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15.火山

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 ジャクリーヌの作ったマッサージチェアの魔道具は、連日大盛況で近隣宿の宿泊客まで列を成して、座りに来るようになった。

 初日のように、べったりとジャクリーヌが張り付いて、コントローラーの説明をするのではなく、あらかじめ説明書を壁に貼って、利用してもらっている。

 宿屋の主人は、捨てるつもりで置いてあった椅子が魔道具に変身し、これで客が呼べるようになったと大喜びしている。

 トロピカルランドに置いていた馬車も到着し、疲れを癒すため、数日、逗留してもらいオルブライトに向けて出国することが決まる。

 マッサージチェアは、お世話になったからと、宿に置いていくことにした。あくまでも試作品だから、買い取りたいと申し出た宿屋の主人の申し出に固辞し、そのまま置いていくことにする。

 ジャクリーヌ一行は、惜しまれながらたくさんの人に見送られながら、ホットスプリング国を後にする。

 オルブライト国に帰るには、途中どうしても山越えをしなければならない。山には、山賊もよくいる。旅人の身ぐるみを剝いで、生業として生活をしているので、ジャクリーヌのような貴族は山越えをしないで、迂回ルートを通るのだが、いつまでも、オルブライトを留守にするわけにもいかず、近道を決行することにしたのだ。

 いざとなれば、護衛もいるし、ジャクリーヌの並外れた魔力もある。だから、そう心配することはないとタカをくくっていたわけで……。

 ところが、やっぱりというべきか出たのだ。

 それもなんだか様子がおかしい。山賊どもが血相を変えて、走ってくるのが見える。まるで何かに追われているような様子に違和感を覚える。

 それに山賊たちは、口々に何かを叫びながら走っている。

 「急げー!」

 「逃げるべ。」

 御者が山賊の一人に呼び掛けるも、慌てふためいていて、何を言っているのか理解ができない。

 仕方なく、通り過ぎてから様子を見ることにしようと、思っていたら山賊の頭らしき人物から、ようやく事情を聴くことができた。

 なんでもこの先の先にある火山が爆発し、マグマが迫ってきているという。

 放っておけば、ホットスプリング国も打撃を受けるだろう。温泉は活火山の地熱、活断層による影響が大きいと前世、何かで読んだ記憶がある。

 おそらくホットスプリング国も活断層の上に建っている国なのだろうと思う。

 ジャクリーンたちも山賊と共に下山した方がよいか、話し合いがもたれる。結界を張ってあるとはいえ、高温のマグマに耐えられるかどうかも不明で、大事をとり、下山を促される。

 馬車の向きを変え、戻ろうとしたところ、また、ドーンという大きな爆発音が響く。ヤバイかも?

 引き返した後方に何本も大きな氷の柱を立てていく。焼け石に水かな?と思いつつ、何もしないよりは、はるかにマシのはず。

 御者は懸命に馬を走らせるが、曲がりくねった下り坂は、馬の制御が難しい。さっきの山賊たちを途中で拾い、道案内させる。

 ジャクリーヌは馬車列の最後尾に移動し、そこから後方に向かって懸命に氷魔法を撃ち続ける。

 これでは、埒が明かないと思っていると、大きなハゲタカが旋回しながらジャクリーヌに何か言いたげにしている。

 「何かご用事?」

 思い切って、ハゲタカに問うてみる。

 「火口に氷をぶっこまないと、マグマは収まらないぜ?」

 「でもね。どこにあるかもわからないし、道中の手立てがないのよ。」

 「オイラが連れてってやるぜ?」

 「本当?いいの?」

 「そのかわり頼みを聞いてくれたら……。」

 「いいわよ。どんな頼み?」

 「向こうの山のふもとにカカアとガキが住んでいるんだが、安全なところに避難させてやりたいのだ。その手助けをしてくれたら、火口までひとっ飛びしてやってもいいぜ。」

 「お安い御用よ。」

 ハゲタカの背中に乗り、火口を目指す。途中、ハゲタカの奥さんとお子さんを確保して、安全な場所に下ろしてから、再び上昇する。

 今度は火口まで一直線にハゲタカは飛んでいる。

 火口はすごい煙と炎で近づくことさえままならぬ状態、とりあえず風魔法で煙を反対方向に吹き飛ばすことに成功した。まだもう1回ぐらい爆発しそうな勢いだが、大きめの氷を放り込んでみたら、あっという間に氷が溶ける。

 地下から湧き上がってくるものだから、どうしようもない。

 ジャクリーヌは最後の力を振り絞り、ありったけのマナを投入して、光魔法と氷魔法を同時にぶっ放すことにした。

 氷に光を含ませて、願いを込めて、ぶっ放し、そのまま意識を手放したのだ。

 それから何時間が経過したのだろうか?気が付けば、自室のベッドの上にいた。

 エドワード様によると、ハゲタカがジャクリーヌを乗せたまま、元の馬車のところまで戻ってきて、それから心配そうに旋回したのち、どこかへ飛んで行ってしまったらしい。

 きっと奥さんとお子さんのところへ帰っていったのだろう。

 ジャクリーヌがぶっ放した氷魔法のおかげで、火山は落ち着きを取り戻し、平常通り戻ったのであるが、噴出したマグマは川になり、あたり一面正常な空気が漂い始めた。不思議なことが起こったとしか言いようがない景色だったらしい。

 あの時、とっさに光魔法をぶっ飛ばしたから、そのせいかもしれない。とぼんやりと考えるジャクリーヌ。

 気が付けば、余命2か月が目前に迫っていることに気づく。あれから寝すぎてしまったようだ。

 きゃぁっ!大変!もう、やり残したことはない?
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