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3.甘いジュースを飲んで
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「やぁ、ようこそ」
王城にあるレヴィンの部屋に入ると、彼はリアーナを笑顔で出迎えた。
レヴィンは自分の帝国からヴァラン王国に遊びに来ているところで、王城内に部屋を借りているところである。
「お招きありがとうございます、レヴィン殿下」
リアーナはスカートの裾を持ち上げながら、軽く膝を折る。
「堅苦しいのはよしてくれ。……さ、座って」
「はい……」
レヴィンが指差したソファーに腰かけると、彼はリアーナの向かいに座った。
「改めて、フランシスとの件では大変だったね。フランシスの友人として、君にお詫び申し上げる」
きちんと頭を下げるレヴィンに、リアーナは慌てた。
「そ、そんな。頭を上げてください殿下、殿下は悪くないですから。むしろ私を助けてくれましたし……」
「あの男は昔からろくでもない奴でね、昔なじみの俺も困ってたんだ。だけどあいつは婚約破棄してくれた。……これで、君は俺のものだ」
レヴィンが爽やかな笑顔を浮かべる。茶色の髪に紺色の瞳のイケメンが浮かべるこういう笑顔は、とても絵になる。
リアーナといえば、レヴィンの台詞にただただ顔を赤らめて俯いていた。
『……これで、君は俺のものだ』
ですって! なんて情熱的な台詞なんだろう。もしかしたら、この皇子様はいわゆる『俺様系溺愛皇子』なのかもしれない。それは、偶然ながら、リアーナが大好きなヒーロー像であった。
「さ、これでも飲んでリラックスしてくれ」
と長細いグラスを差し出される。なかには、とろりとした白い色の、可愛らしい感じの液体が注がれていた。
甘ったるく、それでいてフルーティーな香りがリアーナの心を掴む。
「あの、これ……?」
「ああ、ただのジュースだよ。帝国の特産品、『ピーチグリン』っていう果実から作られた飲み物なんだ」
「へえ……」
「甘くて、一口飲むだけで疲れが吹き飛ぶってジュースでね。君はずいぶん辛い思いをしたから、これを飲んで気を取り直してほしいんだ」
「レヴィン殿下……」
なんて心優しい、粋な皇子様だろうか。
レヴィンはぱちんとウインクして、窓の外に目をやった。
「まだ昼だしね」
締められた窓ガラスの外には、青空が広がっている。
「本当なら酒でも飲んでじっくり語り合いたいところだが、まだ早い。だから、君にはこのピーチグリンジュースを飲んでほしいんだ」
「はい……」
リアーナはレヴィンの優しさに感動しっぱなしである。
そして、そのグラスを口元に持っていき……。
「……っ!」
一口飲んだ途端、リアーナの口の中に強い甘みが広がった。
ねっとりとした、舌にまとわりつくような甘みだ。
「あ……、甘いですね……」
「だろう? この甘さが何もかも覆い隠してくれるよ。嫌なことも、辛いことも、何もかもね……」
「レヴィン殿下……」
「さあ、飲み干してくれ。お代わりはいくらでもある」
「……」
リアーナは言われるままに二口目を飲んだ。二口目のピーチグリンジュースは、慣れもあるのだろうか、少しさらりとした感触になった気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
「……リアーナ嬢?」
「うぇ、なんれすか、レヴィンれんか……」
何杯目かのピーチグリンジュースを飲み干したあと、リアーナはソファーの背もたれにしなだれかかっていた。
「どうした? 呂律が回らないようだが」
いつの間にかリアーナの隣に来ていたレヴィンが、リアーナの顎をクイッと持ち上げる。
「あ……」
顎クイだ、と朦朧とする頭でリアーナは思った。なんてロマンティックなんだろう。
それにしても、これはおかしい。
身体が熱い。身体がぽっぽと火照って、とにかく暑くて、なんだかドレスを脱ぎたくなってくる。
強い酒を無理矢理飲んだような、そんな酩酊感だった。
おかしい、お酒は飲んでいないはずなのに……。
「……そろそろかな」
リアーナの顎をぱっと離すと、レヴィンは立ち上がった。
歩いて行きながら、彼は背中でクスクス笑う。
