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4.黒猫執事の活躍

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「へ?」

 リアーナは間抜けな声を出した。

『誤魔化さずに酒を飲ませてもよかった』?

 それって、どういう……?

「ふふ、リアーナ嬢」

 レヴィンは続きの部屋のドアに手をかけて、リアーナを振り返る。

「その大きな胸で、俺たち・・・をたーっぷり、楽しませてくれよ」

 続きの部屋から出て来たもの。それは、複数人の男性だった。
 そのなかには、先ほどリアーナを婚約破棄したフランシス王子の姿もあった。

 フランシスは心配げにレヴィンを見る。

「レヴィン、本当にやるのか?」

「なんだよ、今さら怖じ気づいたか?」

 クスクス笑いながら、レヴィンは今度は豪華なタンスに近づいていった。

「こんな上玉、自分にはもったいない……って言い出したのはお前だろ?」

「僕はただ、あんたに味見してもらいたくて……」

「は、お子様め。こんなデカい胸なんだぜ、これは共有物にしないとな。みんなで分けるんだよ」

「……」

 フランシス王子は押し黙るが、その目はリアーナの大きな胸を凝視している。
 レヴィンはタンスの一番上の引き出しを開け、中に入っていたものを取り出した。それは、束ねた縄だった。

「さてと、じゃあ始めるか」

「れ、レヴィンれんか……」

 リアーナはソファーからよろよろと起き上がろうとするが、体がいうことをきいてくれなかった。
 身体が熱くて、熱くて、頭がぼやんぼやんして……。まるで夢の中にいるようで、何をしゃべっているのか自分でよく聞き取れない。

 ただ、分かることがあった。

 あのジュース、本当はジュースだなんて真っ赤な嘘で、アルコールが入っていたのだ。しかもとびきり強いやつが。それで自分は酔わされて、いま、彼らに襲われようとしている……。

 しかも、どうやらレヴィンとフランシスは仲間なようである。

 きゅうっ、と胸が締め付けられて、リアーナは涙ぐんでいた。

「レヴィンれんか、ろうして……」

 せっかくヒロインになれたと思ったのに。フランシス王子は落ちぶれ役の元婚約者で、レヴィンこそが真の恋人役だと思ったのに。
 どうして……。どうしてこんなことに!

 決まっている、自分が悪いのだ。よく知らない男を信じてしまった自分が。
 ああ、セリクのいうことをもっと真剣に聞いておけばよかった……!

「そうだな、お前の胸がデカいから、だな」

 サディスティックな興奮に酔っているのだろう、レヴィンは舌なめずりをした。

「俺はデカい胸が好きなんだ。特に、馬鹿みたいにデカいのがな。さぁ、いい感じに縛ってやるから期待してくれよ?」

 縄を解きながら近づいてくるレヴィン、そしてその背後の男たち。男たちは皆身なりがいいことを見ると、いいところの子息なのだろう。

「あ……あ……」

 リアーナは、ただ怯える。力が入らない。

「た、たすけて……たすけて……」

 それでもリアーナは動こうとした。ぐったりする腕を上げ、背もたれを掴んで起き上がる。体が重い。

「たすけ、て……」

 助けて。
 リアーナは脳裏に、獣人の黄金の瞳を思い浮かべていた。
 いうことを聞かなかったのに。なのに彼に助けを求めるのは失礼なんじゃないか……そんなふうにも思うけれど。

 ――セリク。黒猫獣人の執事、私の幼馴染み。
 セリク、助けてセリク。もうこんなことしないから。ちゃんとあなたのいうこと聞くから……!

「ぐはっ」

 男のうめき声がした。
 同時に、リアーナの背後に誰かが立つ気配がある。

「だから言ったんですよ」

 聞き覚えのある声が、リアーナの頭上から降ってくる。

「なんだか出来すぎだってさ!」

 リアーナが振り返ると、そこにはセリクがいた。
 いつもの執事服で、リアーナを守るようにして立っている。

 セリク……! 来てくれたんだ……!

「なんだ、お前は!」

 レヴィンに問われるが、セリクはレヴィンを睨み付けた。

「あんたらに名乗る名前はないよ。この強姦犯が!」

「強姦犯? 言葉を慎め、汚らわしい獣人が。俺はただ仲間の結束を高めたいだけだ」

「ズレてんだよ、あんたは!」

 セリクは腕を上げると、軽々とした身ごなしで男たちの群れに突っ込んでいく。

「うらぁあ!」

 セリクはまず、先頭にいたレヴィン王子の腹を有無を言わせず蹴り上げた。腕を上げていたのはフェイントだったのだろう。

「ぐ……っ」

 腕を上げていたから殴られると思って上半身をガードしていたレヴィンは、なすすべもなくその場にくずおれていった。

 そして、後ろ回し蹴りでさらに別の男の頭を蹴って倒した。見事に遠心力の乗った蹴りであった。

 フランシスがよろよろと後じさる。

「や、やめろ、僕はレヴィンに言われて仕方なく協力しただけだ……!」

「あんたが元凶なのになに言ってんだよ!」

 セリクはフランシス王子の鳩尾に拳を入れた。

「ぐぉ……」

 フランシス王子は白目を剥き、その場に膝からくずおれていく。

「猫野郎が、覚悟しろっ!」

 その隙をついて飛びかかってきた男の腕を、ひょいと掴むと。

「動きが甘いんだよ、人間様は!」

 そのまま背負い投げで床に叩きつけた。

 それからも男たちを軽い身のこなしで倒していき……。

 すべての男を片付けてしまった。
 強い。セリクって、こんなに強かったんだ。

「爪を使わなかったんだから、そこは感謝してほしいぜ。俺の爪には毒があるからな」

 倒れた男たちを見下ろしながらいうセリクが、なんだか大人っぽく見える。

 ――あ……、なんか、私、助かった……っぽい……?
 ほっとしたリアーナは、急に意識が遠のくのを感じた。

「お嬢様、終わりましたよ。お嬢様……お嬢様?」

 セリクの声を聞きながら、リアーナは意識を失った。



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