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番外編
【番外編】騎士団の交流会8(ロジェ視点)
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それからロジェはサイン会場に戻ったのだが、サイン待ちの列はすでになくなっていた。
主役であるロジェが消えてしまったため、自然と解散になったらしい。
が、ユベルティナを突き飛ばした女性が、一人でぽつねんとロジェを待っていた。
「ロジェ様!! あの……。あの女性はどうでしたか?」
ユベルティナを突き飛ばして、ロジェがユベルティナを連れ去ってから、彼女は係の者に厳重な注意を受けて帰るよう促されたそうだ。だがユベルティナの容体が気になって残っていたということだった。
ユベルティナは無事だとロジェが伝えると、女性はホッとした顔をした。
「ああ、わたくしったらついカッとしてしまって……。申し訳ありませんでした。それで、あの女性はどこに?」
まさか副団長室で休憩中とはいえない。
「厳重注意をし、すでに帰らせた。君ももう帰るといい」
「そうですか……。一言謝りたかったのですが……。いくら相手が不正をしていたとはいえ、実力行使に出るのは淑女らしくありませんでしたわ。本当に、申し訳なく思っております」
と頭を下げる女性。
彼女がユベルティナにしたことは許される事ではないが、十分反省している人を、これ以上叱責する気にはならなかった。
――それに。
「不正、か……」
確かに不正である。いくらロジェの妻とはいえ、本来なら許されていない飲料水を持ち込み、しかも禁止されている差し入れを……夫にとはいえ、しようとしたのだから。
「……君については、こちらの不手際に巻き込んでしまったところもある。……そうだ」
ロジェはふと天幕を振り返る。まだロジェの天幕は撤収されていない。
「これからサイン会を再開しよう。それが、私のせめてもの罪滅ぼしだ」
「罪滅ぼし……でございますか?」
「ああ」
ロジェは頷いた。妻の不始末は夫である自分がしよう。ユベルティナに、女性ファンは大事にしろといわれたことでもあるし。……とはいえ、ここであの女性が自分の妻だと明かすのは、騒動がもっと大きくなってしまうので得策ではないだろう。
「私が中断したのだから、その罪滅ぼしに、これからきっちり希望者全員にサインを書く」
あやふやにしつつ言い切ると、女性は瞳を輝かせた。
「まあ、よろしいのですか!?」
「もちろんだ。だが、一人一サインだ。握手などはしない。すまないが、これは譲れない」
「かまいませんわ! ありがとうございます、ロジェ様!!」
というわけで、ロジェはまたサイン会を再開したのだった。
主役であるロジェが消えてしまったため、自然と解散になったらしい。
が、ユベルティナを突き飛ばした女性が、一人でぽつねんとロジェを待っていた。
「ロジェ様!! あの……。あの女性はどうでしたか?」
ユベルティナを突き飛ばして、ロジェがユベルティナを連れ去ってから、彼女は係の者に厳重な注意を受けて帰るよう促されたそうだ。だがユベルティナの容体が気になって残っていたということだった。
ユベルティナは無事だとロジェが伝えると、女性はホッとした顔をした。
「ああ、わたくしったらついカッとしてしまって……。申し訳ありませんでした。それで、あの女性はどこに?」
まさか副団長室で休憩中とはいえない。
「厳重注意をし、すでに帰らせた。君ももう帰るといい」
「そうですか……。一言謝りたかったのですが……。いくら相手が不正をしていたとはいえ、実力行使に出るのは淑女らしくありませんでしたわ。本当に、申し訳なく思っております」
と頭を下げる女性。
彼女がユベルティナにしたことは許される事ではないが、十分反省している人を、これ以上叱責する気にはならなかった。
――それに。
「不正、か……」
確かに不正である。いくらロジェの妻とはいえ、本来なら許されていない飲料水を持ち込み、しかも禁止されている差し入れを……夫にとはいえ、しようとしたのだから。
「……君については、こちらの不手際に巻き込んでしまったところもある。……そうだ」
ロジェはふと天幕を振り返る。まだロジェの天幕は撤収されていない。
「これからサイン会を再開しよう。それが、私のせめてもの罪滅ぼしだ」
「罪滅ぼし……でございますか?」
「ああ」
ロジェは頷いた。妻の不始末は夫である自分がしよう。ユベルティナに、女性ファンは大事にしろといわれたことでもあるし。……とはいえ、ここであの女性が自分の妻だと明かすのは、騒動がもっと大きくなってしまうので得策ではないだろう。
「私が中断したのだから、その罪滅ぼしに、これからきっちり希望者全員にサインを書く」
あやふやにしつつ言い切ると、女性は瞳を輝かせた。
「まあ、よろしいのですか!?」
「もちろんだ。だが、一人一サインだ。握手などはしない。すまないが、これは譲れない」
「かまいませんわ! ありがとうございます、ロジェ様!!」
というわけで、ロジェはまたサイン会を再開したのだった。
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