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第2話 見習い修行
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それから私は、すぐに娼館へと連れて行かれました。
親戚に家を乗っ取られた私はどこにも行く場所がなく、娼館で暮らすことになったのです。
娼館の主人はとても優しい方で、娼館での生活は悪くなく、むしろとても良い待遇でした。
でも、私にはどうしても納得できないことがありました。それはリディア様に対する嫌がらせについてです。
私はそんなことしていないのに……。
それでも娼館での忙しい日々は、すぐにそんなことを忘れさせてくれたのでした。
といっても娼婦として客を取って働いていたわけではなく、見習いとして下働きや雑務をしたり、先輩娼婦の方々のお世話をしたりしていました。
ですがある日、娼館の主人が言ったのです。
「ミリフィアちゃん、今日は君の水揚げだよ」
「みずあげ……?」
「初めて客を取るって意味さ」
ついに来たか……と思いました。
「で、でも私はまだ見習いで……」
「もちろん知ってるよ。でも相手は凄いお金持ちでね……君のことご指名なんだ。大丈夫だよミリフィアちゃん。みんないつか客を取るようになるんだから、そんな緊張しなくても大丈夫だって」
「でっ、でも、私なんにもしらなくて……」
「それが商品になるってことさ。初心で処女な娼婦なんて人生で一度きりだからね」
「そういうものなのですね……」
「そうさ! 高く売りつけられるものは高く売りつけるべし、これ商売の鉄則なりってね。ま、大丈夫だよ。客を見る僕の目を信じて。あのお客さん、きっとすごく優しいよ」
と、いうことで。主人にここまで言われたら従業員としては逆らうわけにも行かず……。
私は本当になにも知らないまま、娼婦デビューしてしまったのです。
******
「ミリィ、指名が入ったのね。よかったじゃない」
「あ、サリアさん!」
控え室でドキドキしながら衣装に着替えていた私に、先輩娼婦のサリアさんが声を掛けてきてくれました。
「あら? ミリィったらなに着てるの?」
サリアさんが、私の姿を見て不思議そうな顔をします。
「えっと、メイド服……ですけど……」
答えると、サリアさんは目を丸くしました。
「ええ!? どうして!? 普通こういう時はドレスじゃないの!?」
「ええ!?」
そんなこと言われましても……! 下働きとしての仕事をこなしているとき、いつも着ていた服ですし……。
「私の娼館でのユニフォームといえばこれなんですけど……。おかしかったですか?」
「うーん……まあそういう趣味の人もいるけどさ。でもデビュー戦よ? デビュー戦はちゃんとドレスアップしたくない? これから人生一度っきりの大勝負をするのよ?」
「えっと、だからメイド服が私のユニフォームでドレスアップで勝負服なんです!」
「やっぱりこの子にデビューはまだ早いんじゃ……? まあ主人の判断だし従うしかないか……。ほらミリィ、これをあげるわ。メイド服じゃなくてこっちを着なさいな」
そう言ってサリアさんが渡してくれたのは、フリルのついた白いワンピースでした。
「うわぁ、可愛い!」
「でしょ? あんたがデビューしたときに着せてあげようって、館の娼婦みんなで用意してたのよ。あんたって元が上品にできてるでしょ、だからあたしらと違う服が似合うのよね。いつもと違う服選びってなんか新鮮で楽しかったわー」
「ありがとうございます!」
優しい先輩たちに恵まれて、ちょっと泣きそうになります。
早速着替えてみると、先輩方の選別眼はとても正しいことが分かりました。
このふわふわの白いワンピース、私にとてもよく似合っていたのです!
