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17.引導

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 甲斐康夫が行方不明になって、3か月、もう誰の口の端にも昇らなくなってしまう。

 浅見麻美さんは、元気にテレビに出ているから、もう心配いらないのかと思っていたら、やっぱり、空元気だったようで、時々、泣きはらした目で、我が家に訪ねてくる。

 そんなに解散のことが好きだったのかしら?甲斐さんは、麻美さんの悪口を言っていたけど。

 れから、ゲームの世界へ行き、何度か解散と顔を合わせているが、「住めば都で、もう帰る気はない。」と言っていた。

 そういえば、ユノも同じようなことを言っていたわ。

 そんなに異世界っていいところ?さくらには、喧騒と葉巻の匂い、お酒の記憶ぐらいで、あまりいい印象はない。

 男の心には、ロマンをそそるものがあるとか?そのあたりは、とんと見当がつかない。

 まあ、とにかく麻美さんのこと、もう一度きちんと聞いてみるか?連れて行けそうなら連れて行くことにする。でも、甲斐さんに拒否られたら……、知らんぷりを決め込むことにしたらいいだけだもの。

 甲斐さんは、煮え切らない様子で、聞いているこっちが困る。

 「ここ、そんなに悪くはない。最初は殺されると思ったけど、俺、医者だから、重宝されて、大事にされているんだよ。それにほとんどがQueen’s Englishだから聞き取りやすいし、喋れる。麻美を連れてこられても……、こっちの女の方がイイ女揃いだからな。」

 何よ、それ?結局、女次第ってこと?なんか、ムカつく。

 ひょっとしたら、ユノも同じような意見で、こっちに残ったのかもしれない。ここ、ゲームの世界よ!と言ってやりたい気持ちをグッと抑えて、

 「わかりました。麻美さんに何か言伝はありますか?」

 「別に。アイツとは、そんな深い関係でもなかったしな。」

 はぁ?恋人関係にあったことが、深い関係ではないと言えば、どういう関係が深い関係というのでしょうか?

 呆れてモノも言えない。

 アンタなんか、ゲームの筋書きを替えてでも、幸せにしてやんない。その気持ちが通じたのか、その後、船医として乗り込んだ船が沈没する。ご愁傷さまです。

 女を弄ぶから、こういうことになるのよ。思い知ったか!

 考えてみたら、幸せな人生だったかもしれない。医者になって、開業医になり、女性にモテモテになり、ゲームという異世界へ行ってもなお、愛する人がその帰りを待っていてくれて、異世界でも女性にモテモテで、連日、女をヤり捨て、幸せなまま死んでいったのだから。

 浅見さん、あなたが愛した男性は、もう遠い世界に行ってしまわれました。

 だから彼のことは、きれいさっぱり忘れてください。そして、夫以外の男性を愛してください。
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