「まったく、疑いを知らない令嬢で助かったよ」
「れんか……?」
「これなら誤魔化さずに直接酒を飲ませてもよかったかな」
王城にあるレヴィンの部屋に入ると、彼はリアーナを笑顔で出迎えた。
レヴィンは自分の帝国からヴァラン王国に遊びに来ているところで、王城内に部屋を借りているところである。
「お招きありがとうございます、レヴィン殿下」
リアーナはスカートの裾を持ち上げながら、軽く膝を折る。
「堅苦しいのはよしてくれ。……さ、座って」
「はい……」
レヴィンが指差したソファーに腰かけると、彼はリアーナの向かいに座った。
「改めて、フランシスとの件では大変だったね。フランシスの友人として、君にお詫び申し上げる」
きちんと頭を下げるレヴィンに、リアーナは慌てた。
「そ、そんな。頭を上げてください殿下、殿下は悪くないですから。むしろ私を助けてくれましたし……」
「あの男は昔からろくでもない奴でね、昔なじみの俺も困ってたんだ。だけどあいつは婚約破棄してくれた。……これで、君は俺のものだ」
レヴィンが爽やかな笑顔を浮かべる。茶色の髪に紺色の瞳のイケメンが浮かべるこういう笑顔は、とても絵になる。
リアーナといえば、レヴィンの台詞にただただ顔を赤らめて俯いていた。
『……これで、君は俺のものだ』
ですって! なんて情熱的な台詞なんだろう。もしかしたら、この皇子様はいわゆる『俺様系溺愛皇子』なのかもしれない。それは、偶然ながら、リアーナが大好きなヒーロー像であった。
「さ、これでも飲んでリラックスしてくれ」
と長細いグラスを差し出される。なかには、とろりとした白い色の、可愛らしい感じの液体が注がれていた。
甘ったるく、それでいてフルーティーな香りがリアーナの心を掴む。
「あの、これ……?」
「ああ、ただのジュースだよ。帝国の特産品、『ピーチグリン』っていう果実から作られた飲み物なんだ」
「へえ……」
「甘くて、一口飲むだけで疲れが吹き飛ぶってジュースでね。君はずいぶん辛い思いをしたから、これを飲んで気を取り直してほしいんだ」
「レヴィン殿下……」
なんて心優しい、粋な皇子様だろうか。
レヴィンはぱちんとウインクして、窓の外に目をやった。
「まだ昼だしね」
締められた窓ガラスの外には、青空が広がっている。
「本当なら酒でも飲んでじっくり語り合いたいところだが、まだ早い。だから、君にはこのピーチグリンジュースを飲んでほしいんだ」
「はい……」
リアーナはレヴィンの優しさに感動しっぱなしである。
そして、そのグラスを口元に持っていき……。
「……っ!」
一口飲んだ途端、リアーナの口の中に強い甘みが広がった。
ねっとりとした、舌にまとわりつくような甘みだ。
「あ……、甘いですね……」
「だろう? この甘さが何もかも覆い隠してくれるよ。嫌なことも、辛いことも、何もかもね……」
「レヴィン殿下……」
「さあ、飲み干してくれ。お代わりはいくらでもある」
「……」
リアーナは言われるままに二口目を飲んだ。二口目のピーチグリンジュースは、慣れもあるのだろうか、少しさらりとした感触になった気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
「……リアーナ嬢?」
「うぇ、なんれすか、レヴィンれんか……」
何杯目かのピーチグリンジュースを飲み干したあと、リアーナはソファーの背もたれにしなだれかかっていた。
「どうした? 呂律が回らないようだが」
いつの間にかリアーナの隣に来ていたレヴィンが、リアーナの顎をクイッと持ち上げる。
「あ……」
顎クイだ、と朦朧とする頭でリアーナは思った。なんてロマンティックなんだろう。
それにしても、これはおかしい。
身体が熱い。身体がぽっぽと火照って、とにかく暑くて、なんだかドレスを脱ぎたくなってくる。
強い酒を無理矢理飲んだような、そんな酩酊感だった。
おかしい、お酒は飲んでいないはずなのに……。
「……そろそろかな」
リアーナの顎をぱっと離すと、レヴィンは立ち上がった。
歩いて行きながら、彼は背中でクスクス笑う。
「まったく、疑いを知らない令嬢で助かったよ」
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