「ミリィ、すっごく可愛いわ。これなら大丈夫。人気出るわよー!」
なんてサリアさんが褒めてくれるものだから、もっともっと嬉しくなってしまいます。
「えへへ。ありがとうございます、サリアさん。じゃあ早速行ってきますね!」
「うん、頑張っておいで」
私はサリアさんに見送られて控え室を出たのでした。
親戚に家を乗っ取られた私はどこにも行く場所がなく、娼館で暮らすことになったのです。
娼館の主人はとても優しい方で、娼館での生活は悪くなく、むしろとても良い待遇でした。
でも、私にはどうしても納得できないことがありました。それはリディア様に対する嫌がらせについてです。
私はそんなことしていないのに……。
それでも娼館での忙しい日々は、すぐにそんなことを忘れさせてくれたのでした。
といっても娼婦として客を取って働いていたわけではなく、見習いとして下働きや雑務をしたり、先輩娼婦の方々のお世話をしたりしていました。
ですがある日、娼館の主人が言ったのです。
「ミリフィアちゃん、今日は君の水揚げだよ」
「みずあげ……?」
「初めて客を取るって意味さ」
ついに来たか……と思いました。
「で、でも私はまだ見習いで……」
「もちろん知ってるよ。でも相手は凄いお金持ちでね……君のことご指名なんだ。大丈夫だよミリフィアちゃん。みんないつか客を取るようになるんだから、そんな緊張しなくても大丈夫だって」
「でっ、でも、私なんにもしらなくて……」
「それが商品になるってことさ。初心で処女な娼婦なんて人生で一度きりだからね」
「そういうものなのですね……」
「そうさ! 高く売りつけられるものは高く売りつけるべし、これ商売の鉄則なりってね。ま、大丈夫だよ。客を見る僕の目を信じて。あのお客さん、きっとすごく優しいよ」
と、いうことで。主人にここまで言われたら従業員としては逆らうわけにも行かず……。
私は本当になにも知らないまま、娼婦デビューしてしまったのです。
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「ミリィ、指名が入ったのね。よかったじゃない」
「あ、サリアさん!」
控え室でドキドキしながら衣装に着替えていた私に、先輩娼婦のサリアさんが声を掛けてきてくれました。
「あら? ミリィったらなに着てるの?」
サリアさんが、私の姿を見て不思議そうな顔をします。
「えっと、メイド服……ですけど……」
答えると、サリアさんは目を丸くしました。
「ええ!? どうして!? 普通こういう時はドレスじゃないの!?」
「ええ!?」
そんなこと言われましても……! 下働きとしての仕事をこなしているとき、いつも着ていた服ですし……。
「私の娼館でのユニフォームといえばこれなんですけど……。おかしかったですか?」
「うーん……まあそういう趣味の人もいるけどさ。でもデビュー戦よ? デビュー戦はちゃんとドレスアップしたくない? これから人生一度っきりの大勝負をするのよ?」
「えっと、だからメイド服が私のユニフォームでドレスアップで勝負服なんです!」
「やっぱりこの子にデビューはまだ早いんじゃ……? まあ主人の判断だし従うしかないか……。ほらミリィ、これをあげるわ。メイド服じゃなくてこっちを着なさいな」
そう言ってサリアさんが渡してくれたのは、フリルのついた白いワンピースでした。
「うわぁ、可愛い!」
「でしょ? あんたがデビューしたときに着せてあげようって、館の娼婦みんなで用意してたのよ。あんたって元が上品にできてるでしょ、だからあたしらと違う服が似合うのよね。いつもと違う服選びってなんか新鮮で楽しかったわー」
「ありがとうございます!」
優しい先輩たちに恵まれて、ちょっと泣きそうになります。
早速着替えてみると、先輩方の選別眼はとても正しいことが分かりました。
このふわふわの白いワンピース、私にとてもよく似合っていたのです!
「ミリィ、すっごく可愛いわ。これなら大丈夫。人気出るわよー!」
なんてサリアさんが褒めてくれるものだから、もっともっと嬉しくなってしまいます。
「えへへ。ありがとうございます、サリアさん。じゃあ早速行ってきますね!」
「うん、頑張っておいで」
私はサリアさんに見送られて控え室を出たのでした。
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