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聖女マーガレット

2 リリアーヌ

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 リリアーヌは苛立っていた。

 「おかしいおかしい。いくらなんでも遅すぎる。」

 あの卒業パーティの日、まんまとマーガレットを嵌め、国外追放にしたまでは、良かったのだが、その後、リチャードが

 「ちょっと出てくる。」と言ったまま、どこかへ姿を消したのだ。いくら待っても帰ってこないから、仕方なく、その夜は、男爵邸に帰ったわよ。

 いったい、いつになったら、私を妃として、国王陛下に紹介してくれるのよ。

 リチャードを誑し込むために、どれだけ私が涙ぐましい努力をしたと思っているのよ。王太子と同じクラスになるため学園関係者と何度も寝た。リチャードには、媚薬を使ったわ。最初は、リチャードの側近どもと寝て、それからリチャードに近づいたのよ。みんな私が使う媚薬にメロメロになったわ。

 その媚薬を手に入れるため、父の友人とも寝たわよ。ま、元はと言えば、その友人に犯されて手に入れることになったんだけどね。

 学園で私にイタズラをしていたのは、マーガレットの取り巻き令嬢よ。大した虐めでもなかったから、いいようなものだけど、それをリチャードに大げさに吹聴したら、リチャードが勝手に激怒したのよ。愛されているって、思ったわ。だって、私のために、あんな風に怒ってくれるんだもん。

 本当は、マーガレットを死罪にしてほしかったんだけど、リチャードはそれだけは「うん。」とは言わなかったわ。なぜかしらね。ただ、「もっといい方法がある。俺に考えがあるから任せておけ」って言ったのよ。

 それが輪姦だったとは、リリアーヌもまさか想像していなかったことである。

 単なるマーガレットを抱きたかっただけかもしれないが。

 翌朝になったら、騎士団の奴らが、家の前にいて、私はなぜか、地下牢に放り込まれたのよ。昨夜の卒業パーティでマーガレットを冤罪に嵌めたことがバレたみたい。

 イタズラをした令嬢が、卒業パーティに出席していたので、目の前でマーガレット様が拘束されたことがショックで、両親とともに「イタズラをしたのはわたくしです。」と自首してきたことから、発覚したのである。

 そのイタズラの内容も、国外追放になるような代物ではなく、靴箱にカエルのおもちゃを仕掛けた程度のものだったことから、お咎めなしとなったのである。

 地下牢は、思ったよりカビ臭くじめじめしていたのだ。リチャードが戻ってきてくれたら、こんなところからすぐに出られる。少しの辛抱だからと自分に言い聞かせる。

 出席者全員から証言が取れたって、あいつら未来の王妃になんてこと言うのよ。私が王妃になれば、みんな首を刎ねてやる!

 それにしても、リチャードの帰りが遅い!リチャード、口では私のこと、愛しているとか言いながら、実のところまだマーガレットに未練があったのか?

 確かに私よりは、少しだけマーガレットのほうが美人だけどさ。でもカラダは断然、リリアーヌのほうがイイって言ってくれていたのに。

 そうこう思っていると、牢番が来て、「明日朝に処刑する。」と言ってきたから、驚いたわよ。

 「何でよ、リチャードに会わせなさいよ!こんなこと、リチャードが知ったら、アンタなんか、ただでは済まないわよ!」

 「殿下はすでに、廃嫡されておる!聖女様を陥れた罪だ。観念しろ!」

 「へ?聖女様って誰よ?」

 「マーガレット・ミラーボーン公爵令嬢様だ。」

 「ウソよ!マーガレットが聖女様のはずはないわ!」

 だって、リチャードから聖女様は処女でなければ覚醒しない。と聞いていたから。

 「俺はマーガレットと既に味見を済ませている。」

 あれは、殿下の嘘だったのね。殿下の見栄というべきか?

 とにかくマーガレットは、1000年ぶりに地上に現れた聖女様ということで、今、世間を賑わせているのだ。

 どうあがいたって、リリアーヌに勝ち目はない。

 「あーあ、ついてない。よりにもよって、マーガレットが聖女だなんて、思わなかったわ。聖女になるような子だから、私を虐めてこなかったのね。それじゃ死罪になっても仕方がない。」

 リリアーヌは、さっさと諦めた。おそらくリチャードはもう戻ってこないであろう。昨日の今日で、もう廃嫡になったかどうかは、怪しいものだが、リチャードが戻ってこないことは分かったのである。

 「リチャード様、いい夢を見させてもらったわ。マーガレット様とお幸せにね。」

 リリアーヌの最後の言葉である。享年18歳。

 リリアーヌが地下牢に放り込まれ、処刑されるまで、わずか一日であったが、リリアーヌの親の男爵はついに一度も娘の姿と会おうとはしなかったのである。

 男爵は、リリアーヌを自分の子供とは、思っていなかったようだ、どう見ても似ていないから。男爵は若い頃付き合っていた女がいた。その女がリリアーヌの母親なのだが、その女が死んだ後、リリアーヌを引き取ったものの、一度も我が娘と思ったことがない。

 リリアーヌも男爵になつかず、なぜか男爵の友人と仲良くしていたのだ。その友人は、男爵と年齢がかわらなかったが、リリアーヌには優しく接しているように見えた。だから余計、自分の娘だとは思えなかったのだ。

 きっと、あいつがリリアーヌの父親に違いない。男爵は、そう思っていたのだ。

 リリアーヌも悲しい運命に翻弄されていただけなのかもしれない。
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