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 翔君が江戸城に自動行燈の工事に入る時、助っ人として神河さんと神田川さんが付くことになった。

 それについて問題になるのは、太陽の光を集めること、一番いいのは、江戸城の天守閣の屋根に太陽光パネルを取り付けることだが、とび職でもない3人にできるはずがない。

 庭園に就航パネルを設置したいといえば、五郎中から、あっさりと許可が下りる。

 不振や修復を行った大工たちも興味津々で協力を申し出てくる。お大尽でなければ、かなわないような自動行燈のおこぼれにあずかりたいという狙いで、こぞってやってくる。

 ホームセンターで買ってきたばかりのパネルを組立てていく。将軍様の目通りがかなったときは、もっといろいろ詮議されるものとばかり思っていたが、結局のところ、将軍様も幕閣も原理という原理はよくわからず、聞くのも武士の恥だと決めつけて、さも知っていた風を装いたい。それで詮議らしきものは一切割愛して、いきなりの受注となってしまったのだ。

 受注額は1万両にも及ぶ大金が動くわけだが、利権は狙えない。それで江戸に藩邸があるところは、すべて翔君たちに協力的で、少しでも大普請に加担したとの実績を幕府に対して示し、行いたいのである。

 だから、お茶の一杯でも淹れてくれるというわけだ。

 3人には、頭からスッポリと檸檬が結界を張ってあるから、何かあっても大丈夫だと思う。

 別にお茶の中に毒が入っているなんてことを疑っているわけではない。どこにいても結界に異常があると、檸檬のところに何らかの知らせが来るようになっているだけのこと。

 今日の体育の授業で檸檬は、社交ダンスを選択する。少しやれば、前世で覚えたステップが甦る。

 そういえば、お妃教育で鞭でぶたれながらも、頭の上に本や水の入ったワイングラスを乗せられ姿勢を正す稽古をよくさせられたものだ。

 おかげで大学の授業では、先生から褒められるほど、誰よりも上手い。それどころか、ダンスの選手権があるから、出てみないかと先生から勧められるが、競技ダンスの経験はない。

「いやいや、我が家はどちらかと言えば、和の文化でございますれば、ご容赦のほどを」

 いくら固辞しても、先生は一歩も引かない。ついに伝家の宝刀?と言うほど、大げさではないが学生結婚して、妊娠していることを打ち明けたら、ようやく先生は諦めてくれたのだ。

「それにしても残念だわ。上垣内さんは、姿勢がすばらしくいいのよ。どんな体勢になっても姿勢が崩れないことは、天性のものなのかもしれないわね。子供を産んだら、知らせてくれる?エントリーに間に合えば、まだ可能性はあるわ」

 まだ諦めてくれない。冗談じゃないわよ!姿勢がいいのは、前世のお妃教育の賜物だって言うのよ!

 まあ、それはともかくとして、授業終わりの茶行くが聞こえたので、その場はお開きとなる。

 更衣室で着替えて、帰り支度をしていると、何やら胸騒ぎがしてきた。

 ん?結界に何か当たった?翔君の結界かどうかは、わからない。なんせ、3人の男たちに同時に張ったものだから。

それで急いで、日本橋まで行き、倉庫の扉を潜り抜ける。

 一応、隠ぺい魔法をかけて透明人間になっていくことにした。現代の女子学生の風体では、怪しまられること100%請け負うことができるので。

 神河さんだけは、道場着のようなものを着ているが、後の二人は南蛮人のようないでたちだけど、将軍様から、特別にお許しいただいているので、誰もおかしな恰好だと、とがめだてられていないみたい。

 結界に異変があったのは、やっぱりというか、なんというか、神田川さんが奥女中を口説いていたから。奥女中といえども、相当数の人数が、くのいちとして、潜伏している。どうやら、神田川さんが口説いている奥女中は、くのいちだと思われる。

