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第1話 婚約破棄された公爵令嬢

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 私はミリフィア・シリオス。シリオス公爵家の長女です。
 私の運命は、その夜、唐突に変わりました。
 ある夜会でのことです。

「ミリフィア・シリオスよ! 貴様との婚約を破棄する!」

 王子殿下より直々にそう宣言されたのです。

「この俺、オーティグロッド・アーウィンディークの婚約者でありながら、そなたは男爵家の令嬢であるリディア嬢に対し酷い嫌がらせをしたそうだな!」

 私はただ唖然としておりました。
 嫌がらせ? なんのことでしょう?

 私は王子妃になるために、幼い頃から努力してまいりましたのに……。
 私の表情を見て、オーティグロッド殿下は続けます。

「さらにだ! お前はリディア嬢に対して嫌がらせを行い、ついには階段から突き落としたというではないか! これは許されざる行為だぞ! 本来なら極刑ものだが、情けをかけて命だけは助けてやる。だが今後一切、貴族社会に戻ることは許さん! 平民として生きるがいい!」

 私がリディア様に嫌がらせ? しかも階段から突き落とす!? そんなはずありませんわ!
 だって私、リディア様から露骨に避けられていたようなところはありましたけれど、でもそこまで険悪になるほどのことはありませんでしたもの。

 そう思っていましたら、周りにいた貴族達が騒ぎ始めました。

「聞きまして? シリオス公爵家のミリフィア様ったら、王子殿下の婚約者なのに男爵家の令嬢に嫌がらせをしていたそうですわよ!」

「最低ですね。そういえば僕に媚び売ってきたことがあったっけ。あれは気持ちが悪かったなぁ」

「ええ、ええ、わかりますわ~! わたくしもシリオス公爵家の方ってどうも苦手でしたもの~!」

 ひ、酷い。そんな根も葉もないことを……。

 信じられない思いのまま立ち尽くしていると、王子殿下はふんと鼻で笑いました。

「それにミリフィア、お前には莫大な借金あるそうではないか」

「そっ、それは親戚の方々が……」

 この春父が亡くなってからというもの、我がシリオス公爵家は親戚の方々が牛耳る有名無実の公爵家となっているのでした。

 親戚の方々は今もシリオス家から資産や財産を抜き取って、やりたい放題に毎夜毎夜屋敷で宴会をしています。
 潤沢な資金のあったはずのシリオス家ですが、さすがにそこまでの散財には耐えられません。

 お金のなくなった親戚の方々は、ついにはシリオス家の名を使い借金を始めてしまったのでした。

「はんっ、借金まみれの落ちぶれ公爵令嬢か。そんなやつが王家に嫁げるとでも思っていたのか?」

「そ、それは……」

 確かに、厄介な親戚に食いつぶされた公爵家の令嬢など王家に入れることはできないでしょう。ともすれば王家すら寄生される危険があるからです。

 けれどその時、王子殿下は言いました。

「そんなお前への、これは俺からの情けだ……、感謝するがいい。お前には高級娼館を紹介してやろう。もちろん紹介料は俺が貰うがな!」

 王子殿下の言葉。これこそが私の運命を変えた一言だったのです。

「しょうかん? それは一体どういう意味なのでしょう? 私は娼婦になるつもりはありませ──」

「さらばだミリフィア! せいぜい励めよ!」

「あっ! 待ってくださいまし!」

 私は必死に呼び止めようとしましたが、王子殿下は振り返ることなくその場を去ってしまいした。

 ともに去ろうとしていたリディア様が振り返ったかと思ったら、勝ち誇ったような顔で私を鼻で笑いました。

「お可愛らしいあなたならすぐに太客もついて大人気になるでしょうね、ミリフィア様!」

「え、ちょっ……リディア様、待って下さいまし! 私はあなたをいじめてなんか……」

「ごきげんよう、公爵令嬢ミリフィア様。娼婦は身体が資本とききますわ、ご商売のためにお身体をお大事になさいませね!」






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