性があります。
※至って真面目に書いて投稿しております。ご了承ください(何を?)
※蜂蜜に加糖練乳を混ぜた話です。(タグでお察しください)
※エッチぃ表現、描写あります。R15にしていますがR18に切り替える可能性あります。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※8月29日完結します(予約投稿済)おバカな夫婦。最後は笑って頂けると嬉しいです
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
婚約の条件を『犬耳と尻尾あり』にしたところ、呪われた騎士団長様が名乗りを上げてきました
氷雨そら
恋愛
*3万文字くらいの完結済投稿です*
王立図書館で働く私に、毎日届く婚約の釣書。
祖父はどうしても私を結婚させたいらしい。
そこで私は、一芝居打つことにした。
「私、今まで言えなかったのですが、人と違う嗜好があるのです。それがない殿方にこの身を預けるなど、死んでも嫌です」
「……はあ。その嗜好とやらを言ってみなさい」
「……犬耳と尻尾が生えていない殿方と寝所をともにするなんて、死んでも嫌なのです!! あと、仕事を続けることを許してくれる方、というのはゆずれません!!」
けれど、私はこのとき想像もしなかった。
まさか、王国の英雄、騎士団長様が、犬耳と尻尾を生やして、私に婚約を申し込みに来るなんて。
*小説家になろう短編ランキング日間1位ありがとうございました*小説家になろうにも投稿しています。
【完結】婚約破棄をされたので、悪役令嬢の私は祖国の騎士団長様に愛されることにします
るあか
恋愛
急にジョン王子に婚約破棄をされたシェリーは、故郷のステリア王国へと帰ることにした。
そこで今は騎士団長になっている幼馴染と再開する。
彼はなぜか女性嫌いと噂になっていたが、その真相は……。
そして、ジョン王子の内心は……。
※エール、誤字報告ありがとうございます!
見放された家出令嬢は清くたくましく生存中! ※ただし酒場で出会ったドS男子に処女を狙われている
三崎こはく
恋愛
侯爵令嬢アン・ドレスフィードは、父親との不仲により家出中の身。
特技である『変貌魔法(姿かたちを自由に変える魔法)』を駆使して、清くたくましく生きていた。
ある夜、アンはなじみの酒場で『クロエ』と名乗る美女と出会う。どうやら人探しをしている様子のクロエに、アンは親切心から協力を申し出る。
しかしクロエはアンと同じ変貌魔法の使い手であり、その正体は――?
※他サイトにも掲載
騎士団長と聖女の白い結婚
和泉鷹央
恋愛
聖女アデルが女神ラーダの神殿からアルハンドル王国に派遣されて十年。
十六歳の若さでこの北国へやってきた時は美しさが満開だった彼女も、そろそろいい歳になっていた。
五年で任期が終わるはずだったが、雪国は不人気。
交代する人員はいてもみんな辞退してしまい、いつの間にかアデルが続投することに。
三回目の今年こそは春の都ラーダムに戻ろうと決めた矢先、彼女を引きとどめたい国王は騎士団長アッサムをアデルに紹介する。
故郷か雪国か。
アデルが二つの選択肢で迷っているうちに国王様は勝手に話を進めていた。
帰郷を理由に求婚を断ろうとしたアデルは騎士団長の訪問を受け、彼には意中の人がいると知る。
しかし、国王は王命として二人の結婚を命じてしまう。
断れば彼が断罪されると知ったアデルは白い結婚を画策し、自分が側室になり、恋人は正室になる結婚を薦めることにした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。
石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジャクリーンは、婚約者を幸せにするため、実家もろとも断罪されることにした。
一応まだ死にたくはないので、鉱山や娼館送りではなく平民落ちを目指すことに。ところが処分が下される直前、知人の魔術師トビアスの嫁になってしまった。
奴隷にされるのかと思いきや、トビアスはジャクリーンの願いを聞き入れ、元婚約者と親友の結婚式に連れていき、特別な魔術まで披露してくれた。
ジャクリーンは妻としての役割を果たすため、トビアスを初夜に誘うが……。
劣悪な家庭環境にありながらどこかのほほんとしているヒロインと、ヒロインに振り回されてばかりのヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3103740)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる