上 下
26 / 48
*WEB連載版

第43話 面白い奴はただの面白い奴に過ぎない

しおりを挟む
「ていうかさ」

 なんとかイリーナを引きはがそうと苦労するルベルド殿下が言った。

「お前、本当に面白い奴だな。笑っちゃうわ、ははは」

「まあ、お義兄にいさまったら。そんなこと言ったら駄目ですわよ、お姉さまがどこで聞いていらっしゃるか分からないのですから」

「イリーナ? 私はここよ?」

「王子様が面白い女だなんて身分の低いものに興味を持つなんて、それって『恋愛の開始』の合図なんですもの。大抵の恋愛小説ではそうなっていますのよ!」

「なにそれ。ほんとアタマぶっ飛んでて面白いなお前」

「きゃあっ、ご注意申し上げましたのに。まだそんなことをおっしゃられるのね」

 イリーナは、きゃっ、と頬を両手で覆って恥ずかしそうに身を捩る。そしてちらりとこちらを見た。

「お姉さま、ごめんなさいね。ルベルド殿下ったらわたくしのこと面白い女、っておっしゃるのよ」

「……?」

 それがなんなのだろうか。意味がわかんないわ。
 面白い女扱いされるのって、そんなに嬉しいことなの?

「ああ、でもお義兄さま。お義兄さまにはお姉さまという決められた人がいるのですわよ。いくら禁断の恋は燃え上がるからって、禁じられた恋はおやめくださいませね!」

「当たり前だろうがよ。俺はアデライザが好きなの。早く帰れよこのアタマ銀髪ラフレシア!」

「それがわたくしたちの身のためですわね。でも、しばらくはここに滞在させていただきますので、お義兄さま。その間になにかが起きる……そんな予感はいたしますわね……」

「はぁ!? なにそれ? 勝手に決めてんじゃねえぞ銀ラフが!」

「とりあえずお部屋を用意してくださいますかしら、お姉さま。メイドももちろん付けてくださいます?」

「厚かましいな」

「あとでしっかりお話ししましょうね、お義兄さま。お茶でも飲みながらじっくり姉の事を教えて差し上げますわ」

「んーまあ小さい頃のアデライザの話なら聞きたいかな……」

「じゃあ決まりですわ! ダドリー様に振られて傷心なわたくしを癒やしてくれるお義兄様に感謝いたしますわ」

「いや、なんつうか人の話は聞けよお前」

「では失礼いたします、お義兄さま、お姉さま。また後ほど」

 アデライザはスカートをつまんで優雅に一礼すると、トランクを持って去っていった。

 その後ろ姿を見送り、ルベルドは首を傾げた。

「…………え、あいつ、どこ行くつもりだ?」

「イリーナ、イリーナ!」

 あの子、勝手に誰かの部屋に入るつもりだわ! それでその部屋を勝手に『自分の部屋』宣言するのよ。あの子のならそうするわ。

「すみません殿下、イリーナに部屋を用意してやっていただけませんか。メイドも付けていただけると私の手間が省けるのですが……」

「えー、あいつをここに滞在させる気か?」

「ああなったイリーナを止めることなんて誰にもできません。一度思ったら何が何でも――って性格ですから。こっちが説得するよりイリーナが飽きるのを待つ方が早いし簡単なんです。もちろん説得は私もいたしますが」

「面倒くさいな」

 ルベルドは頭を掻くと、ロゼッタさんに指示を出した。

「おい、あの銀髪ラフレシアに部屋を用意しろ。リネン室でいいぞ。それからあいつに付けるメイドは気の長い奴にしないとな……そうだな、ミレナ婆さんを付けとけ。婆さんにはあいつのこと粗末に扱うよう言っとけ。いいな?」

「お言葉ですが、赤月館の使用人一同を代表してルベルド様に申し上げます。いくら主人命令とはいえお客様がお客様である以上、粗末にはしません。万事つつがなく進行させていただきます」

 と言い放ち、ロゼッタさんは毅然として歩き出した。

「ったく、ロゼッタも頑固なんだから」

 いや、頑固というより主人をいさめる使用人って感じだけどね……。

「あの、先生……」

 今まで黙って私たちの成り行きを見守っていたクライヴくんが口を開いた。

「銀髪ラフ――あのご令嬢って、本当にアデライザ先生の妹さんなんですか?」

「ええ、そうなの。ごめんねクライヴくん。大丈夫? 怪我とかしてない?」

「それが、まったく。先生の妹さんってもしかして相当魔術うまくないですか?」

「ええ。あれでも魔術の名門オレリー家の生まれですからね……」

 まあ、私も魔術の名門オレリー家の生まれだけどね! 魔力はないけど。

「ま、アデライザの妹ってことで今回のことは特別に許してやるけど。次はないと思えよ」

 と、ルベルド殿下がため息交じりに言った。

「え?」

「ここで炎の玉出して暴れたことだよ。なんにも被害出さないあたり、確信的な嫌がらせと見たね」

「すみません、すみません」

「はー。これからうるさくなりそうだぜ、赤月館せきげつかん……」

 ルベルド殿下がついたため息に、私はすぐに頭を下げた。

「妹がご迷惑をおかけします……」

「あんたが謝ることはないんだって、アデライザ。まあ、せいぜい楽しんでやるさ。何するか分からないアタマの面白さはあるからな、あいつ」

「すみません、殿下……」

「だからあんたが謝ることじゃないってば。あ、そうそう、これはあいつの『実の姉』であるアデライザに言っとくんだけど」

「はい」

「イリーナをこの館から追い出す権限はあんたじゃない、俺にある。俺が我慢しきれなくなったら追い出すからな。そのときはあんたがどんなに反対しても絶対に追い出す。それだけ覚えといてくれたら、まぁあいつの滞在は許可してやるよ」

 一瞬、すごく冷たい目をしたけれど……、すぐに笑顔で言った。……なんだかんだで寛大な人だ。
 イリーナのターゲットにされているのは誰が見ても明らかなくらい、殿下なのに。

「分かりました、殿下。ありがとうございます」

「じゃあアデライザ、さっきの続きを――」

「あ……、すみません殿下。イリーナに話があるのでお話はあとでお願いします!」

「え……ちょ、アデライザ!?」

 礼をし、私はすぐにイリーナを追って掛けだしたのだった。






しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。