上 下
34 / 49
番外編

2.既視感

しおりを挟む
 それから数度となく、学園内の逢瀬を愉しんだ後、マクシミリアンは、思い切って、ミッシェルを自宅に連れ帰ることにした。

 「ウチにある蔵書は、こんなものではないよ。もっと、たくさんあるんだ。良かったら、今度、ウチへ来ない?」

 「わぁ、いいの?ありがとう。」

 「いいよ。友達だろ?」

 ミッシェルをシャルパンティア家の馬車に乗せ、自宅へ帰ると珍しく使用人全員が、玄関付近くに並んでいるのが見える。

 「ん?……父が、帰ってきたところと重なったみたいだ。」

 「お父様は何をしていらっしゃる方なのですか?」

 「宰相だよ。」

 「あら、偶然ですわね。わたくしの父も宰相をしていますの。」

 玄関に到着したとき、マクシミリアンの父と鉢合わせする格好になってしまって、少し戸惑いながらも挨拶をする。

 マクシミリアン父は、息子が初めて連れてきたガールフレンドに目を細め、歓迎するが、どうも既視感があるらしい。

 「マクシミリアンの父です。お嬢様とは以前、どこかでお会いしたような気がするのですが?気のせいでしょうか?」

 その言葉にマクシミリアン様は、ククク。とお笑いになる。

 「親父、廊下の肖像画のせいだよ。」

 「?」

 初代リングのご夫妻、マクシミリアンとミッシェル夫婦の肖像画が廊下に掲げられている。シャルパンティア家始まって以来の子だくさん夫婦で、その数なんと25人!

 絶倫マクシミリアンの異名を持つ、ご先祖様の夫人とそっくりなのだ。

 「ああ。本当だ。本当に、そっくり瓜二つとは、まさにこのことを言う。という典型だな。」

 「うわっ。世の中には自分とそっくりな人が3人はいると、聞いておりますが……、でも、ご先祖様であれば、カウントされないかもしれませんわね。でも、この肖像画、我が家にも似たようなものがございましてよ?」

 「へっ!?よりにもよって、そんな偶然……、もしや、これは必然かもしれないね。」

 「出会うべきして、出会ったとか?うふふ。まさかね。」

 応接間で、一緒にお茶を飲み、その後、図書館へ行く。

 今度は、ミッシェルが図書館に入った途端、既視感を感じる。

 「ここ、前に来たことがあるような気がする。」

 「えっ!?本当か?」

 「確か、この辺に……背表紙が綺麗な本があって、……っ……あったわ。見つけた。」

 「何?これ?ちょっと、親父を呼んでくるね。」

 マクシミリアンは、執事を通して、宰相を呼びに行く。

 バタバタと廊下の走る音が聞こえ、ミッシェルがその本をシャルパンティア家の当主に見せるように持つ。

 「前にここに来た既視感があり、本を見つけました。肖像画よりもさらに、ご先祖の遺言本だったような記憶があります。」

 「へー!遺言本か……?そういえば、伝承本にそんな記述を観たことがある。昔、もう200年以上にもなるが、シャルパンティア家は、魔法師団長をしていた家でもあるのだよ。その時の当主が亡くなる前に埋蔵金か宝の山をこの屋敷内に隠したという話が載っていたのだが、誰も、その遺言、本?を見つけることができなかったと聞いておる。それをミッシェル嬢が見つけてくれるとは、これもご先祖様のお導きかもしれないな。」

 実は、ミッシェルは前世の記憶持ちで、その記憶は乙女ゲーム云々とは、何ら関係がなく、前世の名前は忘れてしまったが、宰相の長男と結婚してから、聖女に覚醒したというものであった。

 「では、これより地下室の扉を開けます。心の準備は、よろしいでしょうか?」

 「……。」

 ゴクリと生唾を飲み込む音だけが聞こえる。

 ミッシェルは、背表紙が綺麗な本の1ページを開き、そこに書かれてある古代語をスラスラと詠み始める。

 突如、ギギギーという音とともに、図書室の一角に地下室へと通じる階段が現れ始めたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

りーさん
恋愛
 マリエンヌは淑女の鑑と呼ばれるほどの、完璧な令嬢である。  王子の婚約者である彼女は、賢く、美しく、それでいて慈悲深かった。  そんな彼女に、周りは甘い考えを抱いていた。 「マリエンヌさまはお優しいから」  マリエンヌに悪意を向ける者も、好意を向ける者も、皆が同じことを言う。 「わたくしがおとなしくしていれば、ずいぶんと調子に乗ってくれるじゃない……」  彼らは、思い違いをしていた。  決して、マリエンヌは慈悲深くなどなかったということに気づいたころには、すでに手遅れとなっていた。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...