死者からのロミオメール

青の雀

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 イソフラボン領のことを調べれば調べるほど、謀反の疑いが濃くなってくる。筆頭公爵だったことをいいことにして、やりたい放題、好き放題をしているのだ。

 イソフラボン家はイソフラボン領だけでなく、例えば、ルクセンブルグ家のような廃位となった貴族の領地までも、我が物にして、王国内に点々と領地を拡大していたことがわかる。

 さすがにルクセンブルグ家の領地にまでは、まだ手を出せていないものの。それぞれの第2、第3、第4の領地にいる騎士を合わせた総数は3万もの大軍にのぼるということが分かったのだ。

 3万もの大軍で一気に王都を目指されたら、ものの数日で陥落することは目に見えている。

 イソフラボンの狙いはわかっている。国王であるアウグストの首を狙い、筆頭公爵の復権というより、王国の乗っ取りを企てていることは明白である。

 クリスティーヌが婚約破棄されたうえ、修道院送りになったことがよほど堪え、さらに修道院へ行く途中、盗賊に襲われ、護衛騎士は皆殺しにされ、クリスティーヌは辱めを受け、国外へ攫われたことに怒りを感じていることは明白なことだったのに、そのことについて、王家は表立って、外交問題に上げず、見て見ぬふりをしていたことに対する憤懣がこのクーデターの要因になっていると思われる。

 クリスティーヌが口だけであったとしても、ロアンヌを亡き者にしようとしたこと、第1王子の生母は国母そのものであり、それに加え、学園での様々ないじめに加担していたことも明白で、婚約破棄後、どこかに嫁に行けばいいものを敢えて良しとせず。修道院送りを甘んじて受け入れたことはイソフラボン自身の意思であったにかかわらず、逆恨みもいいところである。

 近日中にイソフラボンを王城に呼ぶことにして、王都にあるイソフラボン邸の周りに見張り所を設けることにする。一番いいのは、クロイセン家に騎士団を派遣することとだが、1万名もの騎士団を配備することなど、可能かどうか計り知れない。

「うーん。そうですわね。我が家に1万名でございますか?庭までテントでも張ってくださるというのなら、たぶん大丈夫かと思います」

 ロアンヌは、のんきそうに言うが、ここはやはりクロイセン家の執事か家令あたりに直接聞いた方が無難なことは間違いないだろう。

 時と場合によれば、ルクセンブルグ邸を拝借してもいいだろう。それこそお化けが出るかもしれないが、背に腹は代えられない。

 ここの所、体調が悪かったロアンヌは、懐妊していたことが分かったのだ。それも悪阻が終わりかけの安定期に入るまで、気が付かなかったというから恐れ入る。

 この前のフランダース夫人から、「少しお顔がふっくらされましたわね」と言われるまで、なんだかいろいろなことがあり過ぎて、すっかり月のものが来ていないことに気づいていなかった。

 リチャード殿下からも、国王陛下からも、何より王妃陛下から、怒られた。

「ロアンヌ、あなたはもう一人のカラダではございませんことよ。ウイリアムの母であることを忘れてはなりません。あなたに何かあれば、お腹の子供も一緒に亡くなるということをわからなければなりませんわ」

「はい」

 なんといっても、王太子の役目は子供をできるだけ多く産むことにあるから、仕方がないとはいえ、まるで鶏卵のように産みまくるというのも納得がいかないような……?

 そこに愛はあるんか?

 某CMのようなことを思ってしまうけど、リチャード殿下は間違いなく、ロアンヌのことを愛してくれているということはわかっているつもり。

 体調が悪かったのも、ロバートが夢枕に立ったからではなく、妊娠初期の体調の悪さだと納得する。

 今日から、また頑張らなくっちゃ。元気な赤ちゃんを産むために、たまには散歩や日光浴も大事。政務のことは、リチャードに任せて、ロアンヌは出産の時を待ち望むことにする。

  イソフラボン公爵圖齊は、王城に呼ばれたことに最初は、筆頭公爵の復帰か叙勲だと勘違いしていたらしく、嬉々として参上したのだが、それが騎士の数が多すぎると指摘されてから声を荒げて王国の在り方を抗議してくるようになった。

「だいたい、あんまりではないか?クリスティーヌをこともあろうに婚約破棄するばかりか、罪人にしてしまうなど……、確かにあの娘は、気はキツイし、我がままで自分勝手なところはあるが、クリスティーヌは心底リチャード殿下に惚れていたというのに」

「しかし、王太子妃に刺客を送ると発言して、学園時代には、数多のいじめがあり、他の女子生徒や王太子妃を叩くこともあったのだ。罪人でなければ、それでは修道院送りではなくむち打ち刑の方が良かったと申すのか?」

「そんな……、それこそあまりにもむごいではありませんか!クリスティーヌは心底、リチャード殿下を愛していたというのに」

「俺には、そう見えなかった。毎日、顔を合わせるたびにイヤミばかりを言われていた記憶しかない」

「子供が好きな子を苛めるということは、よくあることでございます。それと同じです。クリスティーヌは、まだ身も心も無垢だったのです」
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