 なぜなら、普通なら、いくら女好きの神田川さんが口説いても、普通の奥女中では反応しない。結界が反応するということは、物理的に危害を加えられそうなときと、何らかの悪意のある者が、結界に触れた時のいずれかだからである。

 見た感じ、神田川さんに危害を加えられているという感じには見えない。相変わらず、自称イケメンは鼻の下を伸ばしている。

 神田川さんの傍に近づき、耳元で「カノジョさんに言うわよ?」というと、ビクリとして、辺りを見回している神田川さんの額には、一筋の光るものが流れている。

 愛想笑いに替えた神田川さん、奥女中は収穫なしと言った態で神田川さんから離れていく。

 檸檬は、翔君の傍に行き、「何か手伝えることある?」と言うと、「おう!」少し考えるそぶりをして、「吹雪に天守閣の屋根に太陽光パネルを張ってもらえないか」と聞いてきた。

 まあ、確かにサルの姿なら、天守閣の屋根でも楽に張れるかもしれないけど、吹雪は、子ザルの姿で、一日に張れる量は知れていると思う。

「お任せくだされ、檸檬様ぁ、我が天守閣の屋根にひとッとびして、張ってまいりましょうぞ!」

 すっかり目を輝かせた吹雪が、檸檬の持つトートバッグから飛び出してくる。

 最近は、隼人とトートバッグに入っての移動にご機嫌で、前みたいに檸檬にまとわりつかなくなったことが、少々寂しい。

 吹雪に新しい仕事が与えられたことを隼人が知ると、これまた嫉妬からか、

「我にも仕事を仰せつかりたい!我も、空を飛ぶことができますゆえに、そのぱねるとか申すものを張る手伝いをしとう存じます」

 そういってもねぇ、空飛ぶ白鹿を江戸城の天守閣に上げることなんて、そもそもが難しいのでは?

 檸檬が躊躇している間に1頭と1匹は、さっさと空高く舞い上がってしまう。そうか、その手があったわね?檸檬は、江戸城に舌の会から階段で上がることばかりを考えていたのだ。だから、空を飛んでいくという発想がなかったのと、ここ最近、身重になったことで浮遊魔法を全然使っておらず、忘れていた。

 檸檬は、現場監督として、翔を伴い、天守閣付近の上空へ舞い上がる。

 いつも落ち着いている脳筋男の神河さんが、地上で叫んでいる。

「おい、待て!俺たちも連れて行け!」

 再び、地上に降り立った檸檬は、太陽光パネルを異空間にしまい、さらに二人にも浮遊魔法をかける。

 こうして、男3人と女1人、それに猿と白鹿は空中に舞上がった。

「お!これなら、俺達でもパネルを張ることができるのではないか?」

「檸檬、身重なんだから下で俺たちの活躍を見ていてくれてもいいんだぜ?」

「そうしたいのは、山々なんだけど、誰が浮遊魔法を操作できるって、話になるわよ?」

 吹雪は、修験者の姿でパネルを張っていく。隼人もまた、リーゼントに革ジャン、革パンで一昔前の暴走族のようないでたちで、手早くパネルを見よう見まねで設置して言っている。

 それを建築士のごとく、翔君が一枚ずつ目視で確認をしている。

 神河さんと神田川さんの東大生コンビは、二人して、相談しながら作業を進めているみたい。いったい、何の相談をしているのかしら?

 作業は、あっという間に終わったが、時刻は間もなく日が暮れようとしている。

「さあ、帰るわよ」

 声をかけ、日本橋の宇治屋を目指す一行、通りすがりの人々の口から

「なんだ!あれは?」

 振り向くと、先ほどまでいた江戸城がライトアップされていたのだ。

「きゃぁっ!知らないわよ?こんなこと、勝手にして、怒られるんじゃないの!」

 驚きの声を上げている檸檬をしり目に、東大生コンビは笑いながら、うそぶいている。

「喜んでくれると思うけど?」

 その言葉通り、翌日、上機嫌の上様からさらなるご褒美を頂いた。
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