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第5話 下着は愛

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 一見して分かる変態――ブラジャーとショーツを身につけたイケメン騎士グラーツ。

 彼に助けてもらった引き替えに、メリアは下着のデータ取りに協力することになってしまった。

 その下着フェチ変態の彼にときめくという予想外な自分に戸惑いながら、それでも強くなりたいメリアは、そっと騎士服のボタンに手を掛け――

 ――しかし、そこで手が止まる。

(これは強くなるためよ。そのためにこの変態に私の身体のことを知ってもらうのは必要なことなの)

 自分に言い聞かせるも、心臓はドキドキしっぱなし。

 というか、自分でいっておいてなんだが『身体のことを知ってもらう』という言葉のきわどさに気づいてしまったのだ。

(え、どこまでするっていうの、これ?)

 公爵令嬢にして騎士団長のメリア、当年とって26歳。けっこうなナイスバディを誇っているが、実は男性経験などない。そんな暇があれば剣技研鑽にあててきたからだ。

「団長、脱げましたか?」

 と背後からグラーツの声がする。
 グラーツには背を向けておいてもらっていた……脱ぐところを見られるのが恥ずかしいからだ。

「ねえ、これって本当に必要なことなのよね……?」

 メリアは振り返らずに訊ねてみた。

「ええ、もちろんですとも」

「サイズを口頭で伝えるだけじゃだめなの?」

「それでは結局今までと同じです。僕の下着作りに協力してもらうためには、まずは僕の手に団長のデータを集めなければなければなりませんからね」

 一応筋は通っている……のか?

「団長の柔らかさとか、体温とか、汗とか、匂いとか。そういうの全部がどんな状態で僕の愛に包まれているのか。それを確かめたいんです」

 それってもう完全に告白になってない!? と叫びそうになったが、我慢して……。

「……分かったわ」

 助けてもらった恩もある。
 メリアは覚悟を決めて騎士服のボタンをはずしていった。

「あ、上下ちゃんと見せて下さいね。僕が作るのはセットアップですから」

「う……、分かったわよ」

 メリアは羞恥に耐えて、騎士服を脱ぎ捨てていった。そして……。

(うぅ……)

 メリアは真っ赤になりながら、下着姿で振り向く。

「いいわよ、こっち向いても」

「ありがとうございます!」

 嬉々として振り向くグラーツ。

「おお……」

 そのグラーツの口から感嘆のため息が漏れた。

「美しい……」

「……え?」

「ああ、団長! なんて素晴らしいおっぱいなんでしょう……さすがは騎士団長。まさに至高の巨乳です!! その胸を包み込んでいるのが僕の愛――すなわち僕の作ったブラジャーというのがまたたまらない!!」

「ちょ、言い過ぎだってば」

「そんなことはありません。僕にとってあなた以上の女性は存在しないのです……!」

 どさくさに紛れてまた告白をされたような気がする……。

 それでもメリアの胸は高鳴ってしまうのだ。
 相手は自作のブラジャー・ショーツのセットアップを着用した変態イケメンなのに……。

「……ていうかさ、なんであんたそんな格好してんの? いくら女性用下着が好きだからって、普通は服くらい着ない?」

「ああ、これですか。これは男性用女性用下着の着心地チェックですよ」

「せめて服は着たら」

「服を着たデータはもう取りました。あとは服を着ていないときのデータが欲しかったんです。誰にも見つからない自信があったからこうして下着一丁で団長の部屋に忍んできたというわけですよ、これのほうがドキドキして神経が研ぎ澄まされますしね」

「変態め……。ところでどうやってこの施錠した部屋に入ってきてたわけ?」

「ピッキングですよ。僕は手先が器用なので」

「……やっぱりね」

 メリアは頷いた。思った通りである。そりゃあこれだけ素晴らしい下着を自分で縫ってしまうような人物が手先が不器用なわけがない。

 こいつのこと子飼いにして囲い込もう、とメリアはその瞬間に決意した。常識外れなほど手先が器用な部下というのは本当に使い勝手がいいものだから。

「……もう一つ聞いておきたいことがあるわ。なんでその変態みたいな格好で私の寝室に潜んでいたのよ。とっとと逃げれば良かったのにさ」

「罠が張ってあるのに気づいたからですよ。これは使える……と直感したんです。メリア団長に引っかからせて、助ける代わりに取り引きをして、それで僕の愛の下着を神のセットアップのいただきへ導こうと……」

「……下着への熱意凄いな」

「まさか本当に引っかかるとは思いませんでしたがね……」

「リリアーヌに詳細聞くの忘れててね……」

「リリアーヌといえばあの、トラップの天才の。ああ……彼女もけっこういいスタイルですよね。彼女にもあとで僕の下着を届けておこうかな……」

 こ、こいつ。下着は愛だの団長のデータを取りたいだの愛に包まれてだのとさんざん言っておきながら、まさかそれで作った下着をメリア以外の女にまで届ける気なのか?

「……ダメ。禁止します。あなたの下着は私だけでいいのよっ。ていうかあなたは私の専属下着職人になるんでしょうが!」

「おやおや、妬いて下さってるのですね」

「ち、違うってば! 下着で強くなるのは私だけでいいってこと!」

「ふふ、可愛い人だなぁ」

「~~ッ」

 からかわれて顔が熱くなる。メリアは悔しくてそっぽを向いた。





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