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12.海の家
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あれから隣国では、度々がけ崩れに盗賊と出会うことがあったが、すべてジャクリーヌの結界の前では無力に等しかったのだ。
大きな岩が街道を塞ごうが、ジャクリーヌの粉砕魔法で岩を粉々に砕いて、先に進むことができた。その際、小石が飛んできても、ジャクリーヌが張った結界のおかげで無傷で通ることができる。
なんだかんだトラブルに遭いながらも、無事隣国の国境線を超え、南国トロピカルランドの国境に入ると、一気に夏めいてくるところが素敵。
気分は、リゾートとばかりにはしゃぐジャクリーヌにエドワード様はポカンとしている。耳の奥では、前世、大好きだったサザンの曲が流れている。
ノースリーブにサンドレスを持ってきたから、着替えたいけど、目の前にエドワード様がいるから着替えられない。この国で、麦わら帽子を買おう。あとサンダルも欲しいところ。可愛いサンダルがあればいいな。
早くビーチに行きたい。宿泊先のホテルに荷物を置くや否や、荷ほどきもせずに、ビーチに駆け出していく。
え?
思い描いていたリゾートビーチと様子が違う。
青い空、白いビーチはそのままなのに、カラフルなビーチパラソルは、1本も立っていないし、広がっていない。まるで寂れた漁村の雰囲気。
海の色もコバルトブルーではなく、どんよりとした灰色をしている。まるで嵐の前のような感じ?
何、これ?
明日、台風でも来るのかな?
ジャクリーヌを追いかけ、護衛や侍女、エドワード様が来られる。皆、海の色に失望を隠せない。
そこに海の家を経営している店主が近づいてきて、
「お客さん方、観光客の方ですか?」
「何かあったのですか?明日、台風が来るとか?」
「いや。台風ではなく、今年は魔物が出て、誰も一歩も海には近づけんのです。もう商売あがったりで……。」
ナニー!
ジャクリーヌは怒りで打ち震えている。
せっかく海で泳ごうと思って、可愛い水着まで持ってきたのにぃ!許せない!
ジャクリーヌは海の家の店主や、護衛の騎士が止めるのも聞かず、ふ頭の桟橋を走る。拡声魔法を使って、さらにまだ声を張り上げて
「魔物!出てきなさいよー!いったいどういうつもりなの!せっかく海に来たのに、アナタが海を独占しちゃダメでしょうが!海はみんなの者よ。出るなら、もっと沖合で出なさい!」
魔物からすれば、そんなアホなとも思える内容。
「うるさいおなごよのぉ。儂は昼寝をしとったのじゃ、ここは内陸型で昼寝に適しておる。」
「アナタのせいで、みんな怖くて泳げないのよ。お願いだから、あっちでお昼寝してちょうだい。」
「ほぅ。儂を追い払うとは大した度胸があるおなごじゃのぉ。どれどうやって、儂の昼寝の邪魔をするというのだ?」
そこでジャクリーヌは、思案する。
拡声魔法で昼寝がうるさくてできないとなると、もっと大音響を海の中で響かせたらいいのではないかと。海中にスピーカーのようなものを沈め、そうすれば、うるさくて、振動もあるし寝ていられないのではと思い至る。
その場で、大型スピーカーの魔道具を作り始める。
ワイヤレスだ。問題は流す音楽、何にしようかな?浪花節のようなものが面白いかもしれない。意味が分からなくても、唸っているようなものは耳障りなのでは?間違えても、子守歌はダメだ。後は何があるかな?ハードロックのようなものか?お祭りの笛や太鼓は気分が高揚するから、寝ていられなくなるかもしれない。
音楽部分は、護衛やエドワード様にお願いすることにする。
すると、騎士の一人が恥ずかしそうに手を挙げ、ジャクリーヌのもとに進み出てくる。何事かと思うと、
「自分は生まれてこの方、音痴でうまく歌が歌えませんが、もし歌わせていただけるのであれば、その歌声はきっと魔物の睡眠を邪魔する程度にはなると思います。」
これはいいアイデアかもしれない。アナタの歌声で、リゾート地を救えるのなら、こしたことはないわよ。
早速、その案を取り入れ、歌ってもらうことにしたのだが、ジャクリーヌはじめ、海の家の店主、エドワード様、侍女には耳栓を配ることにしたのだ。
まず、風魔法と浮遊魔法を使い、スピーカーの魔道具を魔物が昼寝をしているという海底近くに沈める。
30キロの重りと共に沈めたので、そうそう浮かび上がってこれまい。
そして歌ってもらい、1分も経たないうちに魔物が根を上げた。
「わかったよ。わかった。だから、もう勘弁してくれや。儂はもう少し、沖、いや、その下手くそな声が聞こえないところで、ゆっくり昼寝させてもらうことにするよ。ここへはもう来ない。約束するよ。」
魔物は、ねぐらを替えて移動していくと、みるみるとコバルトブルーの海の色が戻ってくる。
海の家の店主も、ジャクリーヌからも、エドワード様からも、護衛からも、侍女からも「わぁーっ!」という歓声が上がる。
「お客さん方、今日は出血大サービスですけん。店の中のものは、全部無料にしますけん。好きなものをどんどん飲み食いしてくだされ。それがせめてもの御礼ですけん。」
お金はきちんと支払ったことは、もちろんのことだけど、その海の家を貸し切りにして、どんちゃん騒ぎすることになったのだ。
大きな岩が街道を塞ごうが、ジャクリーヌの粉砕魔法で岩を粉々に砕いて、先に進むことができた。その際、小石が飛んできても、ジャクリーヌが張った結界のおかげで無傷で通ることができる。
なんだかんだトラブルに遭いながらも、無事隣国の国境線を超え、南国トロピカルランドの国境に入ると、一気に夏めいてくるところが素敵。
気分は、リゾートとばかりにはしゃぐジャクリーヌにエドワード様はポカンとしている。耳の奥では、前世、大好きだったサザンの曲が流れている。
ノースリーブにサンドレスを持ってきたから、着替えたいけど、目の前にエドワード様がいるから着替えられない。この国で、麦わら帽子を買おう。あとサンダルも欲しいところ。可愛いサンダルがあればいいな。
早くビーチに行きたい。宿泊先のホテルに荷物を置くや否や、荷ほどきもせずに、ビーチに駆け出していく。
え?
