上 下
3 / 6

3 アナベル視点

しおりを挟む
 私の名前はアナベル。元は花売り娘をやっていたんだけどさ。亭主と知り合ってからは、飲み屋で働くようになったってわけさ。まぁ、娘と言われるような年齢でもなかったから、ちょうど良かったんだけどね。

 亭主は冒険者くずれで、何日も場合によれば、何か月も帰ってこない。お金もロクに家に入れてくれなくて、それで飲み屋で働くことになったんだ。

 飲み屋の客にちょいとカラダを触らせれば、なんでも情報が入る。

 でもこの前はそれで大損したのだ。

 それは塩を買い占めること。塩不足になるから、今、買い占めると値上がりしたら、高値で買い取ってもらえるって話を聞きこんだのさ。

 そしたら、塩の専売特許は王家にしかないのに、バカみたいに借金してまで買い込んだ挙句、誰も買い取ってくれない。塩は民間人では売れないのである。塩を売る権利を持っているのは、王家だけだとさ。

 それで借金返済のために、今度掴んだ情報は、ハートフルス公爵様が、遠方のブルーフォード国に長期赴任されることになったと聞いた。何でも公爵様に奥様はいらっしゃらなく、15歳になるお嬢様一人が公爵家を守られている。つい先ごろ、そのお嬢様に婚約者ができたらしいが、お相手は第2王子様、王位継承権をめぐって3人の王子様が公爵令嬢と次々婚約された。という話を聞きこんできたのである。

 そのお嬢様の名前が、ジュリアスティ様だという。

 これは、なんだ。うまくいけばその家を乗っ取ることができるかもしれないね。15歳の世間知らずの娘が一人で暮らしている家なんて、美味しい話だろうか。

 ウチの娘は二人とも、もう男を知っているというのに。

 身元をとやかく詮索されたら、男爵家の未亡人ということにでもしておこう。

 公爵が出かけたら、半年は戻らないから、その間に、公爵家の財産を根こそぎいただいてやろうと思ったのさ。

 世の中騙される方が悪いのさ。幸せの中にドップリ浸かって、後で吠え面かけってんだ。

 それに知らなかったとはいえ、多少王家に対して恨みもあるからさ。だってそうだろう。塩を勝手に売りさばいたらダメだ、なんていつ決めたのさ。

 だって借金があるんだよ。借金返さないと、娘たち二人とも売り飛ばすって、言われてさ。

 娘売り飛ばされたら、いくらろくでなしの亭主でも怒るだろうし。仕方ないんだ。

 公爵が出かけた後、頃合いを見計らって、ハートフルス家に乗り込んでやったのさ。

 執事?家令?と言われる初老の男性が出てきて、追い返されそうになったものだから、嘘八百、はったりをかましてやったら、あっさり信じてやんの。

 あとは強引に押し切ったわよ。ここまで来たら、もう後戻りはできないからさ。

 お嬢様のジュリアスティちゃんの姿と言ったら、天女様かと見まがえるほど清らかな娘だったわよ。

 まずは、この娘を汚してやろうと思ったぐらいね。でも、ウチのバカ娘と来たら、自分と同い年の王子様にばかり気を取られて、お嬢様の相手の王子様には目もくれない。

 媚薬?ああ、客からもらったのよ。どんな男でも媚薬さえ使えば、イチコロよ。それを娘たちが勝手に王子様に使うものだから、私の分がなくなってしまうじゃない!

 仕方なく?王子様の親父さんを私が狙ったってわけよ。聞けば、王妃様不在だとか?それじゃあ、ハートフルス公爵が帰ってくる前に王妃様になってやろうじゃないかと欲を出してしまったのよ。

 別に最初から、王家を狙ったわけではないのよ。たまたまよ。あくまでもたまたま、そうなっただけ。塩の恨みはあったけどさ。

 ハートフルスの名前を使えば、王城には出入り自由だから、ついでにハートフルスの名前で借金してやろうと思ったけど、財布のひもは家令がしっかり握っていて、ビタ一文よこさない。

 本当にっ、あの家令はケチだったわ。

 「何にいくら使ったかをメモして、旦那様が帰ってこられて承認されたら、その分はさかのぼってお支払いします。」

 そんなめんどくさいこと言わずに出してくれたらいいものを、仕方なく亡き先代の奥様の宝石やドレス、それにジュリアスティちゃんが持っていたドレスや宝石を娘が取り上げたような形にして、みんな売り払ってお金に換えたわ。

 だって、お金くれないんだもん。

 そしたら、ジュリアスティちゃんが第2王子様と婚約破棄されて、ざまぁみろとも言ってられなくなったのよ。娘たちがちょっかいを出した王子様の婚約者から厳重抗議が来て、話が大きくなってしまったわ。

 それでお城で評議会なるものが開かれて、一見よさそうな話だけど、これってほとんどつるし上げ状態の会議で弁明と釈明をしている間にどんどんボロが出て、わたくしたち3人とも牢屋へ直行よ。

 あとから聞いた話では、私たちが評議会に呼ばれている間にジュリアスティちゃんも使用人一同もあの屋敷ごと、出奔したらしい。それで私たちが追い出したみたいに疑われて、さらに重い罪が科せられそうになったってこと。ついてないわ。

 こんなことなら、変な夢見るんじゃなかったわよ。

 他人を騙そうとして、墓穴に落ちたってこと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

婚約破棄ですか?それでは、帳簿を置いていきますね?ああ、借金です!

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

失礼な人のことはさすがに許せません

四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」 それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。 ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

いじめっ子が私の婚約者に嘘をついたせいで婚約破棄に?!

ほったげな
恋愛
ラウラは一つ年上のロルフと婚約した。だが、いじめっ子が「ラウラにいじめられた」と嘘をついたらしく…?!

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

処理中です...