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10.W不倫

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 その頃、さくらは大きなお腹を抱えて、研修に参加していた。

 さすがに、英国紳士は、かっこいい人が多い。合コン幹事は目を煌めかせながら、毎晩、新入社員狩りを愉しんでいるようだ。

 いいなぁ。ちょっと結婚が早まったかもしれない。

 こんな大きなお腹を抱えているさくらは、誰からも声をかけられない。でも、入社式のCEOは、本当にグレゴリーそっくりでビックリしたわ。名前もグレゴリーで、でも、夢の中のグレゴリーの方が優しい目をしていた。

 そして3か月間の研修が終われば、すぐ日本へ帰り、産休を取る予定だから、この研修で必要なすべてを身につけなければならない。

 だから今は、オフィスラヴどころではない。

 その夜、久しぶりにヴァイキングウォーズの夢を見た。夢の中のcherryは、妊婦さんではなく、結婚前のような可憐な乙女の姿をしていて、いつものように、つま先から頭のてっぺんまでくまなくグレゴリーの愛撫に酔いしれている。

 「Saint cherry.I love you. Promise me you won't go anywhere.(チェリー愛している。もうどこにも行かないでくれ。)」

 なんて、嬉しいことを言ってくれるの?夢の中でも、さくらの願望をかなえてくれるのは、いつもグレゴリーだけ。

 さくらは返事をする代わりに、グレゴリーの頭を胸に抱きしめる。

 大さんのような変態プレイを要求されるわけでなく、さくらを心底大事に扱ってくれる姿勢に、満足する。

 さくらの両親は、さくらがクリニックの跡取りさえ産めば、自由にしていいといつも言ってくれている。

 だからと言って1000年前に永住する気はない。やっぱり、今の時代の豊かで便利な暮らしがいい。

 ある時、研修が終わり、みんなで飲みに行く話が出たが、身重のさくらは、断って、部屋に戻ろうとしたとき、

 「Saint cherry.」

 反射的に、振り返るとそこには、グレゴリーが!いや、違うグレゴリーによく似たCEOだった。

 「After all you…….(やっぱり君が)」

 「?」

 「It's Saint cherry, isn't it?(チェリーだろ?)」

 「Yes. I am.」

 「Pleased to meet you.(会えて嬉しいよ。)」

 「Who are you ?」

  「It's Gregory.」

 「Really?(本当?)」

 「Yes.」

 二人は見つめあったまま、次第にお互いがお互いを引き寄せあうように抱擁する。佐倉は人妻でありながら、今は一人の女として、グレゴリーと向かい合っている。

 一見すると、道ならぬ恋に走っているようだが、再会を喜んでいるとも捉えられる。

 実際のところ、その時の感情まで考えていなかったというのが正直なところ。

 互いの欲望を満たすため、自然と唇が重なる。昨夜も夢の中では、グレゴリーと愛し合ったばかりで、何を今更という気持ちもある。

 でも、これは、夢ではなくまぎれもない現実。これからやろうとしていることは、不倫。それでもお互いの魂と魂が相手を欲しがり、理性で抑えることが難しい。さくらは大きなお腹のまま、リアル・グレゴリーと抱き合う。

 そして、気が付けば、1000年前が舞台となっているヴァイキングウォーズの中にいて、妊婦スタイルではない自分が、グレゴリーの腕の中でまどろんでいる。

 夢か幻か、現実がごちゃごちゃに入れ混じっているような感覚に戸惑いながらも、この瞬間が心地いいと感じる。

 翌朝、目覚めるとさくらは、見知らぬ?外国人の腕の中にいた。よく顔を覗き込んでみると、CEOのグレゴリーだった。

 知らない間に、グレゴリーにお持ち帰りされていたみたい。

 ウソ!?あれは、夢ではなかったの?

 「Let's get married. I want to be with you forever.」

 結婚して、いつまでも一緒にいたい。だなんて、それは無理でしょ?

 「We are destined to meet in this training.(俺たちは、ここで出会う運命だったのさ。)」

 できれば、さくらもグレゴリーと一緒の人生がいい。でも、お腹の子供のお父さんはまぎれもなく大さんなのだ。

 生まれてからなら、実家の母に預けることもできるが、まだ生まれる前からネグレクトはできない。

 どうしようかと悩む余地はなく、グレゴリーはどんどん話を進める。

 仕事が続けたいというのであれば、続けるのもよし、結婚してからしばらくは、こちらで過ごしてほしいが、日本へ帰りたいのであれば、一時帰国を認める。

 生まれてきた子供の認知はしよう。

 いやいや、それは父親が違うので、いらない。と言っても聞いてくれない。外国は養子制度が発達しているので、日本ほど血族主義は重視されていない。

 でも、この子は間違いなく川村大の子供だから、このことだけは譲れない。それに養子に出されてしまっては、佐倉クリニックを継ぐ者がいなくなる。

 これは早々に帰国して、両親と話し合わなければならないと思う。スカイプであらかたのことは話せても、夫婦の離婚問題はかなりこじれる場合があるから、そう簡単に大さんが離婚に応じてくれるとは思えない。

 なんといっても、まだ産前のことなので、これからどうなるかもわからない。一抹の不安を抱えながら、帰国の準備をしていると、グレゴリーがやってきて、

 チェリーは、聖女様だから、時空を超えて移動ができる。という話をし出した。

 それは夢の中の話で現実的ではないというと、

 「No problem.」

 いやはや困ったものだ。折り合いがつかないまま、話は平行線をたどる。

 とにかくどうやって、大さんを説得するかが、二人の運命を左右する。
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