思い描いていたリゾートビーチと様子が違う。
青い空、白いビーチはそのままなのに、カラフルなビーチパラソルは、1本も立っていないし、広がっていない。まるで寂れた漁村の雰囲気。
海の色もコバルトブルーではなく、どんよりとした灰色をしている。まるで嵐の前のような感じ?
何、これ?
明日、台風でも来るのかな?
ジャクリーヌを追いかけ、護衛や侍女、エドワード様が来られる。皆、海の色に失望を隠せない。
そこに海の家を経営している店主が近づいてきて、
「お客さん方、観光客の方ですか?」
「何かあったのですか?明日、台風が来るとか?」
「いや。台風ではなく、今年は魔物が出て、誰も一歩も海には近づけんのです。もう商売あがったりで……。」
ナニー!
ジャクリーヌは怒りで打ち震えている。
せっかく海で泳ごうと思って、可愛い水着まで持ってきたのにぃ!許せない!
ジャクリーヌは海の家の店主や、護衛の騎士が止めるのも聞かず、ふ頭の桟橋を走る。拡声魔法を使って、さらにまだ声を張り上げて
「魔物!出てきなさいよー!いったいどういうつもりなの!せっかく海に来たのに、アナタが海を独占しちゃダメでしょうが!海はみんなの者よ。出るなら、もっと沖合で出なさい!」
魔物からすれば、そんなアホなとも思える内容。
「うるさいおなごよのぉ。儂は昼寝をしとったのじゃ、ここは内陸型で昼寝に適しておる。」
「アナタのせいで、みんな怖くて泳げないのよ。お願いだから、あっちでお昼寝してちょうだい。」
「ほぅ。儂を追い払うとは大した度胸があるおなごじゃのぉ。どれどうやって、儂の昼寝の邪魔をするというのだ?」
そこでジャクリーヌは、思案する。
拡声魔法で昼寝がうるさくてできないとなると、もっと大音響を海の中で響かせたらいいのではないかと。海中にスピーカーのようなものを沈め、そうすれば、うるさくて、振動もあるし寝ていられないのではと思い至る。
その場で、大型スピーカーの魔道具を作り始める。
ワイヤレスだ。問題は流す音楽、何にしようかな?浪花節のようなものが面白いかもしれない。意味が分からなくても、唸っているようなものは耳障りなのでは?間違えても、子守歌はダメだ。後は何があるかな?ハードロックのようなものか?お祭りの笛や太鼓は気分が高揚するから、寝ていられなくなるかもしれない。
音楽部分は、護衛やエドワード様にお願いすることにする。
すると、騎士の一人が恥ずかしそうに手を挙げ、ジャクリーヌのもとに進み出てくる。何事かと思うと、
「自分は生まれてこの方、音痴でうまく歌が歌えませんが、もし歌わせていただけるのであれば、その歌声はきっと魔物の睡眠を邪魔する程度にはなると思います。」
これはいいアイデアかもしれない。アナタの歌声で、リゾート地を救えるのなら、こしたことはないわよ。
早速、その案を取り入れ、歌ってもらうことにしたのだが、ジャクリーヌはじめ、海の家の店主、エドワード様、侍女には耳栓を配ることにしたのだ。
まず、風魔法と浮遊魔法を使い、スピーカーの魔道具を魔物が昼寝をしているという海底近くに沈める。
30キロの重りと共に沈めたので、そうそう浮かび上がってこれまい。
そして歌ってもらい、1分も経たないうちに魔物が根を上げた。
「わかったよ。わかった。だから、もう勘弁してくれや。儂はもう少し、沖、いや、その下手くそな声が聞こえないところで、ゆっくり昼寝させてもらうことにするよ。ここへはもう来ない。約束するよ。」
魔物は、ねぐらを替えて移動していくと、みるみるとコバルトブルーの海の色が戻ってくる。
海の家の店主も、ジャクリーヌからも、エドワード様からも、護衛からも、侍女からも「わぁーっ!」という歓声が上がる。
「お客さん方、今日は出血大サービスですけん。店の中のものは、全部無料にしますけん。好きなものをどんどん飲み食いしてくだされ。それがせめてもの御礼ですけん。」
お金はきちんと支払ったことは、もちろんのことだけど、その海の家を貸し切りにして、どんちゃん騒ぎすることになったのだ。
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