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第1章 恋愛

モブ視点

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 儂の名前は、エルヴィス・アトランス、アトランス国第10代国王である。

 儂の倅マリオス王太子があれほどの愚か者だとは思わなかった。結婚式の前日、フローレンスの愛を確かめるようなことを仕出かし、死に追いやった。隣国デュクオール国で救助されて、一命はとりとめたものの、エヴェラ公爵家もろとも、デュクオール国に取られたではないか。あのバカタレめが。我が国の貴重な人材をみすみすデュクオールに渡してしまったのだ。

 だいたいマリオスは人の心がわからない、うつけ者に育ったものだ。人の心はその時々の状況に応じて、コロコロ変わる。愛を確かめる行為は、下手をすれば愛想を尽かされる行為だとわかっていない。

 卒業式の日は、確かにフローレンスの心はマリオスに在ったかもしれない。しかし、その後、自害してからというものの人がかわってしまうぐらい記憶を失った。全く別人として生まれ変わったのであろう。悲しみも極限まで行くとそうなるのかもしれない。

 それをあのバカが探しに行って、連れ戻すなど、できるわけがないものを夢みたいなことを言いおって。とうの昔にフローレンスの心は離れておる。だから、生まれ変われたのだ。

 しかし、第1王子のジェームズがいてくれてよかった。あれの母は側妃だったが、実に美しい娘であった。スコットラン伯爵家令嬢で名前は確かロザリーヌであったなぁ。ジェームズを産んで産後の肥立ちが悪く、すぐ死んでしまったが、そのせいでジェームズには寂しい思いをさせてきたものだ。

 マリオスは正妃の息子だから、マリオスを王太子に据えたら、武者修行のためと称してジェームズがデュクオール国へ行ったとは、知らなかったがマリオスに遠慮してのことだったのだろう。気遣いのできる子に育ってくれた。

 フローレンス嬢が聖女として覚醒したとのうわさが風の便りできたのだが、その聖女様とジェームズがデュクオール国で知り合いになり、愛し合い結婚するとは夢にも思っていなかったこどだった。

 なんというラッキーだ。儂の後の王位をジェームズに譲り、孫まで継承させることが確実となった今、正妃はとやかく言うだろうが、ここは黙らせるほかない。場合によれば、離婚も視野に入れといたほうがいいだろう。正妃の代わりなんぞいくらでもいるが、孫の代わりはいない。

 マリオスは、卒業式の日に廃嫡にしているので、もう帰ってこさせる必要はなくなり、孫のカルヴィンだったか、会いたい。マリオスはいらないが、カルヴィンは欲しい。一目だけでも会いたいのである。いっそのこと、会いに行こうか?ジェームズに拒否されるかもしれないと思うと怖い。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 わたくしの名前は、シルベーヌ・デュクオール、アレクサンドルの妻で王妃である。

 フローレンスの頼みを聞いて、王都の公爵家へ赴いたとき、不思議なものでクローゼットの中を通り、一瞬でどこでもいけるようになったはいいんだけど、フローレンスがクローゼットを置いているところだけしか行けないのが、少々不満ではある。

 アレクサンドルの弟の奥さんのシャルロットが偶然、川に流されているフローレンスを発見して、家に連れ帰ってくれたおかげで、アレクサンドルもベルドランもアントンもみんな命拾いしたわ。ただ、ベルティーユだけは精神を病んでしまったけど、もうあの子はアントンの時、死ぬはずの王太子妃だったから、諦めている。

 欲を言えば、もう少し早くフローレンスがデュクオ-ルに来てくれたら、クリストフのお嫁さんにちょうどよかったのに、こればっかりは仕方ないわね。

 でもフローレンスが聖女として覚醒してくれたおかげで、この国は繁栄したわ。うちの近衛騎士と恋仲になって結婚してくれたんだけど、なんと、その近衛騎士がアトランス国の第1王子だったというから驚きよね。

 アトランスで出会うべき二人がデュクオールへ来て、出会ったというから、運命の出会いのようなものを感じるわ。素敵ね。

 フローレンスは前世記憶持ちのせいか、医者としての記憶を思い出したときに、前世の医療器械や医薬品を買うスキルを持っているみたいで、そのスキルのおかげでこの世界では手に入らないような高価な品物を時々くれる。

 フローレンスが生まれる前にいた世界では、お医者様が化粧品などの開発研究をしていたらしく、これは肌にいいとか、髪の栄養素はなどとお医者様としての意見を的確に言ってくれるので助かるわ。フローレンスの言うことを聞いて、その通りすればどんどん綺麗になれるような気がする。

 この前、お茶会をするのに、目新しいお菓子を探していたのね、どうしても代わり映えのないお菓子しかないから、フローレンスのところへクローゼットの中を通って行ったのよ。

 そしたら、フローレンスうんうん考えてくれて、銀座〇疋屋のミルフィーユというお菓子を買ってくれたの。なんでもお値段高めの前世の特別な日にしか食べないお菓子なんだって。それが小さいけど、とっても美味しかったのよ。

 お茶会に出したら飛ぶように売れて、鼻高々で自慢できたわよ。でも食べ過ぎると太ると言われてたから、どんなに食べても3つが限界だって言われてたから、わたくしは辛抱して食べなかったんだけど、いつもスレンダーでプロポーション自慢をしていた侯爵夫人に120個ぐらい食べさせてやったわ。今度会ったとき、どこまで太っているか楽しみだわ。1個100キロカロリーとか言ってたわよね。

 今、フローレンスは化粧品開発しているって言うから、楽しみだわ。
 あの子がこの国に来てから楽しいことばかりでうれしいわ。
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